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才能ホルダー  作者: 雨宮結愛
第2章
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『ノレッジワールドオンライン』



時は数日前に遡る。

夏休みが近付き、皆有頂天に盛り上がりを見せる中、ある噂が語られていた。


才人高校が管理する人工知能が、システムから抜け出したという噂だ。


各高校が管理するバーチャルデバイスという機械がある。

簡単に説明すると、咲島が持っている教育用デバイスの正規版だ。

主に試験などで活用されているそのデバイスから、何故かオンラインでアクセス出来る領域が現れた。

それが___


「あぁ、【ノレッジワールドオンライン】通称【KWO】の事だろう?」


ノレッジワールドオンライン。

その人工知能が造ったとされるバーチャルオンラインゲームの名称だ。

現代では、バーチャル空間をその場に展開する技術が限界だと言われていたのだが、意識をバーチャル世界に送るだなんて聞いたこともなかった。

噂を聞き、咲島に確認するとどうやら本当のようで、面倒くさそうに頭を掻く。


「他の管理からの依頼でね、まだ管理外の私が引き受けたって訳だ」

「マジか...」

「あっ、これ秘密事項だから誰にも言うなよ。君には特別に教えただけなんだから」

「特別?俺になんか関係あんのか?」


秘密事項や特別という言葉に単純に引っかかりを感じ返した質問だったが、咲島は隣でお菓子を食べている西円寺の頭を撫でると、無邪気に、楽しそうに笑って言う。


「西円寺君を連れて行こうと思って」

「西円寺を、連れて...行く?」

「あぁ、そうさっ」


夏休みの期間中を利用し、西円寺に腕試しをさせようという事だろうか。

それと俺に何の関係が___


「急に西円寺君が居なくなったら、ナルミー不安になっちゃうかと思って」

「だ れ が 、不安になるって?」


何故俺が西円寺ごときと離れただけで不安にならなきゃいけないのか。

あり得る訳がない。

誰かこのアホ教師に教えてやってくれ。

そもそも、


「夏休み中は学校ねぇんだから、実際会わないだろ」


と、現実を叩きつける。

そう、夏休みだからと言って学業を休む訳ではない。

これでも毎年忙しいのだ。

西円寺に構っている時間など無い。


「...夏休み」


俺たちの会話に反応したのか、ダラっと西円寺は机にへたりつくとそう呟く。

口もとにお菓子の食べカスを付け、頭が回らないのか喉を鳴らし脱力していく。


「...なんか、ちから、出ない」


不満そうに口を尖らせ、スティック菓子をポキポキと食べる。


「ナルミーのせいで元気なくなっちゃったじゃないか」

「俺のせいなの?!」


あきらかに機嫌を損ねた西円寺の頬を、咲島は指でツンツンしながら頬杖をつく。

されるがままの西円寺は、不機嫌さが増したのか次に煎餅を噛み砕いた。


「という訳だからコレを頼むよ」


そんな事など気にもせず、咲島が懐から取り出したのは白い封筒。

宛先は書かれておらず、中身には折りたたまれた用紙が入っているようだった。


「んだよ、これ」

「時が来たら開けてくれ。まぁ、開ける前に戻って来るのがベストだけど」


「ふーん」


まぁ、


「却下だけど」

「そう言うと思ったぜまったく」


予想どうりだ、と咲島は両手を挙げて呆れる。

薄く開いた瞳からは鋭い眼光が覗き、緊張感が喉を締め付ける。


「あんまり思い上がるなよ少年?足手まといは大人しく待っていなさい」

「足手まといじゃなきゃ良いんだな?」


一足早く理解した西円寺がむくっと起き上がると、気合の入った鼻息を漏らす。


「お前を倒す切り札、ここで切らせてもらう」


「なるほどね。わかったよ。んじゃ、お望み通り西円寺君に勝ったら連れて行く。勝負日程は明日!これで良いな」


「おう!今度こそぜってぇ勝つ!」







「んじゃ、私達はノレッジワールドオンラインにダイブする。しばらく西円寺君を借りるけど、寂しくて泣くなよ」

「泣かねぇよっ!!」


先ほどの白い封筒を受け取り、保健室を出て行こうとする二人を見送る。

負けたのだから仕方がない。

と、自分に言い聞かせる。


「...ねぇ、ナルミー」

「お前までその呼び方...」


西円寺は振り向くと、無愛想な顔でジッと見つめてくる。

再び保健室に戻って来ると、そのまま進行し、俺の胸元で___


「...ふんっ!」

「ふがっ!!」


飛び上がり、顎に頭突きを喰らう。


「...ねぇ」

「何だよ」


痛みに涙をこらえながらも西円寺を見下ろすと、覗き込んでくる瞳。


「...今、何を考えてる?」

「今ってそりゃ___ 」


溢れ出す敗北に対する感情。

その喉まで出かけた言葉を無理矢理飲み込み、頭を振って消し去る。

西円寺が言いたいのは、そんな事じゃないだろ。

馬鹿か俺は。


「___ お前に、勝つ方法」

「...わかってるなら、いい」


口角を上げ、微かに笑う西円寺はそのまま振り返り立ち去っていく。

なんて、酷な話だ。

それでも、


「帰ったら教えろよ」

「...ん」


この足を止める暇は無い。

次は負けないと、心に刻みながら見送る俺はふと思う。

アイツの笑った顔、初めて見たな、と。


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