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才能ホルダー  作者: 雨宮結愛
第2章
15/18

『全力』



画面をスクロールしタップしていく。

攻撃の行き先は、もはや目で追う事は無い。

目を回しながら選択した問題は、大した難易度ではなかったからだ。

案の定、完成と同時に崩れ去って消えていく問題文を横目に、接近中の向こうの攻撃を破壊する。

これでは駄目だ。

それなりの難易度でないと時間稼ぎにもならない。

集中力を上げ、眼球に全神経を注ぐ。

画面を流れていく問題文を選別し、放つ。


「これならどうだっ!」


___これは、学王に搭載されている対人戦ルールである。

前回やった時の親決めは無く、単純に相手に着弾させライフをゼロにすればいいだけのゲームになっている。

一問一分、弾数が三の設定であれば、一分間かけて着弾する問題を三問放つ事ができ、一分間のチャージ後再度攻撃する事が出来る。

しかしこのゲームの通常設定では、何度やっても西円寺に勝つ事が出来なかった。

そこで俺が用意したのが、学王最速モードである。

最速モードを設定して対戦すると、問題が相手に着弾するまでの時間が十秒という鬼畜ゲーに変貌し、反射神経もそうだが、単純な知識量の勝負に出来る。


「...この程度なら、十秒も要らない」


それでも西円寺にダメージを与えるのは困難だ。

西円寺の知らない計算式ぐらいでしかダメージを与えられないし、十秒という攻防の中で問題を選択するのは中々難しい。

それに、知っていようが知らなかろうが、中途半端な問題だと西円寺は自力で解いてしまう。

正直言ってレベルが違う。


「そろそろ限界なんじゃねぇか?」

「...別に」


飛び交う問題は互いの間で弾け飛ぶ。

互いにライフはあと僅か。

一撃でも喰らわせば勝てる___


「うおっ、来たぜオイっ!」


画面に捉える超難問。

それも二問。

これはさすがに十秒じゃ対処出来ない。

西円寺の放つ問題を捉え破壊し、チャージタイムの隙に二問同時に放出する。

歪む西円寺の表情を確認し、俺は勝利を確信した___


その瞬間、


「は?」


時間が止まった。


「...まだ勝たせない」


自分自身の身体はおろか、空間までもが静止する。

西円寺の具現化された解読経路が高速で羅列していき、世界が数字で埋め尽くされていく。


「なんつー思考速度だよ...」


これが、西円寺の見る世界なのか?チートにも程がある___


「...解読完了」


西円寺の眼の前で弾ける問題文。

もう何が起こったのかすらわからない。

放心し、呆気に取られていると、いつの間にか放たれていた問題文が俺に着弾した。


「だああぁっ!勝てねぇっ!」


着弾しライフがゼロになると同時に俺は地面に倒れ込んんだ。

真っ白な空間は溶けていき、さっきまでの保健室に戻っていく。


「惜しかったねぇナルミー」

「変な名前付けんじゃねぇ」


咲島に起こされ、椅子に腰掛ける。

西円寺はすでに座っており、準備されていた和菓子をモグモグと食べていた。

そんな西円寺にまとわりつくように咲島は抱きつくと、頭を撫で回す。


「誇っていいぞナルミー」

「あ?負けたのに?」


過程がどうあれ負けは負けだ。

それに最後のあの現象、一体何が起こったのか。


「あぁ、あれはね、西円寺君の全力が反映した結果だね。機械が追いつかないから、止まったかのように錯覚したんだよ」

「機械が追いつかないって...どんだけだよ」

「超高速思考に同時処理能力。それも最大四重処理をこの子は可能にするからねぇ」

「本当に人間かよ...」


自信のあったスピード勝負だったが、戦う土俵を間違えたようだった。

おそらく、速度で西円寺を超えられる奴はいない。


「なんで先生との勝負の時、それ使わなかったんだよ」

「...疲、れる、から」


かなり疲れた様子の西円寺が、その言葉の意味を体現していた。

明らかに疲弊している。

そこまで消費する全力を、何故今ここで使ったのだろうか。


「だから、誇れよナル吉」

「もはや誰だよそれ」

「西円寺君に本気を出させる奴なんて、そうそういないんだぞ〜」


咲島は、そう言いながら西円寺を更に撫で回す。

西円寺はそれが心地いいのか、幸せそうに目を細め、喉を鳴らす。


「ていうか、そもそも西円寺君が一騎打ちで負けたところ一度も見たこと無いし」

「それマジか...」


一度も負けた事が無いとか、どんな最強設定だよ。

と、呆れながら笑いをこぼしていたが、妙な違和感に意識が持って行かれる。

咲島はまるで、今までずっと、西円寺の事を見てきたかのような発言をしている。

西円寺がまるで、今までこのような勝負をしてきたかのような発言をしている。

それは、つまり___


「もしかして、二人は知り合いなのか?」

「さぁ?どうだろうね」


曖昧にはぐらかされると、咲島はすぐさま手を叩き話を切り替える。

勝負が始まったキッカケである本題に。


「さて、ということで成宮君はお留守番だ。教師として、将来を失う可能性に巻き込む訳にはいかないからね」



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