『対等』
「...王手」
「ぐあ...」
あれから数週間が経ち、俺と西円寺は昼休みになると保健室に来てボードゲームをするようになった。
今まで何度も勝負してきたが、未だに一度も勝てた事がない。
どうやら、戦況が毎回変わるこの不規則なゲームたちでは、西円寺の上を行く事が出来ないみたいだ。
いや、だからと言って勝ちを諦めている訳では無いのだが。
「もう一回!」
「諦めが悪いんだね成宮氏は。自分の得意分野で勝負すればいいじゃないか」
横で見ていた咲島が、俺の連敗していく様に飽きれてしまったのかそんなことを言う。
確かに、規則性のあるゲームや記憶力が活きるゲームならば、運次第でなんとか勝つ事が出来るかも知れない。
しかし俺はそれを、勝ちだと思わない。
「運ゲーで勝ったって意味はない」
「でも、そこが君の勝ちどころだろうに」
「最終的に勝ち越せばいいんだよっ」
西円寺とはいえ、いつか戦術のパターンは底を尽く。
そこからが俺の反撃ターンなのだ。
「おや、鐘が鳴ったな。んじゃさっさと授業行きなさい」
西円寺の王手手前、授業が始まっちまうのならば仕様がない。
「じゃあ引き分けって事で!」
「...逃がさない」
パチンとしっかり王将を詰まし、保健室から出て行く西円寺。
容赦がない。
「俺、戦略ゲーム向いてないみたいっすね」
「いやいや、かなりいい線いってると思うぞ?相手が悪いだけだ」
「あはは...受け入れ難い話だ」
モヤモヤした気持ちを抱えたまま、俺は保健室を後にした。
教室手前、数週間前に廊下に貼り出された試験の結果が目に入る。
全教科満点で同率一位だった俺と西円寺の名前が並んでいる。
こんなテストじゃ、本当の実力なんて測れやしないんだと最近知ってから、少し気持ちに焦りを感じるようになった。
西円寺からしたら俺も他のやつと変わらない雑魚なのだ。
隣に置かれたって場違いでしかない。
「やべっ、授業始まっちまう」
開始まであと数分しかない事に気付き慌てて教室に入ろうとするが、西円寺の周りに男女のグループが固まっており、足が止まった。
「西円寺さんって可愛いし頭もいいし凄いよねー!ねぇ今日ウチらと帰ろうよ」
「いつもファミレスで勉強会してるんだよ、男子達もいいよね?」
「そりゃいいに決まってんじゃん!」
仲間の勧誘みたいだった。
西円寺は目を細くし、むーんと考える。
そんな西円寺を可愛いと言って抱き付いて頭を撫でる女子。
なんだかんだクラスに馴染めているじゃないか。
「私たち西円寺さんと仲良くなりたいの!昼休みとかも一緒にご飯食べよ?」
「いーねー!」
「あ、でも昼休みいつも成宮と咲島先生のところ行くんだっけ?」
「成宮なんかいーじゃん!あいつ変だし関わらないほーがいいよ!」
「俺も成宮はやめといた方がいいと思うぜ?俺らとつるむ方が絶対楽しいって!」
「いいかな?西円寺さん」
「...私は______ 」
遠ざかる西円寺の声。
なんで俺は廊下を走っているんだろう。
階段を駆け上がり、誰もいない教室に入り倒れこむ。
授業開始の鐘が鳴ってしまったが、しばらくしてから俺は身を起こした。
「俺は何をしてんだよ...」
別に西円寺が誰と一緒にいようが関係ないじゃないか。
それなのに俺は何故、あの場から逃げ出してしまったのだろうか。
自分勝手に勉強している俺は、普通に考えて変なやつなのだ。
自覚しているし、別に悪い事だとも思っていないから、何を言われたって構わない。
今までだってそうやって生きてきた。
と、いう事は。
「西円寺がどう返事するのかを、聞くのが怖かったって事か...?」
なんでだろうか。
よくわからないが、西円寺の存在が、少しばかり俺に影響を与えているという事なのか?
「告白でもしたのか?成宮君」
「してねーよっ!ってなんで先生が」
背後から現れたのは、先程まで一緒にいた咲島だった。
扉に肘をつき、足をクロスさせて立っている。
「いやぁ、階段を駆け上がる生徒を見かけたもんでね。また、サボりか?」
「結果的に、そうなるな...」
近寄ってきた咲島は隣にしゃがみ込み、俺の肩に腕をまわす。
病院と似た、アルコール臭が香った。
「俺みたいな何でもない人間が、一緒に居るなんてよくないよな」
「そんな事はないぞ?対等で在りたいと願う君自身を、否定しちゃいけない」
言葉は続く。
「そもそも、難しく考える必要はない。一緒にいたいかどうか。ただそれだけなんだから」
そう言って立ち上がると、用があると言って疾く疾くと去って行く咲島。
去り際一言。
「まぁ西円寺君は、そんな理由で人を選ぶような人間じゃないよ。彼女はちゃんと、自分に正直な人間だ。じゃーな、成宮少年!」
そんな事を言われたが、俺は深くは考えなかった。
理解が付いていけないとも言える。
「...はぁ、サボろ」
戻るのも気が進まず、俺は放課後までこの誰も居ない教室で時間を潰した。




