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美少女が家族になった話  作者:


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ペアリング②

「……ねえ、悠くん」


七海が少しだけ上目遣いで俺を見上げてくる。その瞳には、先ほどまでの激しい怒りとは違う、柔らかな甘さが溶け出していた。


「ん? なんだ?」


「悠くんって……なにかやってたの?あの時、一瞬で男の人を制圧しちゃって……ちょっとびっくりしちゃった……」


「うーん……しっかりした訓練とかは受けてないんだけど」


俺は少し気恥ずかしくなって、自分の後頭部を軽く掻いた。


「そうだよね。悠くん、運動とか……あんまり得意なイメージなかったから」


七海の問いかけに、俺は少しだけ迷ったあと、正直に話すことにした。


「……実はさ、昔、友達に護身術を少しだけ教えてもらったことがあってさ」


「えっ、そうなの!?」


七海は目を丸くして俺の顔を覗き込んだ。


「うん。……その、正直に言うと……。いつか彼女ができたら、その人をちゃんと守れるような男でありたいなって」


「そうだったんだ」


「そう。まさか使う機会が本当に来るとは思わなかったけどね。……あの時の理想を語ってた俺に、心の中でちょっとだけ感謝してるよ」


俺が苦笑いしながらそう言うと、七海はふにゃりと嬉しそうに目を細めた。


「ふふっ、なんだかカッコいいよ、悠くん。……当時の悠くん、グッジョブだね!」


「……次はそうなる前に近くにいるからね」



そんな会話を交わしながら歩いていると、やがて視界の端に、先ほどまで向かおうとしていたジュエリーショップの看板が捉えられた。高級感のある佇まい、ショーケースに飾られた豪華な指輪たち。

俺は一瞬だけ足を止め、そこを見つめた。今日、七海を連れて行くつもりだった場所だ。


「……七海」


俺がふと足を止めたことに気づき、彼女も立ち止まる。


「ん? どうしたの?」


「……いや、今日のところは、ジュエリーショップに行くのはやめようと思って」


俺の言葉を聞いた瞬間、七海の表情からスッと笑みが消えた。彼女は不安げに俺の顔を覗き込み、瞳を揺らす。


「えっ……? どうして? もしかして、気が変わっちゃった……? さっきの出来事で、私との買い物……嫌になっちゃった?」


彼女の声が少しだけ震えている。その様子を見て、俺は慌てて首を横に振った。


「違う、全然違うよ。逆なんだ」


「……逆?」


「ああ。さっき雑貨屋でペアリングをはめた時、七海の指のサイズとか、どういうデザインが好きかとか、なんとなく分かってさ……だから本来の目的は達成できたというか」


俺は彼女の右手をそっと取り、薬指でキラリと光る小さなリングを指先でなぞった。


「指輪贈るのはもう言っちゃってサプライズできないから、せめて七海に一番似合うもの考えて贈りたいなって思って」


俺の言葉をじっと聞いていた七海の瞳から、不安が消えていく。代わりに、温かい光が宿った。彼女は小さく安堵の息を吐くと、俺の胸元にそっと額を押し当てた。


「……なんだ、そういうことかぁ。びっくりした……。誕生日のやつ無くなるのかと思って、心臓止まるかと思ったよ」


「……そんなわけないだろ」


七海はクスクスと笑いながら顔を上げた。その顔は、先ほどまでの不安が嘘のように晴れやかで、いつもの小悪魔的な輝きを取り戻していた。


「あはは、ごめんごめん。……でも、悠くんが私のために真剣に考えてくれてるんだって分かったら、なんだかすごく嬉しい」


七海は俺の指を絡め取り、そのまま歩き出そうと俺の手を引く。


「じゃあ、今日はジュエリーショップには行かないとして……。悠くん、この後どうしよっか?」


彼女は少しだけ上目遣いになって、悪戯っぽく、でもどこか厳かな響きを込めて言った。


「……ジュエリーショップじゃなくて、ランジェリーショップにする?」


「……は? な、なに言ってんだお前は」


俺が思わず吹き出しそうになりながら突っ込むと、彼女は俺の耳元に顔を寄せ、くすぐったい吐息とともに囁いた。


「だって、せっかく二人きりなんだから……そういうのもありかもね。悠くんが選んでくれたやつ、着てあげてもいいよ? ……ただし、帰ってからのお楽しみ、だけどね」


七海はクスクスと笑いながら、俺のシャツの裾を指先で弄ぶ。彼女の瞳には、俺を翻弄してやろうという悪戯っぽい期待が満ちている。人混みの中でそんな大胆なことを囁かれて、俺の理性がまたしても危ういラインを越えそうになる。


「……七海!」


「あはは、悠くんの顔、すっごく面白い! そんなに真っ赤にして、私をどうしたいの?」


彼女は俺をからかうように笑いながら、さらに距離を詰めてくる。


「で? どうする? 本当にランジェリーショップ行く?」


俺は少しだけ呆れながらも、どうしようもなく愛おしいという気持ちを隠しきれず、小さく笑った。


「……本気で言ってる?」


「ふふっ、どうかな。悠くん次第だよ?」


彼女は俺の胸の上で肩を揺らして笑う。俺はわざとらしく溜息をついてから、彼女の頬を指先で軽くつついた。


「いや、今は行かない。……さっきも言ったろ? 」


「……えーっ、そうなんだ。残念……」


七海はわざとらしく唇を尖らせてみせるが、その瞳の奥には嬉しそうな光が宿っている。


「じゃあ、気を取り直して。七海は行きたいところある? 」


俺がそう尋ねると、七海は少しだけ考え込むように視線を宙に浮かせた。それから、またしても俺の顔をじっと見つめてくる。


「うーん……そうだなぁ。……逆に悠くんは、欲しいものとかある? 」


「俺か? ……そうだな。これから暑くなるし、そろそろ夏服が欲しいとは思ってたけど」


俺が何気なく答えると、七海の顔がパッと太陽のように輝いた。


「夏服かあ! いいね! それにしよう!」


「え? いいの? 本当に俺の買い物でいいのか?」


「いいの! ……だって、悠くんにはもっともっとカッコよくなってほしいもん。私がコーディネートしてあげるんだから、覚悟してね!」


彼女は俺の指を握り直し、先ほどまでの誘惑的な雰囲気から一変して、今度は張り切った様子で俺を引っ張ろうとする。


「ねえねえ、どんなのがいいかな? 爽やかなシャツもいいし、少し大人っぽいセットアップも捨てがたいし……うーん、悠くんの背丈なら、あれも似合いそう!」


七海は既に頭の中で俺の着替えをあれこれと妄想しているらしい。


「じゃあ七海のセンスに全部任せようかな。……その代わり、最高にカッコいいやつを頼むぞ」


「もちろん! ……任せておいて。悠くんが一番輝く姿、私がプロデュースしてあげる!」


そう言って、七海は弾むような足取りで服飾店の並ぶエリアへと俺を引っ張っていった。

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