休日デート
翌朝、カーテンの隙間から差し込む日差しが、昨夜の甘い余韻を追い払うようにリビングを満たしていた。朝食を終え、食器を片付けていた俺の背中に、七海が後ろからそっと抱きついてくる。
「悠くん」
「ん? どうした?」
「今日、お出かけしようよ。デート」
七海は俺の腰に腕を回したまま、顔を覗き込んできた。昨夜の激しい情熱が嘘のような、あどけない笑顔。だが、その瞳の奥には、俺を翻弄するような小悪魔的な光が宿っている。
「デート? ……えっと、どこに行く? 今日は家でゆっくりするつもりだったけど……」
俺が少し戸惑いながら尋ねると、七海は俺の背中で身体を揺らしながら、楽しそうに笑った。
「うーん、そうだね。大きなショッピングモールに行きたいな。お買い物もしたいし、夏に向けて水着も買いたいの。……悠くんと一緒に選びたいな」
その言葉に、俺の心臓が大きく跳ねた。七海の水着姿を想像し、顔が熱くなった。
「……み、水着か。いいけど、俺が選んでもいいのか?」
「もちろん。……悠くんが一番見たいものを、着てみたいんだ」
七海は顔を上げ、悪戯っぽく俺の背中から離れると、目の前でくるりと回ってみせた。
「わかった。じゃあ、お昼は……あ、そういえばあそこに有名なパンケーキのお店があるよね? そこに行こうか」
俺の提案に、七海はパッと顔を輝かせた。
「パンケーキ! いいね、ふわふわのやつ食べたい! ……じゃあ、決まりだね。雑貨屋さんでペアの小物も見たいし、少しコスメも新調したいな」
七海は楽しそうに今日の予定を書き出していく。その間にも、彼女の体は少しずつ俺に密着し、昨夜とは違う「日常の中の甘さ」を伝えてくる。
「……なぁ、七海」
「ん?」
「好きだよ」
俺が少し照れながら言うと、七海は耳まで真っ赤にして「ふふっ」と笑った。
「悠くんってば……そんなこと言われると、私、ドキドキしちゃうよ」
七海は照れくさそうに、でも愛おしげに俺の胸元に顔を埋めた。その温もりがシャツ越しに伝わってきて、俺の心拍数はさらに加速する。俺は彼女の背中に腕を回し、その髪を優しく撫でた。
「じゃあ準備しよっか」
俺がそう言って彼女の肩を軽く叩くと、七海は名残惜しそうにしながらも、パッと表情を明るくして顔を上げた。
「うん!じゃあ、私着替えてくるね。悠くんも、準備して!」
「ああ、分かった」
俺は自分の部屋へ戻り、クローゼットから一番清潔感のある白いシャツを取り出した。
準備が済んでからしばらくして、リビングから「悠くん、できたよ」という声が聞こえた。
俺がリビングへ向かうと、そこにはいつもとは違う雰囲気の七海が立っていた。タイトなワンピースが、彼女の柔らかな体のラインを綺麗に際立たせている。あまりの美しさに、俺はその場に立ち尽くした。
「……悠くん?」
七海が少し不安そうに俺を見つめ、自分の服の裾をぎゅっと摘んだ。
「……どうしたの? 何か変だった?」
その仕草に我に返り、俺は慌てて首を振った。
「いや……あまりに可愛くて、言葉を失ってただけだ」
俺の正直な感想に、七海の頬がみるみるうちに朱色に染まっていく。彼女は照れ隠しのように俯き、小さく呟いた。
「……ありがとう」
俺は彼女の元へ近づき、その華奢な肩に手を置いた。彼女がまとっている優しい香りが、鼻先をくすぐる。
俺は視線を逸らさず、真剣な眼差しで彼女を見つめた。
「今日は、ずっと俺から離れないでいてくれ」
俺の予想外の言葉に、七海は驚いて目を大きく見開いた。
「え……?」
「……可愛すぎて目立つから。変なやつが近づいてこないように」
七海は一瞬きょとんとした後、俺の言葉の意味を理解したのか、先ほど以上に顔を赤くして、嬉しそうに俺の腕に絡みついてきた。
「……もう、悠くんってば。……うん、分かった。ずっと離れない」
そう言って俺の腕を強く抱きしめる彼女の温もりに、俺は胸がいっぱいになる。
「エスコートよろしくね。悠くん」
外に出ると、初夏の強い日差しが降り注いでいた。
二人で駅の改札を抜け、ホームで電車を待つ。ほどなくして入ってきた電車に乗り込み、空いていた席に並んで座った。
「……楽しみだね」
七海が小さく呟き、俺の膝の上にそっと手を重ねてきた。繋いだ指先が驚くほど熱い。
「ああ。そうだな」
「……まずはショッピングモールで水着を見て、そのあとパンケーキを食べて、雑貨屋さんも回って……」
七海は楽しそうに今日の予定を復唱しながら俺の肩に頭を預けてきた。その重みが、彼女の存在をリアルに伝えてくる。
「……七海」
「ん?」
「さっき言ったこと以外に、あと一つだけ、どうしても行きたいところがあるんだ」
俺が少し声を潜めて言うと、七海は肩を揺らして顔を上げ、不思議そうに俺を見つめた。
「……行きたいところ? ショッピングモールの中のこと?」
「うん」
「どこどこ!」
彼女は目を丸くして、好奇心で瞳を輝かせている。その純粋な表情を前にすると、少しだけ気恥ずかしさが込み上げてくるが、俺は勇気を出して言葉を続けた。
「……ジュエリーショップに、寄ってもいいか?」
車内の喧騒が遠のいたような気がした。七海は一瞬、きょとんとして動きを止めたが、すぐに俺の意図を察したのか、顔を真っ赤に染めて唇を噛みしめた。
「……っ、それって」
「……もうバラしちゃったからね。だったら好みのものを知りたいなって」
彼女の潤んだ瞳が俺を真っ直ぐに見つめ返す。電車の揺れに身を任せながら、俺たちは無言のまま、互い手を強く握り合った。
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