表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
美少女が家族になった話  作者:


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/51

悠の聖域

「じゃあ家をよろしくね」



玄関先で両親を見送り、重厚なドアがバタンと閉まる音が響いた瞬間、俺たちの「二人だけの三日間」という、甘く密やかな時間が幕を開けた。


「……行っちゃったね」


「うん。……なんだか、さっきまでと空気が違うみたいで、急に心臓がドキドキしてきたよ」


七海が俺のシャツの裾を、まるで迷子のようにぎゅっと掴む。その控えめな上目遣いに、俺はさっきの抱擁の余韻を鮮明に思い出して、また顔が熱くなる。両親がいないこの広い家は、どこか閉鎖的で、俺たちの距離を物理的にも心理的にも、限界まで近づけてくれるような錯覚に陥らせた。


リビングのソファに腰を下ろし、俺は躊躇いながらも七海を膝の上に乗せた。恥ずかしさで耳まで赤くしながらも、七海は素直に俺の首に細い腕を回し、その華奢な体を全面的に委ねてくる。


「……悠くん、大好き」


「……俺もだよ。世界中で、誰よりも」


愛おしさがこみ上げ、俺たちは他愛ない話をしながら、時折くっついたり、抱きしめ合ったりして過ごした。窓の外には夕闇が迫り、部屋の照明を少し落としたリビングには、二人だけの甘い熱気が充満していく。

しかし、七海は時折、意識がどこか上の空になっているようだった。俺の背後にある大きな本棚の方に、不安げで、でも何かを探るような視線をチラチラと向けている。


(……何か、気になる本でもあるのかな?)


俺は彼女の背中を撫でながら、何気なく尋ねた。


「どうかしたか? そんなに本棚を見て」


「えっ?! な、なんでもないよ! ただ、本が並んでるのが綺麗だなって思って……」


七海は肩を跳ね上げ、明らかに挙動不審な態度をとった。視線は泳ぎ、指先で俺のシャツを無意識に弄っている。


「……そ、そうか? 最近触ってないから少し埃っぽいかもしれないけど」


「そ、そうなんだ!」


彼女のあまりの不自然さに、俺は一抹の違和感を覚えた。だが、今のこの甘い空気を壊したくなくて、それ以上追及することを避けた。

その時、静寂を切り裂くように、俺のスマホの着信音が響いた。画面には『大学研究室』の文字が踊っている。


「……え、大学から? 」


俺は眉をひそめながら通話ボタンを押した。


「……はい、もしもし。はい、悠です。……え、今からですか? いや、その……はい。……分かりました。すぐに行きます」


電話の向こうから聞こえる教授の声は焦燥しきっており、断れる空気ではなかった。通話が終わった瞬間、リビングの空気が冷めた。七海は不安そうに俺の顔を見つめていた。


「どうしたの? 悠くん」


「……ごめん、七海。大学の研究室に急なトラブルで呼び出されちゃったんだ……データが飛んだとかで、どうしても今すぐ来てくれないかって」


「今から……? そっか……」


七海の瞳に、みるみる寂しさが浮かんでいく。その潤んだ瞳を見ていると、背負ったリュックを投げ捨てて彼女を抱きしめたくなった。


「本当にごめん。……すぐ片付けて帰ってくる。それまで、待っててくれるか?」


俺は七海の頬を優しく撫でた。七海は少し寂しげに、でも健気に微笑んで頷いてくれた。


「分かった……。気をつけて行ってきてね。……私、お家でおとなしく待ってるから……あ!」


「どうしたの?」


「な、なんでもない! ちょっと、忘れ物を思い出しただけ!」


彼女はさっきよりもさらに動揺しているように見えた。俺は不思議に思いつつも、時間がない焦りから、七海を一度強く抱きしめ、急いで身支度を整えた。

玄関に向かう俺の背中を見送りながら、七海は胸の中で大きく息を吐き出していた。


(この際だから……お義母さんに教えられた「あの場所」をチェックするしかない)


悠くんがいない今こそ、隠された秘密を確認する唯一無二のチャンスだった。

俺は大学への道を急ぎながら、なぜか背筋がゾクゾクする不吉な予感に襲われていた。





(七海視点)


玄関のドアが閉まり、静寂が家の中を満たす。悠くんの足音が遠ざかり、完全に姿が見えなくなったことを確認してから、私は大きく息を吐き出した。

心臓がうるさいほどに鳴っている。期待と、背徳感と、そして大好きな人の秘密に触れることへの言いようのない高揚感。


「……ごめんね、悠くん」


私は小さく呟くと、すぐさま彼の部屋へと向かった。

寝室に入ると、そこには彼が普段過ごしている気配が色濃く残っていて、それだけで頬が熱くなる。お義母さんが教えてくれた言葉を脳内で反芻した。


『本棚の右から三番目。一番下の段。分厚い辞書の裏』


逸る気持ちを抑えながら本棚へ歩み寄り、一番下の段に腰を下ろす。辞書を指先で少しずつずらしていくと、その奥から小さな木の箱が姿を現した。


「……あった」


手に取った箱はずっしりと重い。

恐る恐る蓋をゆっくりと開ける。そこには、漫画本や、小さな冊子がギッシリと詰め込まれていた。


「……うわっ、すごい量。悠くん、こんなに溜め込んでたんだ……」


中身を手に取ってみると、ページをめくる手が止まらなくなる。表紙には過激なタイトルが並び、中身も想像していたよりも遥かに「大人」な内容だった。

大学生と高校生が織りなす危うい恋の物語や、同棲するカップルの甘く激しい日常。ページをめくるたびに、私の顔は火を噴くように熱くなっていく。特に、女の子が男の子を積極的にリードして翻弄する展開の漫画が、何度も読み返した形跡があるのか、ページが少しだけくたびれていた。


「……悠くんって、本当に結構エッチだったんだ」


赤面しながら呟いたけれど、不思議と嫌悪感は湧かなかった。むしろ、安心した。


「悠くんもちゃんと男の子なんだね」


箱の中身を確認すればするほど、彼がどんな刺激に弱くて、どんなシチュエーションに胸を焦がしているのかが手に取るように分かってきた。


(あ、この漫画の女の子の雰囲気、どこか私と似ている)


そうか、そういうことか。


「……なるほど。これが悠くんの……性癖なんだ」


確かに少し恥ずかしいけれど、でも……悠くんは、私に対して決して強引なことはしなかった。私が望むかどうかも分からないのに、自分の欲望を押し付けようとはしなかった。


「悠くんは、こういう目的で私を選んだわけじゃなかったんだもんね……」


むしろ、私を大切に想うあまり、自分の中のそんな「男の子の部分」を必死に抑え込んでいたんだ。そう思うと、胸の奥から熱くて甘い感情が込み上げてくる。

彼はヘタレなんじゃない。私を愛しているからこそ、不器用になってしまうんだ。


「これ……もし私が、漫画の女の子みたいに仕掛けたら、悠くんはどんな顔をするんだろう」





(悠視点)

「ひぃっ……!」


大学の研究室で、唐突に襲ってきた寒気にも似たゾクゾク感に、思わずその場に立ち止まって声を上げた。


「ど、どうしました?」


前にいた後輩の男子学生が、不思議そうに俺の顔を覗き込んでくる。俺は自分の肩をさすりながら、困惑したように首を振った。


「いや……いきなり背筋がゾクゾクして」


「大丈夫ですか?じゃあ早く終わらせて早く帰りましょう」

読んでくださってありがとうございます。

面白いと思っていただけたら、

★評価やブックマークで応援していただけると更新の励みになります!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ