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第7話:十五歳の帰還と、壊れた測定器


 北の魔山を降り、王都の土を踏んだとき、俺を包む空気の密度が変わったのを感じた。

 

 七年。

 長かった。だが、その月日は俺を「人間」という枠組みから、別の何かへと変えていた。

 

「……アラリック。お前、本当にアラリックなのか?」

 

 騎士団長室で再会した父バルガスが、椅子から立ち上がったまま硬直している。

 目の前にいる息子が、かつての幼い神童ではなく、大陸中の龍をすべてほふってきたような絶大な覇気をまとっているからだ。

 

「はい、父上。ただいま戻りました」

 

「その気配……。お前、レベルはいくつになった?」

 

「……さあ、どうでしょうね」

 

 俺は視界の端で、自分のステータスを流し見る。

 

 ――――――――――――――――――――

 名前:アラリック・フォン・レオンハルト

 年齢:15

 レベル:88

 称号:【龍を喰らう者】【概念の守護者】【不屈の闘鬼】

 ――――――――――――――――――――

 

 レベル88。

 伝説の英雄ですらレベル60程度とされるこの世界で、俺はもはや「歩く戦略兵器」に近い。

 すべては、今日という日のために積み上げてきた力だ。


       ◆


 王立魔法学園、入学式。

 

 豪華絢爛ごうかけんらんな大講堂は、着飾った貴族の子弟たちで埋め尽くされていた。

 俺が会場に入ると、周囲の喧騒が波が引くように静まり、次の瞬間、黄色い悲鳴に変わった。

 

「……あの方、誰?」

「レオンハルト卿の嫡男よ。数年ぶりに戻られたんですって……なんて涼やかな目元」

 

 女子生徒たちの熱烈な視線を、俺は事務的に受け流す。

 前世で言えば、取引先の新入社員歓迎会に、本社から伝説のやり手マネージャーが殴り込んできたようなものだ。浮かれている暇はない。

 

「アラリック! 親友よ、待っていたぞ!」

 

 騒がしい声と共に、赤い髪をなびかせた青年が駆け寄ってきた。エドワード王太子だ。

 十五歳になった彼は、随分と背が伸び、自信に満ち溢れた表情をしていた。

 

「修行で僕を置いていくなんて水臭いぞ。だが、その間に僕も強くなった。見てくれ、レベル15だ! 学年でもトップクラスだぞ!」

 

 自慢げに胸を張るエドワード。

 ……レベル15。

 

(……中学生が「逆上がりに成功したぞ!」と報告してきている気分だ。まぁ、年相応には頑張ったんだろう。よしよし)

 

「素晴らしいですね、殿下。努力の賜物です」

 

 俺は完璧な営業スマイルで彼を褒める。

 

「だろう? さぁ、次はお前の番だ。新入生の『測定の儀』が始まるぞ!」


       ◆


 新入生が一人ずつ、演壇に置かれた巨大な魔力測定の水晶に手をかざしていく。

 

 エドワードがレベル15を叩き出し、会場は喝采かっさいに包まれた。

 そして、俺の番が回ってくる。

 

(……さて。どれくらい抑えればいいんだ、これ)

 

 俺は極限まで魔力を絞り、指先を水晶に触れさせた。

 

 ――ピキッ。

 

 触れた瞬間、嫌な音がした。

 水晶の内部が激しく発光し、不気味な黄金色の光が溢れ出す。

 

「な……なんだ!? 水晶が……耐えきれていないのか!?」

 

 教師陣が悲鳴を上げる。

 次の瞬間、ドォォォォォォォォォン!! という爆音と共に、水晶は粉々に砕け散った。

 

 静まり返る大講堂。

 

「……すみません。少し、手が滑ったようです」

 

 俺は砕け散った破片を見つめながら、平然と告げた。

 会場は「測定不能の魔力……!?」「機械の故障か?」とパニックになったが、俺はさっさと演壇を降りる。


 その時。

 

 会場の入り口から、一人の少女が入場してきた。

 

 誰もが息を呑むほどの、絶世の美女。

 銀糸のような髪。氷細工のように整った容姿。

 公爵令嬢、セラフィナ。

 

 周囲の生徒たちは、その寄せ付けない威圧感に「やはり氷の令嬢だ」「悪役令嬢そのものね」と囁き合う。

 

 だが、俺の目は彼女の胸元に釘付けになった。

 

 そこには、俺が七年前に贈ったあの『オムライスの髪飾り』が、精巧なブローチとして大切に仕立てられ、誇らしげに輝いていた。

 

(……あぁ。美緒……!)

 

 彼女と目が合う。

 セラフィナの冷徹な瞳が、一瞬だけ潤み、唇が小さく「パパ」という形に動いた。

 俺は、彼女を抱きしめたい衝動を必死に抑え込み、騎士の礼を捧げた。


 ――だが、その感動は、式の最後に登壇した「ある少女」によって一変した。


「新入生特待生、聖女アリシア」


 壇上に現れたのは、男爵令嬢アリシア。

 彼女が微笑んだ瞬間、会場中の男たちが、まるで魂を吸い取られたように熱狂的な拍手を送り始めた。

 

 アリシアが、会場を見渡す。

 そして、唯一彼女に熱狂していない俺を見つけると、獲物を定めるような、湿った視線を投げかけてきた。


(…………っ!?)


 その瞬間、俺の全身を激しい悪寒が走った。

 

 獲物を狙い、利用し、骨までしゃぶり尽くす、あの毒蛇のような目。

 魅了チャームの魔法に載せて送られてくるその「不快な甘さ」は、前世で俺と娘を地獄へ突き落としたあの女――聖子のものと、魂のレベルで合致した。

 

(……吐き気がする。こいつ、やっぱり……!)

 

 前世のトラウマが蘇り、胃の辺りが激しく拒絶反応を起こす。

 隣のエドワードは、すでに鼻の下を伸ばしてアリシアに見惚れている。

 

 ふと、俺はセラフィナ(美緒)を見た。

 

「…………」

 

 彼女は、表情を一切崩さず、壇上のアリシアを睨みつけていた。

 

 嫌悪感。さげすみ。そして、はっきりとした敵意。

 

 それは単なる「悪役令嬢としての嫉妬」などではない。

 大嫌いな異物を見つけた時の、美緒の顔だ。

 

(……そうか。美緒、お前も感じているんだな)

 

 娘のあの表情を見て、俺は確信した。

 あのアリシアという女は、俺たち父娘にとっての共通の「敵」だ。

 

 アリシアの『魅了』が、俺に向かってさらに強まる。

 俺の髪を一房、舐めるような視線。

 

 俺は、無意識にレベル88の魔圧を、ごく僅かに解放した。

 

「……なっ!?」

 

 アリシアの顔が、一瞬だけ恐怖に引きる。

 

(ふざけるな、聖子。……いや、アリシア)

 

 俺は、冷え切った目で彼女を見据えた。

 

(お前の好きにはさせない。前世で俺たちからすべてを奪ったその汚い手で、二度とあの子に触れさせるものか)

 

 学園生活の初日。

 父と娘、そして毒母の、二度目の地獄……いや。

 

 俺たち父娘による「最強の反撃」が、ここに幕を開けた。



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