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第二十三話:他国の『エース』たちの来航

学園祭開幕の前日。

 王立魔法学園の正門前は、大陸各地から集まった豪華な馬車と、それを取り巻く物々しい護衛騎士たちで溢れかえっていた。

 

 俺は正門横に設置された「総合受付」のデスクに座り、『実行委員長』と書かれた腕章を巻いて、淡々と事務処理をこなしていた。

 

「……はい、帝国からの親善使節団ですね。こちらの入館証を着用してください。武器の持ち込みは演習場以外では禁止です」


「……おい。お前が、噂の『レオンハルトの神童』か?」


 デスクを叩く音が響いた。

 見上げれば、金髪を派手に逆立て、これ見よがしに豪華な魔剣を腰に下げた少年が、俺を見下ろしていた。

 

 ガルド帝国。軍事国家として知られる隣国の第一皇子、レオン。

 彼の背後には、同じく自信満々な表情を浮かべた帝国のエリート学生たちが控えている。


「……失礼ですが、後ろがつかえておりますので、速やかに移動をお願いします」


「ふん。……驚いたな。王国最強だの、龍を屠っただのと聞いて来てみれば、ただの『受付係』か。腕章を巻いて、ちまちまと書類仕事とはな……。王国の誇りはどうした?」


 レオンが鼻で笑う。

 彼のレベルは30。この若さにして、王国のベテラン騎士に匹敵する、まさに「帝国の至宝」と呼ばれるにふさわしい強さだ。

 だが。


(……レベル30。……まぁ、中学生が部活の県大会で優勝して調子に乗っているようなものか。可愛いな)


 俺の中身は三十八歳の元・社畜だ。

 理不尽な顧客のクレームに比べれば、十代の少年の挑発など、そよ風のようなものだ。


「誇りでは腹は膨らみませんので。……それよりも皇子、入館証の裏に記載された『学園祭の注意事項』は熟読しておいてください。特に『立ち入り禁止区域』に入った場合、魔法障壁によって自動的に排除されますので」


「……排除だと? 面白い。僕がその障壁ごと叩き斬ったらどうする?」


 レオンが、威嚇するように腰の魔剣に手をかけた。

 周囲の空気がピリつく。

 一般の生徒たちが恐怖で顔を青くし、壁際にいた『見守る会』のメンバーたちが「……あら。アラリック様の事務作業を邪魔する不届き者が……」「消去デリートされますわよ?」と殺気を漏らし始める。


 レオンが、煽るように剣を数センチ引き抜いた。


「どうした。黙り込むとは、やはり腰抜けか――」


「――そこまでにしてください」


 俺の声ではない。

 俺の隣に座り、恐ろしい速度で会計報告書をまとめていたセラフィナ(美緒)が、静かに顔を上げた。


「……あ?」


「パパ……いえ、アラリック委員長は今、分刻みのスケジュールで動いておりますの。あなたのつまらないプライドに付き合っている時間は、一秒たりともありませんわ。……お引取りを」


 セラフィナは、冷徹な眼差しでレオンを一瞥した。

 

「なんだ、この女。……美しいが、生意気だな。……おい、アラリック。この女、お前の婚約者か?」


「いえ。……俺の『魂の契約むすめ』です」


「は? ……何を言って――」


 レオンが呆れたように笑い、さらに剣を抜こうとした。

 

 その瞬間。

 俺は、ペンを動かしたまま、魔圧を――針の先ほどに凝縮し、レオンが握る魔剣の鞘にだけ、ピンポイントで叩き込んだ。


 ――パキン。


 乾いた音が響く。

 レオンが引き抜こうとした魔剣の刀身が、鞘の中で粉々に粉砕され、柄だけが虚しく抜けた。


「…………え?」


 レオンが、手元に残った「柄だけ」の剣を見て固まる。

 

「……おっと。失礼。その魔剣、少し劣化していたようですね。……セラフィナ、備品の『忘れ物預かり証』を出してくれ。修理代はこちらで持ちましょう」


「ええ、パパ。……でも、故意に壊したわけではありませんから、半額負担でよろしいかしら?」


 俺たちは、顔も見合わせずに事務作業を再開した。

 

 レオンは、震える手で柄を握りしめ、冷や汗を流しながら俺を見つめていた。

 彼は気づいたのだ。自分が抜こうとした瞬間、目にも留まらぬ速さで「何か」が自分の剣を破壊したことに。

 そして、それを行ったのが、目の前で事務作業をしているこの「受付係」であることに。


「……お、お前……今、何を……」


「……早く移動してください。営業妨害ですよ」


 俺が少しだけ瞳を黄金色に光らせると、レベル30の帝国のエースは、蛇に睨まれた蛙のように、一歩も動けなくなった。


「レ、レオン殿下!? どうなされましたか!」


 慌てて駆け寄った帝国の従者たちに抱えられ、レオンは逃げるようにその場を去っていった。


「……ふぅ。パパ。あんなガキ、放置しておけばよかったのに。剣を壊してあげるなんて、パパは優しすぎるわ」


「……これでも抑えた方だ。……さて、次は聖騎士団の到着か。……美緒、あいつらは『オムライス』を知らないだろうから、パンフレットを多めに配っておけ」


「ええ、分かったわ。……パパ、お仕事が終わったら、肩揉んであげるからね」


 セラフィナは、俺の肩に頭を預けて甘い声を出す。

 

 それを柱の陰で見ていた『見守る会』のメンバーたちは、感涙にむせんでいた。


「(……見ました!? 今のアラリック様の、あの『作業のついでに敵を粉砕する』余裕!!)」

「(……パパみが深すぎて、もはや神話ですわ……! 帝国のエース(笑)を一瞬で事務的に処理されるなんて……!!)」


 他国のエースたちが続々と集結する中。

 

 俺は「実行委員長」という最強の盾を使い、彼らを事務的に、かつ圧倒的に「処理」していく準備を整えた。

 

 ――平和だな。

 

 俺は、折れた剣の破片をゴミ箱に(魔力で)放り投げながら、明日から始まる「本物の祭」に備え、最後の一束の羊皮紙に判を押した。



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