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23.柔軟特訓

 次の日。


 私は玄関の近くで待ち構えていた。


 目的は一つ。


 ゆいさんの帰りを捕まえることだ。


 しばらくすると、階段を上がってくる足音が聞こえた。


「あ、あやめちゃん?」


 帰ってきたゆいさんが、少し驚いた顔をする。


「ゆいさん、ちょっと」


 私は真顔で呼び止めた。


「な、なに?」


「今日から対魔王戦の特訓をしたいので付き合ってください!」


「特訓?」


 ゆいさんは首をかしげる。


「お風呂上がりに伺うのでよろしくお願いします!」


「え?」


 言うだけ言って、私は自分の部屋に戻った。


 そして夜。


 お風呂に入って体を温めたあと、タオルを首にかけてゆいさんの部屋へ向かった。


 コンコン。


「ゆいさん」


「はいはい」


 ドアが開く。


「本当に来たのね」


「当然です」


 私は部屋に入る。


「まずはストレッチです」


「ストレッチ?」


 私は床に座った。


「対魔王戦に必要なのは体力だけじゃありません」


「柔軟です」


「柔軟?」


「はい」


 私は真剣に説明する。


「私たちは若いので体力は充分です」


「足りないのは」


「怪我をしないための柔軟」


「それと」


「こけないためのバランスです」


 ゆいさんは少し呆れた顔をした。


「……なるほど?」


「なので」


 私は足を広げた。


「開脚」


「いきます」


「え、いきなり?」


 私はぐーっと体を倒す。


「ふぐぐぐ……」


「ちょ、ちょっと」


 ゆいさんも隣で真似をする。


「うぐぐぐ……」


 二人で黙々とストレッチ。


 しばらくして。


「次」


「ブリッジです」


「ブリッジ!?」


 私は仰向けになる。


 手と足をついて、体を持ち上げる。


「よいしょ」


 ぐいっと反る。


「おお」


 ゆいさんが言う。


「柔らかいわね」


「新聞配達で鍛えてます」


「関係あるのそれ?」


「たぶん」


 ゆいさんもブリッジする。


「……」


「……」


「いだだだだ」


「無理しないでください」


「腰が!」


 私は笑った。


「次は肩」


 腕を回す。


 肩甲骨を動かす。


「これも大事です」


「魔法少女は体が資本です」


「魔法少女なの?」


「一応」


 さらにストレッチ。


 前屈。


 開脚。


 背中。


 股関節。


 ぐーっと伸ばす。


「うぐぐぐぐ」


「のびる……」


 ゆいさんが変な声を出す。


「いい感じです」


 私も声が出る。


「ひゃ……」


「ぐぅ……」


 二人とも、女の子が出したらダメそうな声を出しながら柔軟していた。


 しばらくして。


「……」


「……」


 私たちは床に転がった。


「疲れた」


 ゆいさんが言う。


「柔軟なのに?」


「柔軟ですから」


 私は天井を見る。


「これを」


「毎日やります」


「え」


 ゆいさんが固まる。


「毎日?」


「はい」


 私は頷いた。


「魔王戦がありますから」


 ゆいさんはしばらく黙ったあと、ため息をついた。


「……仕方ないわね」


「付き合うわよ」


 私はにこっと笑った。


「ありがとうございます」


 そして宣言する。


「では」


「明日もお願いします」


「毎日なのね……」


 ゆいさんの小さな声が聞こえた。

 

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