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イフリート  作者: 野口プレシオサウルス太郎
第3章 ラク・ヴィリーブ
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95.ラクvs時の竜王②



「ああああああああああ!!!!」


クロスの巨大な斧が、ラクの鎖骨付近に深々と食い込んでいた。


刃が肉を抉り、傷口から鮮血が噴き出す。


プシュッ! プシュッ!


血が飛び散り、ラクの服を赤く染めていった。


「ああああああああああああああ!!!」


ラクは絶叫した。


全身に力を込めるが、激痛がそれを許さない。


目の前がチカチカと明滅する。


それでも、クロスは容赦しなかった。


「ははははははははは!!!」


ラクの苦しむ姿を見下ろしながら、クロスは高らかに笑った。


「ははははははは!! よくわかったか! 貴様じゃ俺に歯向かう価値すらないんだよお!!」


「ああああああああああああああ!!!」


「ははははははははは!! 足掻け! 苦しめ!」


クロスは愉快そうに叫ぶ。


まるで、目の前の男をいたぶることそのものを楽しんでいるかのようだった。


「そして死ね、ヘタレカスがあ!!」


クロスはそう吐き捨てると、空いている手を腰へと伸ばした。


そして、そこから一丁の銃を取り出す。


カチャリ。


銃口がラクへと向けられた。


ラクは必死に顔を上げる。


だが、体が動かない。


斧による傷と、これまでに受けた銃弾の痛み。


もはや、立っていることさえままならなかった。


「…………っ!」


クロスの指が引き金にかかる。


そして。



――バァンッ!!


乾いた銃声が響き渡った。


銃弾は、ラクの左胸部に命中した。


「…………あがっ!!」


ラクの体がびくりと跳ねる。


呼吸が詰まり、口からかすれた声が漏れた。


「ははははははははは!!!!」


クロスは笑い続けた。


「…………が……!」


ラクの膝から、力が抜けていく。


もう、立っていられなかった。



――ドサッ!


ラクは地面へと倒れ込んだ。


「……………………」


静寂。


先ほどまで響いていた銃声も、クロスの笑い声も、遠くへと離れていく。


ラクの視界がぼやけ始めた。


地面が揺れているのか、自分の意識が揺れているのかも分からない。


指先の感覚が薄れていく。


体が、ひどく重かった。


「…………」


声が出ない。


息を吸うことさえ、苦しくなっていく。


そして、ラクは瞬時に理解した。


(あぁ……死ぬ……)


不思議なほど、簡単に理解できた。


これ以上戦うことはできない。


立ち上がることもできない。


このまま意識を失えば、もう二度と目を覚ますことはないのだろう。


(……敵わない……のか……)


ぼんやりとした意識の中で、ラクは考えた。


こいつの攻撃は、見えなかった。


銃が放たれる瞬間まで、気づくことすらできなかった。


斧が自分の体に刺さった瞬間も、何が起きたのか理解できなかった。


自分の攻撃は、かすりもしない。


どれだけ耳を澄ませても。


どれだけ反応を速くしても。


クロスの姿を捉えたと思った瞬間には、もう別の場所にいる。


(……なんなんだよ……こいつ……)


意識が、さらに遠のいていく。


(……やっぱり……勝てねぇのか……)


時の能力。


時間を止める力。


その能力は、絶大だった。


攻撃を当てることもできず、相手の攻撃を避けることもできない。


こんな能力を相手に、どうやって戦えばいい。


(……完全無欠……なのか……)




……………………………………




いや。


(…………待て)


薄れかけていた思考が、ほんのわずかに動いた。


(…………待てよ)


何かが引っかかっていた。


何かが、おかしい。


(……斧が……刺さる……)


意識が途切れそうになる。


それでも、ラクは必死に考え続けた。


(……銃が……撃たれる……)


頭の中に、これまでの光景が断片的に浮かんでは消える。


クロスの姿。


銃口。


斧の刃。


そして、自分が攻撃を受けた瞬間。


(……あいつの……姿……)


何度も見失った。


何度も攻撃を外した。


そのたびに、クロスはまるで瞬間移動でもしたかのように、別の場所に現れていた。


(…………時を……止める……)


ラクの思考が、そこで止まった。


(…………時を……)


(…………止める……)


……………………………………




「はははは! あぁ、面白かった!」


クロスは笑い終えると、満足そうに息を吐いた。


足元には、ぴくりとも動かないラクの姿がある。


「さあてと。ザディの奴は勝ったかなぁ」


クロスは興味を失ったように呟いた。


そして、ラクに背を向ける。


外の様子を確かめようと、ゆっくりと歩き出した。



――その瞬間。


「があああああああああああああああああ!!」


「……!?」


クロスの肩が跳ねた。


聞こえるはずのない声。


動けるはずのない男の叫び。


クロスは弾かれたように後ろを振り向いた。


そして。


「…………は?」


そこには。


血にまみれ、全身に傷を負いながらも。


ラク・ヴィリーブが立っていた。


拳を握りしめ、クロスを睨みつけながら。


その目には、まだ闘志が宿っていた。

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