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イフリート  作者: 野口プレシオサウルス太郎
第3章 ラク・ヴィリーブ
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94.ラクvs時の竜王①



「かかってこいカス!」


ラクは拳を構え直し、クロスを睨みつけた。


「今の俺は一味違うぞっ!」


威勢よく叫ぶ。


しかし、その視線は一瞬たりともクロスから離れていなかった。


拳を握る手には、じっとりと汗が滲んでいる。


(……なんだ……)


ラクは頭をフル回転させていた。


(……こいつの弱点は……なんだ!)


時の竜王、クロス。


その能力は『時を止める』。


時間そのものを支配し、相手が動けない間に一方的に攻撃を仕掛ける。


こちらがどれだけ速く動こうと、どれだけ強力な攻撃を放とうと、時間を止められてしまえば意味がない。


防ぐことも、避けることも、反撃することさえできないのだ。


その絶大な能力を前に、一度は勝てないと諦めてしまいそうになった。


だが。


今のラクは、もう諦めてなどいなかった。


(……いや、待て……)


(どんな能力にだって、必ず何かあるはずだ……!)


完全無欠の能力など存在しない。


そう自分に言い聞かせながら、ラクは必死に突破口を探していた。



やがて。


「………………」


クロスがゆっくりと起き上がった。


服についた砂埃を軽く払い、何事もなかったかのように首を傾ける。


「……あーあ」


呆れたような声だった。


「…………くそっ!」


ラクは拳に力を込める。


クロスはそんなラクを見つめ、薄く笑った。


「……やっちまったな……お前……」


「………………」


「……あの時、大人しく帰っときゃよかったのにな」


クロスは肩をすくめる。


「………………」


「頭おかしいよ? 歯向かうなんて……」


その口調には、怒りすら感じられなかった。


まるで、目の前の男がこれからどうなるのか、すべて分かっているかのようだった。


そして。


「……この俺にな」


瞬間。


「だらああああああああああああああ!!!」


ラクが吠えた。


――ドォオオオオオオンッ!!


空気が震えた。


ラクの口から放たれた爆音波が、轟音とともにクロスへと襲いかかる。


周囲の砂埃が巻き上がり、地面に転がっていた瓦礫が弾き飛ばされた。


まともに食らえば、ただでは済まない一撃。


しかし。


「………………」


そこに、クロスの姿はなかった。


(……また時を止めた……!)


ラクはすぐさま耳を澄ませた。


視覚だけでは追いつけない。


ならば、音で探る。


足音、衣擦れ、呼吸。


どんな些細な音も聞き逃さない。


それがラクの強みだった。


(……どこだ……!)


一瞬の静寂。


そして。


(……後ろだ!)


ラクは瞬時に振り返った。


「がああああああああああああああ!!!」


――ザンッ!!


ラクの腕が振り抜かれる。


放たれた音の斬撃が、背後の空間を鋭く切り裂いた。


だが。


「…………っ!!!」


またしても、手応えがない。


クロスの姿は、そこにもなかった。


(……くそっ! またかよ!!)


ラクは歯を食いしばり、再び耳を澄ませる。


心臓が激しく脈打つ。


呼吸が乱れる。


一瞬でも気を抜けば、次の攻撃を食らう。


(……どこだ……どこにいやがる……!)


そして。


(……上だ!!)


ラクは勢いよく顔を上げた。


そこには――


銃口をこちらに向けたクロスがいた。


空中から、まるで獲物を見下ろすようにラクを狙っている。


「……死ね、ヘタレカス」


「くそったれえええええええ!!!!」




――バン! バン! バン! バン!


乾いた銃声が連続して響いた。


「……っ!!」


銃弾がラクの体を撃ち抜く。


右足に一発。


腹部に二発。


左肩に一発。


「……ぐっ……!!」


衝撃に体が揺らぐ。


右足から力が抜けかけ、腹部には焼けつくような痛みが走った。


肩から血が滲み、服を赤く染めていく。


それでも。


ラクの視線は、クロスに向けられたままだった。


(……見失うな……!)


痛みに顔を歪めながらも、ラクは歯を食いしばる。


(……絶対に……見失うな……!!)


「だらああああああああああああああ!!!」



――ドォオオオオオオンッ!!


再び爆音波が放たれた。


轟音が空間を揺らし、衝撃波が周囲を薙ぎ払う。


だが。


攻撃が届くよりも早く。


クロスの姿は、そこから消えていた。


「…………ぐっ!!」


ラクの顔が歪む。


(……また、いねぇ……!)


一体、どこへ移動したのか。


後ろか。


横か。


それとも、また上か。


考える暇すら与えられない。


そして、ラクが気づいたときには――


クロスは正面に立っていた。


「……………………」


「……………………」


二人の視線がぶつかる。


ラクは荒い呼吸を繰り返しながら、目の前の男を睨みつけた。


対するクロスは、傷ひとつ負っていないかのように平然としていた。


しばらく、沈黙が続いた。


やがて。


「はははっ。しぶといなあ、お前」


クロスが愉快そうに笑った。


「……!?」


ラクの眉が動く。


クロスは笑みを深めた。


「よおし、完膚なきまでに殺してやろう」


そう言うと、クロスは背中に手を回した。


そして。


ゆっくりと、大きな武器を取り出した。


それは、巨大な斧だった。


刃は鈍い光を放ち、その柄はクロスの背丈ほどもある。


人間が扱うには、あまりにも大きい。


その重量感だけで、まともに振るわれれば命取りになると分かった。


「…………くっ!!」


ラクは思わず息を呑んだ。


クロスは斧を片手で構え、刃先をラクへと向ける。


「これでお前を殺す」


その声からは、先ほどまでの軽薄さが消えていた。


「これを使うのは久しぶりだ」


「…………っ!!」


ラクは反射的に身構えた。


だが。


次の瞬間。


クロスは、目の前にいた。


「…………え?」


あまりにも突然の出来事だった。


いつ移動したのか。


どうやって距離を詰めたのか。


ラクには、まるで分からなかった。




ただ、目の前にクロスがいる。


そして――


斧の刃が、ラクの鎖骨付近に食い込もうとする


いや。


食い込もうとしているのではない。


もう、刺さっていた。


「があああああああああああああああああ!!!」

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