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イフリート  作者: 野口プレシオサウルス太郎
第3章 ラク・ヴィリーブ
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93.信じてる



(……う、嘘だろ……)


毒の竜人、ドクロは尻もちをついたまま、目の前の光景を信じられずにいた。


(お、俺の毒を食らって尚……あんなに動けるなんて……何者なんだ、こいつ……!)


視線の先には、地面に倒れ伏す嵐の竜王ザディの姿があった。


その傍らには、肩で息をしながらザディを見下ろすサブが立っている。


ザディは白目を剥き、ぴくりとも動かない。


決着はついたのだ。


あの嵐の竜王が、目の前の男に敗れた。


(や……やばい……!)


ドクロの額を、冷たい汗が伝う。


(今度は俺が殺される……!)


サブの肩が上下する。


「……はあ……はあ……」


荒い呼吸が、静まり返った戦場に響いていた。


その姿を見たドクロは、ハッと顔を上げた。


(……待て!)


恐怖に染まっていたドクロの表情が、徐々に変わっていく。


(今がチャンスではないか……!)


ドクロは震える体を押して、ゆっくりと尻尾を持ち上げた。


毒々しい色をした尻尾の先端が、サブへと向けられる。


(もう一度毒を食らわせれば……今度こそ、確実に……)


狙いを定める。


サブはまだ、こちらに気づいていない。


(……殺せる!)


「死ねぇおらあ!!」


ドクロが叫び、尻尾を突き出した。


「……!?」


サブが振り向く。


しかし、その瞬間だった。



――パキィンッ!!


ガラスが弾けるような、甲高い音が戦場に響き渡った。


「……え?」


ドクロの動きが止まる。


突き出した尻尾。


その先端から根元にかけて、透明な氷がびっしりと張り付いていた。


白い霜が表面を覆い、尻尾は完全に凍りついている。


「……え?……え?」


何が起きたのか理解できず、ドクロは目を見開いた。


そのとき。


コツ、コツ。


足音が近づいてくる。


ドクロが恐る恐る顔を上げると、そこには一人の少女が立っていた。


キリだった。


「…………えぇ?」


キリはドクロを見つめたまま、表情ひとつ変えない。


その瞳には、冷たい光が宿っていた。


「……死んで」


静かな声が響く。



――パキパキィンッ!!


次の瞬間、氷が一気に広がった。


尻尾から腕へ。


腕から胴体へ。


冷気がドクロの全身を包み込み、瞬く間にその体を凍結させていく。


「…………あがっ!」


抵抗する間もなかった。


ドクロの体は氷に覆われ、そのまま完全に動きを止めた。


「……………………」


静寂が戻る。


そして。



――ドサッ!


サブの体が、力なく地面へと崩れ落ちた。


「……! サブっ!」


キリは慌てて駆け寄り、サブの体を支えた。


「……サブ! 大丈夫?」


サブは荒い呼吸を繰り返しながら、ゆっくりと顔を上げる。


「……あぁ……今は落ち着いている……」


声には力がなく、顔色も悪い。


それでも意識ははっきりしているようだった。


「……良かった……!」


キリは胸を撫で下ろすと、サブの体を支え直した。


「……すぐに戻って、救護隊に診てもらおう…!」


しかし。


「……はあ……」


サブは小さく息を吐き、遠くを見つめた。


「……竜王が……まだいるよな……」


「……!」


キリの表情が曇る。


「仕方ないよ、サブ! 嵐の竜王を仕留めただけでも、十分すごいことだと思う! 今は戻って、立て直そう!」


今のサブに、これ以上戦わせるわけにはいかない。


一刻も早く救護隊のもとへ連れていくべきだ。


キリはそう考えていた。


しかし。


「…………いや?」


「……え?」


思いがけない返事に、キリは顔を向けた。


サブは薄く笑っていた。


「……俺は……そうは思わないぜ?」


「…………え? まだ……戦うの?」


キリが驚いて尋ねる。


だが、サブは首を横に振った。


「……違う。そうじゃない……」


「……どういうこと?」


サブは一度、苦しそうに息を吸った。


そして、静かに口を開く。


「……時の……竜王は……ラクが倒すぜ?」


「……え?」


キリは目を丸くした。


サブは、まるでそれが当然であるかのように続ける。


「あぁ……車の中で、あいつに聞こえるように話したからな……」


「……!」


「……あいつは戦いながらも、弱点を見つけるさ……」


サブはラクの戦い方を知っている。


ただ力任せに敵をねじ伏せるだけではない。


相手の動きを観察し、癖を見抜き、わずかな隙を探し出す。


ラクならば、きっと何かを見つける。


そう信じていた。


「……ラクが?」


「あぁ」


サブは迷いなく頷いた。


そして、キリへと視線を向ける。


「……キリ。大変だろうが……俺を救護隊の方まで戻してくれないか?」


そこで、サブは苦笑した。


「……死んでしまいそうだ」


「……う、うん!」


キリは慌てて頷くと、サブの体をしっかりと支えた。


サブはゆっくりと目を閉じる。


全身が苦しい。


息をするだけでも苦しい。


それでも、頭の中には一人の男の姿が浮かんでいた。


乱暴で、口が悪くて、喧嘩っ早い。


けれど、戦いの中で誰よりも鋭く状況を見極める男。


ラク・ヴィリーブ。


(……頼んだぜ、ラク)


サブは心の中で呟いた。


(……俺は……アイツを信じてる……)






***






一方、その頃。


時の竜王クロスとの戦闘が続いていた。


クロスが放った銃弾を、ラクは紙一重でかわす。


弾丸が頬の横を通り過ぎ、背後へと飛んでいった。


「……っ!」


ラクは体勢を崩しかけながらも、すぐに踏みとどまる。


そして、クロスの姿を睨みつけた。



――今だ。


銃弾を放った直後。


クロスの動きに、ほんの一瞬の隙が生まれていた。


ラクはそのわずかな変化を見逃さなかった。


「おらぁっ!!」


踏み込む。


地面を蹴り、拳を強く握りしめる。


そして――


ドゴォッ!!


「……ぐほぉっ!!」


ラクの拳が、クロスの腹部に直撃した。


「……当たった!」


確かな手応え。


クロスの体が大きく浮き上がり、そのまま後方へと吹っ飛んでいく。



――ドサッ!


クロスの体が地面に叩きつけられた。


ラクは拳を下ろし、相手の様子を窺う。


そして、口元をニヤリと歪めた。


「かかってこいカス!」


ラクは拳を構え直し、声を張り上げる。


「今の俺は一味違うぞっ!」

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