91.エーズvs鎧の竜人
「……ぐはあっ!!」
鈍い衝撃音が響き渡った。
エーズの体が宙を舞い、地面へと叩きつけられる。
「がっ……!」
背中を強打し、肺の中の空気が一気に押し出された。
全身に激痛が走る。
起き上がろうとするが、体に力が入らない。
そんなエーズを、
鎧の竜人
メイル・アーマールは黙って見下ろしていた。
その全身を覆う、鈍い光沢を放つ鎧。
傷一つない。
「………………」
「……くっ、くそ!」
エーズは歯を食いしばり、無理やり体を起こした。
その瞬間。
バリバリィッ!!
雷鳴が弾けた。
「……?」
メイルが目を向けたときには、すでにエーズの姿はそこになかった。
「……っく!」
エーズは全身に雷を纏い、瞬時に距離を取っていた。
地面を滑るように後退し、ようやく足を止める。
「……はあ……はあ……」
荒い呼吸が漏れる。
痛い。
ズキズキと痛む。
地面に叩きつけられた背中が、動くたびに激痛を訴えていた。
「むむむ……」
メイルは首を傾げる。
「すばしっこい上に、しぶといなあ……」
まるで、面倒な虫でも相手にしているかのような口調だった。
「………………」
「………………」
二人は向かい合ったまま、動かなかった。
風が吹き抜ける。
エーズは荒い息を整えながら、目の前の敵を睨みつけていた。
(……くそっ!)
(硬すぎる……!!)
これまで何度も攻撃を叩き込んだ。
拳を振るい、雷を纏わせ、全力で殴りつけた。
それでも。
メイルの体には、傷一つ付いていなかった。
「どうしたの?」
メイルが呑気な声で尋ねる。
「どれだけ攻撃しても無駄だよ?」
「……くそっ!」
エーズは拳を握り締めた。
「早く降参してくれよ……。面倒なのは嫌いだよ?」
「………………」
(……どうする)
(どうすれば、あいつを倒せる……?)
エーズは必死に考えた。
相手は竜人。
しかも、尋常ではない防御力を持っている。
(あの鎧……ただ着ているだけじゃない)
(能力そのものなんだ)
普通の鎧なら、何度も攻撃を受ければ傷くらい付くはずだ。
鉄だって、強い衝撃を何度も受ければ歪む。
なのに、目の前の男は違う。
どれだけ殴っても、傷一つ付かない。
まるで、鎧そのものがメイルの体であるかのようだった。
(……そうか)
(あいつの体自体が、鎧なんだ)
エーズは目を細めた。
(だったら……どうすればいい?)
(どうすれば、攻撃が通る……?)
考えろ。
考えろ。
考えろ……!!
(……鉄?)
「……っ!」
エーズの目が見開かれた。
そうだ。
鉄だ。
あいつの体は、鉄のように硬い。
ならば。
(……電気だ)
その瞬間、エーズの中で何かが繋がった。
ーーーーーーーーーー
鉄は、電気を通す。
ーーーーーーーーーー
頭で理屈を理解していたわけではない。
電気抵抗や、電流が生み出す熱。
そんな知識があったわけでもない。
ただ、雷の能力を持つエーズの本能が、目の前の敵を攻略する方法を直感的に捉えていた。
そして。
考えるよりも先に、体が動いていた。
バリバリィッ!!
「………………!」
メイルの目の前から、エーズの姿が消えた。
「また、やるの? 何度やっても無駄……」
その言葉が終わるよりも早く。
バリィッ!!
エーズはメイルの背後に回り込んでいた。
そして――
ガシィッ!!
「…………え!?」
エーズは、メイルの体にしがみついた。
鎧を両腕で強く抱え込むようにして、離れないように力を込める。
「な、何?」
メイルが初めて困惑した声を上げた。
「おいおい……何するつもり?」
エーズは答えない。
ただ、全身に雷を集中させた。
バリバリバリバリバリバリッ!!!
青白い閃光が弾ける。
激しい雷鳴が周囲に轟いた。
エーズの体から放たれた電流が、しがみついたメイルの鎧へと流れ込んでいく。
バリバリバリバリバリバリッ!!!
「………………」
しかし。
メイルの体に変化はなかった。
鎧は相変わらず鈍い光沢を放っている。
「……何やってんの?」
メイルは呆れたように呟いた。
「そんなことしたって、僕には効かないよ?」
「………………」
エーズは歯を食いしばった。
(……まだだ)
もっとだ。
もっと電気を流せ。
「よく聞いとけ! ヨロイ野郎!!」
「…………?」
メイルが眉をひそめる。
次の瞬間。
バリバリバリバリバリバリバリバリッ!!!
先ほどとは比べものにならないほどの雷が、エーズの全身から迸った。
「勝つのは……俺だ!!」
「…………? ……何言ってん……」
バリバリバリバリバリバリバリバリッ!!!
そのときだった。
「……え?」
メイルの声が止まった。
何かがおかしい。
そう感じたのだ。
「……なんだ?」
鎧の内側。
そこから、じわじわと熱が広がっていく。
「……何か、おかしいぞ?」
バリバリバリバリバリバリッ!!!
電流が流れ続ける。
逃げようにも、エーズがしっかりと体にしがみついている。
振りほどこうと腕を動かす。
だが、その間にも電流は絶え間なく流れ込んでいた。
「……待て」
メイルの声に、初めて焦りが混じる。
「……体が……」
バリバリバリバリバリバリッ!!!
「体が……熱い!!!」
鎧の表面から、かすかに煙が立ち上った。
「…………効いたっ!!!」
エーズの顔に、歓喜が浮かんだ。
今まで何をしても通じなかった攻撃が、ようやく届いたのだ。
「……ぬおおおお!!! やめろおおお!!!」
メイルが叫ぶ。
しかし、エーズは離れない。
「熱い!! 熱いぃぃ!!!」
「もっと浴びせてやるよぉぉ!!!」
バリバリバリバリバリバリバリバリッ!!!
雷がさらに強まった。
青白い光が二人の姿を包み込む。
鎧の表面から煙が噴き出し、焦げたような臭いが漂い始めた。
「ぐおおおおお!!! やめろおおおお!!!」
「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
エーズは叫んだ。
全身に力を込め、最後の最後まで電流を流し続ける。
「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
そして――
バリッ!!
雷鳴が途切れた。
「………………」
静寂が訪れる。
エーズはゆっくりと腕を解いた。
その足元で。
ドサッ!!
メイルの巨体が、地面へと倒れ込んだ。
「……はあ……はあ……」
エーズは肩で息をしながら、倒れたメイルを見下ろした。
鎧の表面は黒く焦げ、ところどころからプスプスと煙が上がっている。
先ほどまで、どれだけ殴っても傷一つ付かなかった男。
その男が、今はピクリとも動かなかった。
「………………」
エーズはしばらく黙っていた。
やがて。
口元が、ニヤリと歪む。
「……ざまぁみろ、バーカ!」




