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イフリート  作者: 野口プレシオサウルス太郎
第3章 ラク・ヴィリーブ
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77.突入①



東の国の都市ヤヤンフーロ。


かつては多くの人々が行き交い、商店や建物が立ち並ぶ、活気に満ちた都市だった。


しかし、今の街にその面影はない。


建物の壁は至るところで崩れ落ち、窓ガラスは粉々に砕け散っていた。


黒く焼け焦げた建物もあれば、屋根が崩れ、骨組みだけを残している建物もある。


道には瓦礫が散乱し、風が吹くたびに砂埃が舞い上がった。


人の声はない。


足音も、話し声も、生活の音も。


かつて人々の暮らしがあった街には、ただ静寂だけが残されていた。




***




ヤヤンフーロの中心部。


崩れた建物の前で二人の男が街を眺めていた。


一人は、時の竜王。

クロス・ハルバード。


そして、その隣に立つのは、嵐の竜王ザディだった。


「うーむ……」


クロスは腕を組み、街を見渡しながら唸った。


「この街、どういうところにしようか……」


「…………」


ザディは黙っていた。


「ラー様の城は今、作ってる最中だし……中庭はこの前作ったしなぁ……」


クロスは顎に手を当て、真剣に考え込む。


「うーん……」


しばらく考えたあと。


「あっ! そうだ!」


何かを思いついたようにクロスが顔を上げた。


「ラー様がずーっと遊んで暮らせる、テーマパークにしよう!」


「…………」


ザディは無言でクロスを見つめた。


そして、静かに口を開く。


「……随分と呑気ですね、クロスさん」


「あ? うるせぇよ」


「いえ……そういう意味ではなく」


ザディはわずかに眉をひそめた。


「そんなことをしていて、本当に大丈夫なのかと聞いているのです」


「あー?」


クロスは面倒くさそうにザディを見た。


「我々がこの街に来てから、かなりの時間が経っています」


ザディは街の奥へと視線を向ける。


「人間たちも、我々竜王の存在を脅威と考えているはずです。竜征軍がこの街の場所を突き止めていても、不思議ではありません」


「長いって……一年もいるわけじゃねぇだろ」


クロスは鼻で笑った。


「それに、仮に場所がバレてたとしても、こんなすぐに攻めてくるわけねぇだろ」


「…………」


「俺らは竜王だぞ?」


クロスは自信たっぷりに言い放つ。


「お前が言ってる、脅威そのものだぞ?」


「……えぇ。言いたいことはわかります」


ザディは静かに頷いた。


「ですが、以前も話した通り……サブ・ストレートという男は、かなりの実力者です」


その表情から、先ほどまでの呆れた様子が消える。


「こちらの居場所が判明すれば、すぐにでも攻め込んでくる可能性があります」


「…………」


クロスは少しだけ考え込んだ。


やがて、興味なさそうに肩をすくめる。


「……まあ、来たら来たで、アイツに任せりゃすぐ死ぬだろ」


「…………」


ザディは何も答えなかった。


そのときだった。


「クロス様ぁぁぁっ!!!」


遠くから、男の叫び声が響いた。


「……ん?」


クロスが声のした方へ顔を向ける。


瓦礫の間を、一人の竜人が必死の形相で駆けてきた。


「……なんだ? そんなに慌てて」


クロスは呑気に尋ねる。


竜人は二人の前まで来ると、膝に手をつき、肩で息をした。


「……はぁっ……はぁっ……!」


「早く言え! このヘタレカスが!」


「……っ!」


竜人は慌てて顔を上げた。


「竜征軍です!! 軍の人間が、この街に奇襲を仕掛けてきました!!」


「……なんだとぉ!?」


クロスの声が響き渡る。


その隣で、ザディは目を細めた。


「……やはり、ですか」


「軍の人数は、百人程度!! 現在、ほかの竜人たちが迎撃しています!!」


「…………」


「……ですが!!」


竜人の顔が青ざめる。


「既に、竜人たちが次々と倒されています!!」


「……はあ!?」


クロスが声を荒らげた。





***





一方、ヤヤンフーロの外縁部。



「うおおおおおおおおっ!!!」


「敵を押し返せぇぇぇっ!!」


「怯むな!! 突き進めぇぇぇっ!!」


街のあちこちから、怒号が響き渡っていた。


爆発音。


建物が崩れる音。


そして、竜人たちの叫び声。


竜征軍が、ヤヤンフーロへの突入を開始していた。


その先頭に立つのは、サブ・ストレート。


彼の背後には、

総勢百二十一名の隊員たちが続いていた。

そのうち、能力者は数名。


圧倒的な戦力を誇る竜王たちが潜む街へ、彼らは恐れることなく足を踏み入れていた。



「お前らぁぁぁっ!!」


サブが声を張り上げる。


「ぶっ倒すぞぉぉぉっ!!!」


『おおおおおおおおおっ!!!』


隊員たちの雄叫びが、街中に響き渡った。


サブは走りながら次々と指示を飛ばしていく。




「ラク!! お前はそのまま中央へ向かえ!!」


「おおおぉっ!!」


ラクは短く返事をすると、進行方向を見据えたまま駆け出した。


「エーズ!! お前はこっちに向かってくる竜人を、片っ端からぶっ倒せ!!」


「はいっ!!」


エーズは力強く返事をし、迫り来る敵へと視線を向ける。


「キリ!! お前は俺についてこい!! 竜王を探すぞ!!」


「…………わかった」


キリは静かに頷いた。


「そのほかの隊員は、それぞれの隊長から指示を受けろ!! 勝手な行動はするな!!」


『はいっ!!!』


サブは一度、隊員たちを見渡した。


その目に迷いはない。


「この戦い……死んでも勝つぞぉぉぉっ!!!」


『おおおおおおおおおおおおおっ!!!』


再び、隊員たちの雄叫びが街を揺らした。


その中で。





「よぉーし!! 頑張るぞぉ!!」


一人だけ、やけに元気な声が響いた。


イフ・フォーエバーである。


拳を握りしめ、気合い十分といった様子で走っていた。


「…………」


サブは無言でイフを見た。


「お前はラクについていけって言っただろ!!」


「えっ!? あっ、そうだった!!」


「忘れんな!!」


「ご、ごめん!!」


イフは慌ててラクの背中を追いかけた。




***




「…………本当に攻めてきやがったか」


報告を受けたクロスが、苛立たしげに呟いた。


「……だから言ったじゃないですか」


ザディは呆れたように息を吐いた。


「サブって男が、相当強いらしいな」


クロスが尋ねる。


「えぇ」


ザディは即答した。


「私は、このままサブ・ストレートの相手をしようと思います」


その目に、冷たい殺気が宿る。


「奴は私が必ず殺します」


「はははっ! なるほどなぁ……」


クロスは笑い声を上げた。


ザディは続ける。


「……クロスさん。あなたがいれば、必ず奴を殺せるはずです」


一瞬、間を置く。


「いえ……殺しましょう」


「…………」


クロスはザディを見つめた。


そして、口元を歪める。


「ははは……まあ、待てよ。ザディ」


「……はい?」


クロスはゆっくりと街の方へ視線を向けた。


その表情からは、先ほどまでの呑気さが消えていた。


「作戦があると言っただろ」

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