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イフリート  作者: 野口プレシオサウルス太郎
第3章 ラク・ヴィリーブ
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74.竜王の居場所



竜征軍本部、廊下。


窓から差し込む夕日が、長い廊下を赤く染めていた。


その中を、一人の少年が肩を落として歩いている。


イフ・フォーエバー。


「…………はあ」


深いため息をつき、うなだれるイフ。


いつもの元気な姿は、どこにもなかった。


すると。


「おい。何だ、その顔」


前方から歩いてきた男が、イフに声をかけた。


ラク・ヴィリーブだった。


「あ! ラク!」


イフは顔を上げる。


「……何かあったのか?」


「…………」


イフは少しだけ口をつぐんだ。


そして、ぽつりと呟く。


「……キリに嫌いって言われた」


「…………は?」


ラクの足が止まった。


「俺、馬鹿だから嫌いなんだって……」


イフはそう言うと、再び俯いた。


「………………」


数秒間、沈黙が流れる。


そして。


「――ぶはっ!!」


「な、何で笑うんだよ!!」


突然吹き出したラクに、イフが声を上げた。


「いや、お前すげぇよ!」


「……え? どゆこと?」


「いやいや! キリはな、そもそもあんまり人に興味を持たねぇんだよ!」


「……え? そうなの?」


「ああ。俺はあいつがガキの頃から知ってるが、ペラペラ喋ってるところなんて、サブの前でしか見たことねぇぞ」


「そ、そうなんだ……」


イフは意外そうに目を丸くした。


「ま、いいじゃねえか。嫌われたくらいで死ぬわけじゃねぇんだからよ」


ラクは肩をすくめ、再び歩き始める。


しかし。


「…………そうだけどさ」


イフの足取りは重いままだった。


視線を落とし、廊下の床を見つめる。


「……仲良くなりたかったんだけどな」


いつものイフなら、どんなことがあってもすぐに笑う。


そんなイフの声が、今は少しだけ寂しそうに聞こえた。


「………………」


ラクの笑みが、ほんの一瞬だけ消えた。


イフの横顔を見つめる。


何かを言いかけるように口を開き――。


しかし、結局何も言わなかった。


「……ま、いいや」


ラクはいつもの調子に戻ると、イフの背中をバシッと叩いた。


「だったら、もう一回話しかけりゃいいだろ!」


「……!」


イフが顔を上げる。


「一回嫌われたくらいで諦めんなよ!」


「…………」


イフはラクの顔を見つめた。


そして。


「…………うん!」


その顔に、いつもの笑顔が戻った。


「よし! ラク! じゃあ飯食いに行こうぜ!」


「ははっ! ちょろいなお前!」


「なんだよ!!」


「はははっ! 何でもねえよ!」


ラクは笑いながら、イフの頭を軽く小突いた。


「いてっ! 何すんだよ!」


「うるせぇ! さっさと行くぞ!」


「お、おう!」


二人の声が、静かな廊下に響く。


やがて、二人の姿は食堂へと消えていった。




***




その夜。


竜征軍本部、資料室。


壁際に並ぶ棚には、大量の資料や書類が詰め込まれていた。


机の上には地図が広げられ、その周囲には調査報告書が山のように積み上がっている。


そんな部屋の中で、一人の女が黙々と資料を読み込んでいた。


キリ・フラッシュ。


そこへ。




ーーガチャッ。


扉が開き、一人の男が入ってきた。


「……ふぅ。今日も疲れたな……」


仕事を終えたサブだった。


肩を回しながら部屋に入ったサブは、机に向かうキリの姿を見つける。


「……! キリ! まだやってたのか?」


「……うん」


キリは資料から目を離さず、短く答えた。


サブは苦笑する。


「ははっ。ありがとな、キリ。もう十分だ。あとは俺がやっとくから、帰って寝とけ」


「…………」


キリは手元の資料を見つめたまま、しばらく黙っていた。


そして。


「……いや。サブ、待ってほしい」


「……ん?」


サブが足を止める。


キリは一枚の資料を手に取り、机の上に広げた地図へと視線を落とした。


「……多分、例の竜王の居場所が分かるかもしれない」


「……なに!?」


サブの表情が変わった。


疲れた様子は一瞬で消え、キリのもとへ歩み寄る。


「……どういうことだ?」


「……うん。この東の国にある『ヤヤンフーロ』って都市なんだけど……」


キリは地図上の一点を指で示した。


「…………?」


サブはその場所を覗き込む。


「この街ね、ここ一ヶ月の情報が一切ないの」


「……なに?」


「うん。見たところ、結構な都会みたいだし、規模も大きい。それなのに、街の情報がまったく入ってこないのは不自然だと思って」


キリは別の資料を取り出し、地図の横に並べた。


「だから、周辺の街の情報も含めて、いろいろ調べてみたんだけど……」


「………………」


サブは黙って資料に目を通していた。


キリは続ける。


「……すぐ近くに、奴隷の被害に遭った街があるの」


「…………」


「それと、今、第9部隊がその周辺に向かってるらしいの。そこにいる竜人を倒すために」


「………………」


サブの目が、地図の上をゆっくりと動く。


情報の途絶えた都市。


奴隷化された周辺地域。


そして、そこへ向かっている第9部隊。


それぞれの情報が、少しずつ繋がり始めていた。


「……まだ確証はないけど」


キリは静かに言った。


「この街が奴隷国化している可能性は、かなり高いと思う」


「…………なるほど」


サブは腕を組み、地図を見つめた。


しばらく考え込んだあと、小さく呟く。


「……マジかよ」


「……? どうしたの?」


キリが顔を上げた。


サブはすぐには答えなかった。


地図に記された都市の名前。


そこに視線を落としたまま、動かない。


「……この『ヤヤンフーロ』って街……」


「……?」


キリが首を傾げる。


サブはゆっくりと顔を上げた。


その表情から、いつもの余裕が消えていた。


「……俺が知ってるところだ」

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