67.影の竜人②
場に、太陽の光が差し込む。
その瞬間。
一気に戦況が変わった。
イフは、そう感じた。
「……はははっ」
キングが、うっすらと笑みを浮かべる。
そして――
「はははっ! はーっはっはっはっは!!」
豪快な笑い声が、その場に響き渡った。
「お前! なかなかやるなっ! 名前は?」
キングが笑いながら、イフに尋ねる。
「…………イフ……フォーエバー!!」
「イフ……イフか!」
キングは、再び声を上げて笑った。
「はははっ! お前ら、すげえな! ビックリしたぞ!」
「………………」
「………………」
イフとラクは、黙ってキングを見つめていた。
その瞳に、油断はない。
「いや、ほんとに! ビックリしたよ!」
やがて、ラクが口を開いた。
「…………まだ……余裕ぶっこいてる気か?」
「……あ? 余裕?」
キングの表情が変わる。
「当たり前だよ」
次の瞬間――
―――フッ。
「…………!?」
キングの姿が消えた。
いや、違う。
消えたのは、キングだけではなかった。
「………………っ!?」
「……え、え!?」
イフとラクは、突然の異変に戸惑った。
見えない。
何も見えない。
目の前が、真っ暗だった。
比喩ではない。
視界が、完全にゼロになっていた。
「……!? な、なんだ!? 見えない!!」
イフが声を上げる。
「……見えないぞっ! イフ! 大丈夫か!!」
ラクも、明らかに動揺していた。
そんな二人に、キングの声だけが響く。
「いやあ。影に気づいたことは評価するよ。マジでビックリしたもん」
声は、相変わらず余裕たっぷりだった。
「ただ……これで勝った気になるのは、よくないぞ?」
その表情は見えない。
だが、声を聞けば分かる。
キングは、まだ余裕だった。
―――ドカッ!!
「……っ!?」
イフの顔面に、衝撃が走った。
―――バキッ!!
続けざまに、腹部に激痛が走る。
「……ぐはっ!」
(……こいつの能力は、影に潜むだけじゃないのか!?)
―――ドゴォッ!!
再び、腹部に痛みが走った。
蹴られたのか。
殴られたのか。
それすら分からない。
(……視界を真っ暗にしやがった!!)
(……や、やばい!!)
そのとき――
「うがああああああああああっ!!」
ラクの叫び声が響いた。
直後。
―――ドゴゴゴォォ!!
―――バキバキィッ!!
何かが砕ける音。
何かが崩れ落ちる音。
まるで、建物そのものが破壊されているかのようだった。
(……ラクが! 音で攻撃してる!!)
(しかも……俺に当たらないように!!)
ラクの耳は、地獄耳。
視界を奪われてもなお、音を頼りにキングの居場所を探っていた。
そして、イフを巻き込まないよう、必死に攻撃を繰り出している。
「だあああああああああっ!!」
―――ドゴドゴォォ!!
―――バキキィッ!!
爆発音のような轟音が何度もイフの耳に届く。
(ラクが……頑張ってる!!)
(……だけど!!)
「はーっはっはっはっは!! 当たんねぇぞ!!」
キングの高らかな笑い声が響く。
その声を聞くだけでイフには状況が分かった。
(……戦況は……変わってないっ!!)
絶望的だった。
ラクは、音を頼りに必死にキングを探り、攻撃を続けている。
それなのに、当たらない。
(……当たってない!)
(また、どこかの影に潜んでいるのか……!?)
(影に潜まれたら……それこそ、どうやって倒すんだ!?)
「……っぐほぉっ!!」
ラクの声だった。
「……!?」
イフは、必死に思考を巡らせる。
(ラクが攻撃された!?)
(まずいっ……!!)
(どうすればいい!? ラクが……危ない!!)
視界はゼロ。
敵の姿は見えない。
攻撃の位置すら分からない。
こんな状況で、どうやってあいつを倒す!?
それでも。
イフは、諦めていなかった。
―――バキッ!!
「うがっ!!」
鈍い音が響く。
ラクの苦しげな声が聞こえる。
―――バキッ!!
―――ドゴッ!!
一方的だった。
ラクが、殴られ続けている。
イフには、それが分かった。
「……くそっ! くそっ!!」
(こんなとき……!)
(サブだったら……!)
(ダラーだったら……!)
「………………」
サブだったら、重力で手当たり次第に攻撃するだろうか。
ダラーだったら、炎で周囲を焼き払うだろうか。
「…………っ、くそ……」
自分には、何もない。
イフには、特殊な能力がなかった。
(……何をすればいいか……分からない……)
考えている間にも、鈍い音は鳴り続ける。
まだ、ラクが殴られている。
「…………ラクが……」
ラクも、必死に戦っている。
そんなことは、イフにも分かっていた。
(俺には……能力がないから……)
――能力。
その言葉が、頭をよぎった。
そのとき。
イフは自分の手に握られたものを思い出した。
(…………銃……)
「………………」
考える。
必死に考える。
見えない。
敵の姿は見えない。
なら、どうする?
声は聞こえる。
だがラクの声とキングの声が入り乱れている。
確実に当てられる保証なんて、どこにもない。
それでも。
イフは、決めた。
そして――
気づけば、引き金を引いていた。
―――バァンッ!!
「……ぐおぉっ!!」
聞こえてきたのは、ラクの声ではなかった。
キングの声だった。
「……当たった!!」
イフが声を上げる。
「な、なんでだ!!」
キングの声に、初めて動揺が混じった。
「見えないはずだろ!? なんで銃を撃った!? それに、なんで当てやがったっ!!」
「……声のする方を撃った!」
「はあ!? 頭おかしいんじゃねえか!?」
「……!?」
キングの困惑した声が響く。
「声のする方って……! 俺じゃなくて、こいつの声だろう!?」
キングは、ラクを指差した。
「こいつの声を聞いて!? なんで俺に当たるんだよ!? 目も見えないのに!!」
「…………」
イフは、少し考えた。
「…………賭けた」
「…………は?」
「……賭けたんだ!」
「……は!? 賭け!?」
「声のする方と……あとは、タイミングを見て」
イフは、息を切らしながら答えた。
「俺は……賭けたんだ……」
「…………は、はぁ!?」
「……そしたら……当たった!!」
「はぁーーーーーー!?!?」
キングの叫び声が響き渡る。
「そ、それに……!」
「……?」
「……ラクだったら避けれるって思って!」
「………………」
ラクもまた、唖然としていた。
だが――
その一瞬の隙を、ラクは逃さなかった。
「だらああああああっ!!」
―――ザンッ!!
音の斬撃が、キングの身体を切り裂いた。
「……ぐおっ!! 痛え!!」
ようやく、攻撃が当たった。
ラクは、ニヤリと笑う。
「……やっと止まってくれたな、カス野郎」
「……っ!?」
そして、静かに告げた。
「……見えないがお前の位置がわかったぞ」
「……クソッタレがあああああ!!!」
「がああああああああああああっ!!!!」
―――ドガアアアアアアアアアアッ!!!!
爆発音が、辺り一帯に響き渡った。




