66.影の竜人①
ーーー少し前。
「ぐへぇっ!!」
イフの身体が宙を舞った。
ドゴンッ!!
壁に叩きつけられ、そのまま床へと崩れ落ちる。
「……く、くそっ……! 何が起きたんだ……?」
イフは呻きながら、ゆっくりと顔を上げた。
キングの姿を探す。
すると
――フッ。
「………………!?」
キングの姿が消えた。
いや、正確には違う。
まるで、地面の中へ引きずり込まれるように。
(……下に入っていった?)
次の瞬間。
グサッ!!
「…………ッ!」
気づけば、ラクの腹部にナイフが突き刺さっていた。
(なんだ!?)
(下から入って……気づいたら、ラクの後ろにいた!?)
(下……? 下に何かあるのか!?)
イフは床へと視線を落とした。
だが、何もない。
ただの床だ。
(なんだ!? いったいどうやって移動してるんだ!?)
必死に考える。
考えなければ、次は自分が殺される。
そのとき。
イフの脳裏に、ある言葉がよぎった。
『相手がどんな動きをするのか、ちゃんと観察ぐらいしとけよ。死にに行ってんのか?』
ラクが先ほど、自分に言った言葉だった。
(……そうだ)
(観察しろ!!)
(あいつがどうやって移動してるのか! どんな能力なのか!!)
イフは痛む身体を起こし、キングを見据えた。
――フッ。
まただ。
キングが、ラクの背後から消えた。
(また下へ消えていった!!)
そして。
次の瞬間には、ラクの正面に姿を現していた。
(……やっぱりだ!!)
(下から消えて、下から出てきた!!)
(下だ! 下に何かあるんだっ!!)
イフはキングの足元を凝視する。
しかし、何も見当たらない。
床に穴が開いているわけでもない。
何かが動いているわけでもない。
(……なんだ!? 何もないぞ!?)
イフは目を凝らした。
(くそっ……! 少し暗くて見えづらい……!)
「………………」
ほんの一瞬。
思考が止まった。
(……暗い?)
そういえば、この部屋は妙に暗かった。
イフはふと、窓の方へ視線を向ける。
(……まだ日が出てるのに……)
外は明るい。
それなのに、部屋の中は薄暗かった。
(……なんでだ?)
(古い建物だから、窓に埃でもついてるのかな……)
イフは窓を見つめた。
薄汚れたガラス。
差し込む光。
そして、床に広がる暗がり。
(……あいつは、下に入って……下から出てきた……)
(暗い……)
(下に……)
(下から……)
「………………」
頭の中で、いくつもの情報がつながっていく。
そして。
ある言葉が、脳裏に浮かんだ。
『影』
「………………!」
次の瞬間。
イフは銃を取り出した。
そして――
バァンッ!!
窓ガラスを撃ち抜いた。
***
「……お前、すげぇな」
キングが、ぽつりと呟いた。
その視線は、イフに向けられている。
「どうやって……わかった?」
キングは不思議そうに首を傾げた。
「初めての相手にバレたのは、これが初めてだぞ?」
「………………」
イフは何も答えなかった。
キングもまた、それ以上は口を開かない。
しばらくの間、二人は黙って見つめ合っていた。
すると。
「あははははははっ!!」
突然、ラクが笑い出した。
「……?」
キングが眉をひそめ、ラクへと視線を向ける。
ラクは腹部を押さえながら、大きく息を吸った。
「お前っ……マジかよ!!」
そして。
「…………よくやったぜ、イフ」
ラクは、ゆっくりと顔を上げた。
その視線の先には、天井があった。
「があああああああああああああっ!!!!」
ドゴゴゴゴォォォッ!!!!
凄まじい爆音が室内を揺るがした。
ラクの放った爆音波が、天井を直撃する。
バキバキバキッ!!
亀裂が走る。
砕けた瓦礫が降り注ぐ。
そして――
ドゴオオオオオンッ!!
天井が崩れ落ちた。
さらに、その衝撃は屋根にまで及ぶ。
バキバキッ!!
ドガァァァン!!
屋根が吹き飛び、空が露わになった。
薄暗かった部屋に、光が差し込む。
燦々と輝く太陽の光が、室内を照らし出した。
そして――
キングの足元から、影が消えていく。




