62.イフとラク②
竜征軍本部、会議室
隊長会議が終わり、隊長たちがぞろぞろと会議室を後にしていく。
そんな中、サブと側近のキリは、まだ資料に目を通していた。
「お久しぶりですね!サブ!」
不意に、サブへ声をかける男がいた。
「おお!久しぶりだなっ!帰ってきてたのか!」
サブは顔を上げ、嬉しそうに声を弾ませた。
「えぇ、つい昨日。調査という名の長旅から帰ってきましたよ」
男の名は、キラン・E・ケメンディ。
竜征軍第二部隊の隊長であり、サブの同期だった。
キリは見知らぬ男の顔を見て、少しだけ首を傾げた。
「……?」
キランはそんなキリに気づくことなく、話を続ける。
「聞きましたよ、サブ! 嵐の竜王を撃退したんですって?」
「ああ。また逃げられちまったけどな」
「ふふふっ! 貴方は本当に凄い人だなあ!」
キランは感心したように笑った。
「それよりキラン! 北の国はどうだった?」
サブが尋ねた、その時。
「…………え? 北の国?」
キリが先に反応した。
サブはキリに視線を向け、説明する。
「ああ。こいつはずっと北の国の調査をしてるんだ。実力も結構あるんだぜ?」
「ふふふっ! サブには遠く及びませんよ」
「そうかぁ? 一緒に戦った時は世話になったぞ!」
その言葉を聞いた瞬間、キランは背筋を伸ばし、顔を天井へ向けた。
「ふふふ! 嬉しっ! マジで嬉しっ!」
「………………」
「………………」
サブとキリは、そろって沈黙した。
「……それで、調査はどうだった?」
サブが改めて尋ねる。
キリも気になるのか、何度も小さく頷いた。
「えぇ。二ヶ月ほど調査をしましたが……今回も成果なしです」
キランは少しだけ表情を曇らせた。
「……そうか。残念だな……」
サブもまた、静かに呟いた。
「ですが……必ずや、氷の竜王の所在を明らかにしてみせます」
キランはまっすぐに前を見据えた。
「私の故郷を、必ず救ってみせるのです……!」
「…………故郷?」
キリが小さく反応する。
それに気づいたサブが、代わりに答えた。
「ああ。こいつは北の国の出身なんだ。故郷を救うために、何度も調査に向かってるんだよ」
「…………そ、そうなんだ」
キリは少しだけ言葉に詰まり、それ以上は何も言わなかった。
「……そういえば、そちらのレディは?」
キランがキリに目を向ける。
「ああ、キリだ。俺の部下で……基本的には側近として働いてもらってる」
「へぇ……。よろしく、レディ」
キランが爽やかに微笑みかける。
「………………」
キリは小さく頭を下げた。
すると、サブが何かを思い出したように声を上げた。
「そういえば! キリも北の国出身だったな!」
「…………!」
キランの目が大きく見開かれた。
「……な、なんと!? 本当ですか、レディ!」
「………………」
キリは静かに頷いた。
「そうでしたか……。貴女も北の国の出身でしたか」
「………………」
「故郷を氷漬けにされてもなお、立ち向かおうとするその精神! 嫌いじゃありませんよ!」
「………………」
「……詳しいことは、あえて聞かないでおきましょう。大変だったんですね……」
「………………」
キランは何かを察したように、深く頷いた。
そして、くるりとサブへ向き直る。
「サブ! あなたも頑張ってくださいね! 私は再び北の国の調査へ行ってきます! それではっ!」
そう言い残すと、キランは颯爽と会議室を出ていった。
「……………………」
しばしの沈黙。
やがて、サブがキリに声をかけた。
「……キリ。挨拶できてよかったな」
「…………うん」
キリは小さく頷いた。
***
一方、西の国
広大な緑地の中を、一台の車が走っていた。
その車内では、二人の男が絶賛口喧嘩中だった。
「だーかーらぁ! 敵がいたら逃げろっつってんだろが! 頭まで弱いのか、ゴミ雑魚ぉ!」
「戦うって! 絶対に逃げないっ!!」
「お前なぁ……!」
車内には、二人の怒鳴り声だけが響き続けていた。
「大体お前!? 今回の竜人の件、知ってんのか!?」
ラクがイフを睨みつける。
イフは自信満々に答えた。
「うん! 知らない!!」
「…………やっぱりここで降ろすっ!!」
「うわぁ! ごめんって! 教えてよぉ!!」
「うるせえ! カス! 消えろぉ、雑魚!!」
「言い過ぎだろ、ラクっ!!」
二人の喧嘩が収まる気配は、まるでなかった。
***
やがて、車はとある街へと到着した。
ラクは車から降りると、ようやく真面目な顔で口を開いた。
「……今回、戦うことになるかもしれねぇ竜人は、結構しぶといっぽいぞ」
「しぶとい……? 強いってこと?」
イフが首を傾げる。
「ああ。一人で活動してるらしい。街の住民は、すでに避難を済ませてるそうだ」
「え? みんな避難できたってことは、そんなに強い相手じゃないんじゃない?」
「……いや」
ラクの表情がわずかに険しくなった。
「すでに駆けつけた軍の人間が、音信不通になってる」
「……えっ!?」
イフの顔から、少しだけ笑みが消えた。
「ああ。だから、そいつの詳細も何もわからねぇ」
「……なるほど!」
「しばらくしたら、他の部隊の野郎どもも来るはずだ」
「うん!」
ラクは街の奥へと目を向けた。
「俺らはその前に……」
「ぶっ倒せばいいんだな! ……ラク!」
「………………」
「………………?」
ラクは無言でイフの頭を叩いた。
「お前が言うな、ザコ!」
「……いでっ! 叩くなよ!」
二人の騒がしい声が、静まり返った街に響いた。




