61.イフとラク①
数ヶ月後。
竜征軍本部、訓練所。
サブとイフが特訓をしていた。
「……ぐっ……くそっ!」
イフは地面に倒れ込んだ。
「いちいち倒れんな、イフ! 竜人はその隙にお前を殺しにくるぞっ!」
サブが怒鳴る。
「くそっ! わかってるよ!」
イフはすぐさま立ち上がり、再びサブに殴りかかった。
「うおおおおおおっ!」
「……ふんっ!」
サブは迫り来るイフの拳を難なくかわすと、その腹に拳を叩き込んだ。
「ぐへっ!」
イフの体がくの字に折れ、再び地面に倒れ込む。
「……ぐ、ぐぬぬ……!」
「動きが大袈裟すぎる。それじゃ、次の動きが見え見えだぞ」
サブは拳を軽く払いながら言った。
「……くそぉ!」
「まだまだだな。そんなんじゃ、竜人を倒すのに百年はかかるぞ」
「……うるさい! まだまだぁっ!」
イフは歯を食いしばり、再び立ち上がった。
「ははっ! 体力だけは一丁前だな」
サブは呆れたように笑った。
こうして、イフとサブの特訓は続いていった。
***
数時間後。
竜征軍本部、廊下。
ラクとキリが二人で歩いていた。
「……………………」
「……………………」
二人の間に会話はなかった。
やがて、ラクがぽつりと口を開いた。
「…………この前……」
「……?」
「嵐の竜王との戦いの後……お前、イフを助けたらしいな……」
「…………うん」
「……珍しいな。お前が人助けるなんて」
「……サブから言われたから」
「…………そうか」
「「……………………」」
再び沈黙が訪れる。
(……やりにくいな……相変わらず)
ラクは心の中で呟いた。
しばらくして、今度はキリが口を開いた。
「……ラク。一緒に報告書を渡しに行ってくれて、ありがとう」
「……ん? お、おう。全然いいけどよ」
ラクは少しだけ戸惑いながら答えた。
(……いい奴ではあるんだよなあ……)
キリは無口で、何を考えているのか分かりにくい。
だが、こうしてきちんと礼を言うところは、嫌いではなかった。
「……それで、ラク」
「……ん? なんだ?」
「サブが来てほしいって言ってた」
「……あ? サブが?」
「…………うん。今、食堂でイフとご飯を食べてるらしい……。行ってあげて」
「あ、あぁ……わかった」
ラクは頷くと、キリに背を向けて歩き出した。
(……なんなんだ、一体)
キリと話していると、どうにもいつもの調子が出ない。
ラクはそんな自分に少しばかり戸惑いながら、食堂へと向かった。
***
竜征軍本部、食堂。
イフとサブが向かい合って食事をしていた。
そこへラクがやってくる。
「……おう、お前ら。特訓は終わったのか?」
「ラク! うん! 終わった!」
イフは口いっぱいに食べ物を頬張りながら答えた。
「……終わってねえよ。今は休憩だ。これからあと三時間はみっちりやる」
サブが淡々と言い放つ。
「おおっ! マジかよ、サブ! 俺、頑張る!」
「はははっ! 相変わらずアホだなお前!」
ラクはイフを見て笑った。
「……で、サブ」
「……ん?」
「キリから呼んでるって聞いたぞ? なんの用だ?」
「ああ。よく来たな、ラク」
「……ん?」
ラクは首を傾げた。
サブが自分を呼び出した理由など、まったく見当がつかなかった。
すると、サブは椅子から立ち上がった。
「……ラク。今日からイフとコンビを組め」
「……は?」
「ああ。組め」
「……こんび?」
「……組むんだよ。これからは二人組で動けって言ってんだ」
「はぁ!? マジかよ! やだよ!」
ラクは思わず声を上げた。
「嫌でもやれ。イフと仲がいいの、お前くらいだろ」
「仲は別によくねぇよ! 仲で言ったらエーズとの方がいいだろ!」
「……エーズは俺と組む。エーズもまだ新人だ。新人二人だけで任務に出したら、それこそ危ねぇだろ」
「……な、なにぃ!?」
ラクは勢いよくイフを指さした。
「俺はな! 仕事なら強い奴と戦うのだって構わねぇ! だがよっ! コイツ、バカ弱いだろ!」
「むっ……!」
イフが顔をしかめる。
しかし、ラクは構わず続けた。
「こいつがいたら戦いの邪魔になるって言ってんだよ! 厄介な任務なら、俺一人で行った方が確実にいいだろっ!」
「……なにをぉ! ラク! 俺は強くなるぞぉ!」
イフも負けじと言い返した。
「今が弱けりゃ話になんねぇだろ、ゴミカス!」
「……ぐぬぬぬっ!」
二人の視線がぶつかり合う。
その間に、火花が散った。
「はいはい。うるさいぞ」
パンッ!
サブが手を叩いた。
「「………………」」
二人はぴたりと口を閉じ、同時にサブを見た。
サブはまず、ラクに視線を向けた。
「ラク。嵐の竜王との戦いで、こいつに救われたんだったな?」
「……ぬっ! そ、それは……!」
ラクの言葉が詰まる。
「こいつは実力こそまだまだだが、度胸と体力だけは一丁前だ。そんなコイツがもっと強くなるには、やっぱり現場に出るのが一番だろ」
「じゃ、じゃあお前らで行けよ!」
「俺はエーズと組むっつってんだろ。話聞いてたか?」
「いや、だから! 俺がエーズと……!」
「ラクとエーズは、これまで十分一緒に戦ってきただろ」
サブは呆れたようにため息をついた。
「仲間と交流を深めて、コンビネーションを磨くのも大事なんだよ」
「……な、なんだと!?」
ラクは納得がいかないといった顔をした。
サブはそんなラクを気にする様子もなく、話を続ける。
「明日、お前は西の国に行く予定だったよな? 早速、二人で行ってこい」
「うん! わかった、サブ!」
イフが元気よく返事をした。
「お前が返事すんなよ……」
ラクは悔しそうに顔をしかめた。
「絶対に役に立つからな! 見とけよ、ラク!」
イフは自信満々に胸を張った。
「……なんで俺がこんな目に……」
ラクは歯を食いしばり、深いため息をついた。
すると、サブがイフに声をかけた。
「よし、イフ。食ったならさっさと訓練所に行くぞ! 今度はボコボコにしてやるよ」
「うん! わかった! 行く!」
イフは嬉しそうに立ち上がった。
そしてサブとともに足早に食堂を出ていった。
一人残されたラクは、遠ざかっていく二人の背中を見つめていた。
「あ、あいつ……面倒事を押しつけてるだけか?」
ラクはぽつりと呟いた。
しかし、すぐに口を閉じる。
サブは何を考えているのか。
本当に、ただ面倒事を押しつけただけなのか。
それとも……。
「………………それとも……」




