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イフリート  作者: 野口プレシオサウルス太郎
第2章 竜征軍
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58.ラーの問い



――森のどこか。


「…………はあ……はあ……」


一本の木にもたれかかり、荒い呼吸を繰り返す男がいた。


『嵐の竜王』ザディ。


サブたちとの戦闘によって、彼の身体は満身創痍だった。


何本かの骨が折れ、全身に絶え間ない痛みが走っている。


「……く、くそお……」


ザディは苦痛に顔を歪めながら、ゆっくりと身体を起こした。


「……ぬぐぅ。サブさんという人……強すぎる!」


額から汗が流れ落ちる。


「このままでは……本当にヤバいかもしれませんね……」


ザディは一度、深く息を吐いた。


「……まずは仲間たちに報告しないと……。話は……それからですね……」


そう呟き、ふらつく足で歩き始める。


「……まずはヘルさんに伝えにいきますか……」


「……っぐ!」


足元の石につまずき、身体がよろめく。


それでもザディは、倒れそうになる身体を必死に支えながら歩き続けた。




――その時だった。


「……………………っ!!!!」


突然、ザディの足が止まった。


背筋を、何かが駆け上がる。



悪寒。


いや、違う。


敵意を感じたわけではない。


殺気を向けられたわけでもない。


ただ、そこに何かがいる。


それだけで。


(…………こ、怖い!?)


気づけば、ザディの身体はガタガタと震えていた。


(なんだ!? これは……!?)


恐る恐る、背後を振り返る。


「…………っ!?」


そこに立っていたのは、とてつもない巨体を誇る大男だった。




ラー。


竜王の頂点に君臨する男。




その姿を認識した瞬間、ザディの顔から血の気が引いた。


「……ら、ラー様っ!?」


ラーは何も言わず、ただそこに立っていた。


それだけなのに、息が詰まる。


邪悪なオーラが目に見えるかのような、凄まじい威圧感。


「ら、ラー様! お、お久しぶりですねっ!」


ザディは引きつった笑みを浮かべ、必死に声を絞り出す。


「し、しばらく連絡が取れなかったので! 何をされているのか……心配しておりましたっ!」


ラーは答えない。


「……………………」


沈黙。


やがて、ラーは面倒くさそうに頭を掻いた。


「……お前…………」


「……は、はいっ!」


「少しばかり暴れたな?」



――ゾクッ。


ザディの背筋に、再び激しい悪寒が走った。


ラーの声は静かだった。


だが、その奥に潜む圧倒的な威圧感が、ザディの身体を縛りつける。


「………………っ!!!」


「いや、別にいいんだが」


ラーは首を傾げた。


「何をした?」


「……………………っ!!」


声が出ない。


「……どこで暴れた?」


(逃げろ……!)


頭の中で警報が鳴り響く。


(今すぐ……ここから逃げろ……!!)


だが、身体が動かない。


「……………誰を殺した?」


「…………かはっ!!」


喉が引きつる。


息ができない。


ラーは、そんなザディを見下ろしたまま、さらに尋ねた。


「………………………あいつはいたか?」


「………………………………」


沈黙。


「…………?」


ラーが目を向ける。


その足元では、ザディが白目を剥き、泡を吹いて倒れていた。


「えぇ……なんだよ、お前」


ラーは呆れたように頭を掻いた。



「………………」


しばらくザディを見下ろした後、ラーはくるりと踵を返した。


そして、誰に聞かせるでもなく、ぼそりと呟く。


「オーグスぅ……」


その声は、静かな森に溶けていく。


「……貴様はどこだ……」




***




――病院。


「よぉ、戦士たち! 元気そうだな!」


病室の扉が開き、サブが顔を覗かせた。


「サブ……!」


「隊長っ!!」


イフとエーズが、ぱっと顔を輝かせる。


「ははっ! うるせえぞ、お前ら」


サブは笑いながら病室へ入ってきた。


ラクも、どこか嬉しそうに口元を緩める。


「……よお、サブ」


「なんだラク。お前も元気そうじゃねえか」


「まあな」


そんなやり取りを交わす三人。


すると。


サブの後ろから、もう一人の人物が姿を現した。


「…………」


キリだった。


「………………」


一瞬、ラクの動きが止まった。


「……き、キリ!?」


思わず声が裏返る。


「お前、お見舞いとか来んの!?」


「失礼だよ? ……ラク」


キリは淡々と返した。


「……あっ! すまん!」


ラクが慌てて頭を下げる。


いつもの調子が、どこかおかしい。


その様子を横目で見ていたイフが、勢いよく身体を起こした。


「き、キリ!」


「…………?」


キリがイフを見る。


「あ、あ…………」


言葉が出てこない。


頭の中が真っ白になる。


(な、何を言えばいいんだ……!?)


昨日まで、ラクとエーズの前ではあれだけキリのことを話していたのに。


いざ本人を目の前にすると、何も言えなかった。


「……………………」


「………………うぅ!」


イフは顔を真っ赤にしながら、必死に言葉を探す。


その姿を、ラクとエーズが温かな目で見守っていた。


(頑張れ……!)


(いけ……!)


二人の心の声が、なぜか一致する。


そして。


「……あ、あの時はありがとうっ!」


イフは勢いよく頭を下げた。


「「おおっ! 言った!!」」


ラクとエーズが、思わず声を揃えた。


「……………………………」


キリは黙ってイフを見つめていた。



そして。


その目は、まるで道端の汚物を見るかのように冷たかった。


「………………うぅっ!!」


イフの心が、静かに砕け散った。

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