57.病室の三人②
病院の一室。
入院生活を送るイフ、ラク、エーズの三人は、ベッドの上でトランプに興じていた。
ポーカーである。
「…………コール!」
イフが自信ありげに宣言する。
カードがめくられた。
「どうだっ! フラッシュっ!!」
イフは得意げに胸を張った。
「……………………」
ラクとエーズは、場に並んだカードをじっと見つめる。
やがて、ラクが口を開いた。
「……一枚足りねえぞ?」
「……えっ! しまった!見間違えた!」
「アハハハハッ!! 初心者かよっ!しかもフラッシュで!」
ラクが腹を抱えて笑う。
「初心者だよっ!!」
イフが即座に言い返した。
「へへへっ! やったぜ! 俺の勝ち!」
エーズがニヤニヤと笑いながら、自分のカードを見せる。
「くっそーっ! やられた!」
イフが悔しそうに唸った。
「へへっ! まさかブラフで打ったつもりが勝ってたとはな!」
「くっそお! もう一回!」
「……お前、ギャンブルしない方がいいタイプだな」
ラクが呆れたように呟く。
「ええ!? なんで!?」
「……やってりゃわかるよ」
「……?」
イフは首を傾げた。
どうやら、まだ何もわかっていないらしい。
そんな中、エーズがふと思い出したように口を開いた。
「……そういえば! 隊長とキリが、今日か明日お見舞いに来るって言ってましたよね?」
「ああ……。キリは知らんが、サブは来るんじゃねえか?」
ラクが答える。
すると。
「…………キリ……か」
イフがぽつりと呟いた。
先ほどまで騒いでいたのが嘘のように、ぼんやりと宙を見つめている。
「「…………?」」
ラクとエーズが顔を見合わせた。
そして。
ラクがニヤリと笑う。
「……お前」
「……?」
「キリのこと、好きなのか?」
「…………えっ!?」
イフの肩がビクッと跳ねた。
「「……え?」」
今度はラクとエーズが同時に声を上げた。
「そ、その反応……。ほんとに好きなのか?」
エーズがおそるおそる尋ねる。
「ええっ!? ち、違うよ! べ、別にそんなんじゃないって!」
イフは慌てて両手を振った。
「………………」
ラクとエーズが、ゆっくりと視線を交わす。
そして、再びイフを見た。
「……でも、可愛いとは思ったんだろ?」
「…………ええっ!?」
イフの顔がみるみる赤くなる。
それを見た二人の口元が、じわじわと緩んでいった。
「いやいやいや! だから、そんなんじゃないって!」
「……この前、言ってたじゃねえか」
「い、言ったけど……!」
イフは目を泳がせながら、もじもじと俯いた。
「か、可愛いって思ったけど! だけど俺っ……女の子とあんまり喋ったことない……から!」
「「………………」」
ラクとエーズは黙って聞いていた。
イフは何かを誤魔化すように、視線をあちこちへ彷徨わせる。
「すごく……可愛いって、ほんとに思ったのは! 思ったんだけど……」
そこで言葉が途切れた。
少しの沈黙。
やがて、イフは恥ずかしそうに呟いた。
「…………す、好きとか……あんまわかんない……し」
「「……………………」」
病室に、妙な沈黙が流れた。
ラクとエーズは顔を見合わせる。
そして。
「…………へぇ……キリ、怖いぞ?」
「う、うん……何考えてるかわかんないし……」
イフが即座に二人の言葉に乗っかった。
「…………えっ?」
ラクとエーズがイフを見る。
「そ、そうかな……!」
イフは気まずそうに言葉を詰まらせた。
そして、少しだけ考え込む。
「…………だけど……可愛くない?」
「「…………へぇーーーーーーー」」
二人の声が、見事に重なった。
「なんだよその反応っ!! 二人とも!!」
イフが顔を真っ赤にして叫ぶ。
「いやぁ、別にぃ?」
ラクはニヤニヤと笑いながら、わざとらしく肩をすくめた。
「俺は良いと思うぜぇ?」
「うん、俺も俺も」
エーズまで楽しそうに頷く。
「や、やめろって! その反応っ!!」
イフの叫び声が病室に響いた。
***
一方、竜征軍本部。
「…………くしっ!」
キリが小さなくしゃみをした。
その隣には、資料に目を通しているサブの姿があった。
「……Bless you」
サブが何気なく呟く。
「……あ、ごめん、サブ」
「いや、全然。……誰かが噂でもしてるんじゃないか?」
サブが何気なく言った。
すると、キリは少しだけ考え込んだ。
「…………私、噂するような友達いないよ?」
「……いやぁ、どうだろうな」
サブは口元に微かな笑みを浮かべた。
「…………?」
キリは不思議そうに首を傾げた。




