55.最後の龍
《いやあ!ほんとに待ちくたびれたよ!》
《どれくらい待っただろ!……10年?……いや、もっと?》
妙に可愛らしい声だった。
《いやあ、やっぱり僕は運がいいね!》
《ほんとにずっと待ってたんだ!この時を!》
《ほんとに待ったんだよ?》
《占いとかして暇つぶしてたから、案外あっという間だったけどねっ!》
「……………………」
イフは困惑し、言葉が出なかった。
目の前には。
絶滅したと聞かされていた『龍』がいた。
まだ、信じられなかった。
「…………え、え?」
《どうした!少年!》
「………………龍?」
《ああ、そうか!そうだよね!何も知らないよね!》
《ただ……ごめん!少年!》
「……?」
《時間がないんだ!大事なことだけ!端的に一つずつ教えるね!》
「……え?え?」
《まず、ひとーつ!》
《僕は君たちが知っている『龍』だよ!》
見れば分かった。
だが、イフは口に出さなかった。
《うんうん!びっくりするよね!》
《僕は、絶滅したあの『龍』だよ!》
《『龍』はもう絶滅しちゃったから……かっこよく言うとっ!僕は『最後の龍』だね!》
「さ……最後の龍?」
《そう、最後!友達みんな死んじゃったんだ!》
その声は、相変わらず妙に明るく、可愛らしかった。
《そして、ふたーつ!》
《……僕はもうじき死ぬ》
「……え!?死ぬの!?」
《……うん!死んじゃう!だから時間がないんだ》
《ほんとに死ぬ直前に来てくれたね!やっぱり僕はラッキーだっ!》
『龍』の言っていることが、よく分からなかった。
言葉の意味は理解できる。
なのに、何を言われているのか、頭が追いつかなかった。
「……ど、どういうこと?なんで死ぬの?」
「なんで『龍』がいるの?」
「ここは一体どこなの?なんで生きてるの?誰か君のことを知ってる人はいるの?名前は?」
イフは次々と質問を投げかけた。
《すとーっぷ!そんなに一気に答えられないよ!》
「…………え?え?」
《じゃあ、みっつめ!》
「…………?」
龍は、ほんの少しだけ声の調子を変えた。
《もうすぐ、この世界は滅びてしまうんだ》
「……はあ!?」
《驚くのも無理はない。ただ、僕の言うことを聞いてくれ》
「………え、え?」
《じゃあ、ラストっ!よっつめ!!》
「……………………」
《……君に僕の『力』を授ける》
「……はえ!?力!?」
《うん。君は僕の『力』を使って、世界の滅亡を阻止してほしい》
《もっとも、僕の力だけでは到底無理だろうけどね……》
「え……え!?」
《ただ!たぶん強くなれるはずさ!》
「……え?ちょ、ちょっと待って?ほんとに……」
《いや、待てないよ》
すると。
龍の身体から、眩い光が漏れ始めた。
「……ええ?ええええええ!?」
《少年よ。どうか立ち上がってほしい》
《君だ……君だけなんだ》
光が、どんどん強くなっていく。
「…………う、うあっ!」
《僕の名前を知りたいと言っていたね?》
イフの視界は、真っ白に染まった。
それほどまでに、光は強くなっていた。
《少年よ。頑張ってくれ……》
《僕の名前は────》
イフの意識は、途切れた。
***
「……フ?………………イフ?」
パチパチと、頬を叩かれる。
だんだんと痛みが強くなっていく。
「……う…………うーん…………」
「………………起きたっ!」
「…………はっ!?龍がっ!!」
目を覚ますと、目の前にはキリがいた。
「……え?…………キリ?」
「………………龍?」
二人は見つめ合った。
やがてイフの頬がじわじわと赤くなっていく。
「……あっ!え!?キリ!?なんでここに!?」
「………………こっちのセリフ……」
「…………え?」
イフは周囲を見渡した。
そこは、先ほどまでいた洞窟の中だった。
「…………こんな所にいたら……わかんない……」
キリがそう言った。
「……え?…………龍は?」
「………………?…………竜王のこと?」
「…………竜王はサブが倒した…………けど……」
「あ、あー…………そう……なんだ」
話は全然聞いていなかった。
イフは、キリの顔をまともに見られずにいた。
女の子とほとんど話したことのないイフは、恥ずかしくて仕方がなかったのだ。
「…………?……どうして目をそらすの?」
「……いやぁ…………その……」
「…………………………」
「…………………………」
言葉に詰まるイフ。
やがて、意を決して口を開いた。
「…………キリが……可愛いから…………」
「………………え?」
「………………………………」
「……………………きもっ」
「……え?」




