54.洞窟
「…………まじかよ……」
サブは崖を見下ろした。
思っていたよりも、ずっと高い。
「……くそっ……おい、キリっ!」
「…………!?」
「村の人を呼んで、ここまで連れてきてくれ!!」
「……あ!う、うん!」
「そいつらにラクとエーズを預けてやってくれ!その後でいいから、イフを探しに来てくれ!」
サブはそう言うと、もう一度崖の下を見つめた。
「……俺は先に探してるっ!」
「…………え、え!?」
キリが返事をするよりも早く、サブは崖を下り始めた。
***
一方。
洞窟の中。
「…………あ、あれ?」
イフは、薄暗い洞窟の中を歩いていた。
足元には大小さまざまな岩が転がっている。
ゴツゴツとした地面は歩きにくく、少しでも気を抜けば転んでしまいそうだった。
「……あ、あぶねっ!」
イフは慌てて体勢を立て直した。
「……………………」
ふと、足が止まる。
「お、俺……すぐ戻んないと…………」
コツコツ。
コツコツ。
再び歩き始める。
洞窟の中には、イフの足音だけが響いていた。
「……皆が危ないかもしれないのに…………」
コツコツ。
コツコツ。
「…………なんで洞窟の中に入ったんだ……?」
独り言をこぼしながら、イフは歩き続けた。
戻らなければならない。
頭では、そう分かっている。
それなのに。
「…………なんでだろう……………………」
コツコツ。
コツコツ。
「…………なんで…………」
コツコツ。
コツコツ。
「……………………………………」
コツ。
「…………なん……か…………」
コツ。
「……なんか……行かなきゃ……って思ったんだ」
コツコツ。
「……………………」
コツコツ。
「……なんで……行かなきゃって思ったんだ?」
自分でも分からない。
どうして、ここまで来てしまったのか。
どうして、足を止められないのか。
それでも。
「…………行かなきゃ…………」
コツコツ。
「……行かなきゃ…………」
イフは、さらに奥へと進んでいった。
ーーーーーーーーー
そして。
洞窟の最深部。
「………………ここは?」
イフは足を止めた。
洞窟の奥は、濃い霧に覆われていた。
冷たい霧が、地面を這うようにゆっくりと流れている。
天井から滴り落ちる水滴の音が、静寂の中にぽつり、ぽつりと響いていた。
「………………」
イフは、霧の中へと足を踏み入れた。
一歩。
また一歩。
そして――
「………………え?」
《……待ちくたびれたよ!》
妙に明るく、可愛らしい声が響いた。
「…………え……え?」
困惑するイフ。
濃い霧の向こうに、誰かがいる。
それは、
可愛らしい顔。
青く光る目。
大きな手には、少し尖った爪が生えている。
そして、子犬程の大きさだった。
イフは、その姿を見つめた。
「………………」
そこにいたのは。
『龍』だった。




