53.重力
「ごへあぁ…………っ!!」
ザディの口から血が飛び散った。
全身に走る激痛。
そして、何本もの骨が折れた感覚があった。
「…………ぐおおおっっ!つ、強いっ!」
「二回も言わなくていいぞ?お利口鳥」
サブはそう言うと、ザディの頭をポンポンと叩いた。
「よしっ……。お前らぁ、大丈夫か!?」
すぐさまラクたちへと視線を向ける。
そこには、サブに向けて親指を立てるラクの姿があった。
「はははっ!大丈夫そうだな!」
「……ま、待て!サブ・ストレート!」
ザディが声を上げた。
「……ん?」
「そ、その力……その力は、もしかして!」
ザディは言葉を区切った。
「その力は……重力の竜王ギガントの力ではないか!」
「な、何故お前が!!……その力を!?」
サブはきょとんとした顔を浮かべた。
「な、何故って……理解できないか?」
「ま……まさか…………!」
「まさかだよ。……重力の竜王は俺が倒した」
「……な、何ぃ!!」
(重力の竜王は、既に死んだのか!?)
(確かに最近、姿を見ないと思ったが……!)
(こ……これほどまで……)
(これほどまでに、人間は力をつけているのか!?)
「そ、そんな……ことが…………」
その瞬間――
バサァッ!!
ザディは一気に翼を広げた。
「…………!!」
そして、瞬時に空へと飛び上がり、サブから距離を取った。
「早ぇ!……マジかよ!!」
サブが感心したように声を上げる。
「……はあ……はあ……はあ……」
ザディは荒い息を吐きながら、サブを見つめていた。
(重力の力が切れた瞬間、瞬時に距離を取れた!)
(この能力には射程距離があったはずだ!これほど離れていれば、届くわけがないっ!)
(…………だがっ!!!)
ザディは必死に思考を巡らせた。
一方、サブは。
ニヤニヤと、まるで遊んでいるかのような笑顔を浮かべていた。
「はははっ!さすが竜王!まだそんな体力あったのかよっ!」
弾んだ声でそう言うサブ。
「……………………」
「……………………」
ザディは、サブの表情をじっと見つめた。
その顔は、まるで子供と遊んでいるかのように明るかった。
そして――
ザディは悟った。
(私はこいつに勝てない)
「…………おい!来いよ竜王!」
サブが手招きする。
「死ぬのはお前なんだろ?殺してさしあげるよ!」
「……………………」
ザディはしばらく黙っていた。
やがて、静かに口を開く。
「……サブ・ストレートさん。あなたは強いですね」
「……そんな言わなくてもわかるって!」
「いえ、本当に強い。おそらく勝てないですね」
ザディは続けた。
「私は逃げます。……だが、覚えておいて下さい。私があなたを必ず殺します」
「はははっ!俺は別に会いたくねえよ!」
「それではサブさん。また会いましょう」
ザディはそう言うと、風を巻き起こした。
そして、空高く飛び去っていった。
「……………………」
(もう二度と会わなそうだな……)
サブはそんなことを思っていた。
「…………サブ!皆がっ!」
キリの声が響いた。
「……あ、ああ!す、すまん!」
サブは慌ててラクたちのもとへ駆け寄った。
「……お前ら、よくやったな!」
「あははっ。今は褒め言葉なんていらねえよ」
ラクが力なく笑う。
「ははっ、だが俺の勘は当たったな!」
「あぁそうだっ!!やべえだろ!お前!」
「はははっ。さすがに竜王がいるなんて思わなかったけどな!」
「……これからは、もっとお前を信用するよ……」
「おう!まあ、何より!」
サブは二人を見渡した。
「……無事で良かったな!お前ら!」
「……………………」
「……………………」
ラクとエーズの表情が曇った。
「……ん?どうした、お前ら」
サブが二人の異変に気づく。
「………………ねぇ、皆?」
キリが小さく呟いた。
「………………イフって子は、どこに行ったの?」
「…………っ!」
サブの表情が変わった。
すると、エーズの目に涙が浮かぶ。
「…………うぅ……イフは……イフは…………っ!」
「……イフがどうした?エーズ!ラク!」
サブが問いただす。
ラクは、しばらく黙っていた。
そして、ようやく口を開いた。
「……イフは…………あそこの崖から落ちたよ」
ラクは崖の方を指さした。
「………………なんだと!?」
***
少し前。
…………。
……。
「……っ」
イフは、ゆっくりと目を開けた。
「……いっつ……」
全身が痛む。
頭も、腕も、足も。
どこを動かしても、鈍い痛みが走った。
「……俺……どうなったんだ……?」
ぼんやりとした頭で、記憶をたどる。
ザディ。
戦闘。
崖。
「……あっ!!」
イフは慌てて身体を起こした。
「そうだ!!俺、崖から落ちたんだ!!」
「戻らないと!みんなの所へっ!!」
イフは周囲を見渡した。
薄暗い。
湿った空気。
足元には大小さまざまな岩が転がっていた。
どうやら、崖の下まで落ちてきたらしい。
「……生きてる……」
イフは胸を撫で下ろした。
そして、ふと顔を上げた。
「……ん?」
目の前。
そこには――
巨大な洞窟が、口を開けていた。
暗闇の奥は、どこまでも深く続いているように見える。
洞窟の入り口付近には、奇妙な形をした岩がいくつも並んでいた。
自然にできたものなのか。
それとも。
「…………」
イフは、しばらくその洞窟を見つめていた。
なぜだろう。
ただの洞窟には、見えなかった。
「……なんだ、ここ」
山の奥底。
誰も知らない場所。
イフは、ゆっくりと立ち上がった。
そして。
洞窟の入り口へと、一歩踏み出した。




