50.嵐の竜王④
………………………………
静寂。
イフが吹き飛ばされ、崖下へと落ちていった。
「…………く、くそっ!!」
ラクが歯を食いしばる。
「…………そ、そんな……」
エーズも、目の前で起きた出来事を受け入れられずにいた。
「……………………」
ザディは、崖の方を一瞥した。
そして、静かに口を開く。
「……よし。これで一人目」
ゆっくりと、視線を戻す。
「…………そして」
その目が、ラクとエーズを捉えた。
「二人目と三人目ですね」
「………………っ!!」
空気が張り詰めた。
二人は身構える。
目の前にいる男は、仲間を崖下へと吹き飛ばした。
そして今度は、自分たちを殺そうとしている。
「……………………」
バチィッ!!
雷が閃いた。
「おらあああっ!!」
先に動いたのはエーズだった。
雷を拳に集中させ、ザディの腕へと叩き込む。
バキィッ!!
「……っ!」
一瞬。
エーズを掴んでいたザディの腕が緩んだ。
その隙を、エーズは見逃さなかった。
「ぅおらぁっ!!!」
バキッ!!
今度は、ザディの顔面へ拳を叩き込む。
「…………!」
ザディの顔がわずかに揺れた。
そして。
エーズの腕が、自由になった。
「今だっ!!」
ラクは一瞬で状況を理解した。
大きく息を吸い込む。
「がああああああああっ!!!」
爆音波がザディを襲った。
「ぬぐおおおおっ!!」
轟音が山中に響き渡る。
衝撃をまともに受けたザディの身体が、大きく吹き飛ばされた。
「危ねぇっ!!」
エーズはすぐさま距離を取る。
地面に土煙が舞い上がった。
「………………」
二人は、砂埃の向こうを見つめていた。
先ほどまでとは違う。
確かな手応えがあった。
「…………やったあっ!!」
エーズが思わず叫ぶ。
「まだだっ!! 油断するなあ!!」
ラクがすぐさま怒鳴り返した。
「…………っ!」
エーズは表情を引き締め、再び身構えた。
土煙が、ゆっくりと晴れていく。
そこには。
地面に倒れたザディの姿があった。
「……………………」
静寂。
しかし。
ザディは、ゆっくりと身体を起こした。
そして何事もなかったかのように立ち上がる。
「…………ふう」
軽く息を吐く。
「……なるほど」
二人を見つめ、静かに呟いた。
「……聞きそびれていましたね」
「…………?」
ラクが眉をひそめる。
ザディは、穏やかな口調で尋ねた。
「……あなたたちのお名前は?」
「………………ラク」
ラクが短く答えた。
その隣で、エーズが不敵に笑う。
「エーズ・キリングだ!! 俺の名前が、お前の最後に聞く名前だよ! バーカッ!!」
「…………ラクさんに、エーズさん……」
ザディは二人の名前を繰り返した。
そして、ゆっくりとうつむく。
「……人間よ」
声の調子が、わずかに変わった。
「ここまで力をつけているとは……」
一拍。
「正直、舐めていました」
ザディは顔を上げた。
その表情から、先ほどまでの穏やかな笑みが消えていた。
「……ですが」
周囲の空気が、わずかに震え始める。
「まだまだですね」
ごおおおおおおおおおっ!!
突如、強烈な風が巻き起こった。
地面の砂が舞い上がり、木々が大きく揺れる。
「…………っ!」
ラクとエーズは、風に耐えながらザディを見つめた。
ザディの身体がゆっくりと宙へ浮かび上がる。
「……ははっ」
ラクが思わず笑った。
「……マジかよ」
ごおおおおおおっ!!
風がさらに強まる。
エーズは拳を握りしめ、再び戦闘態勢に入った。
「…………やってやろうじゃねえか」
バサァッ!!
バサァッ!!
二人の耳に巨大な何かが羽ばたく音が響いた。
ザディの背中。
そこから、巨大な何かがゆっくりと広がっていく。
「……………………」
ラクは目を見開いた。
エーズも言葉を失う。
風が吹き荒れる中、ザディは宙に浮かんだまま、二人を見下ろしていた。
その背中には。
巨大な翼があった。




