49.嵐の竜王③
「……どこかで見たことがあるんですが、気のせいでしょうか?」
ザディがエーズに尋ねた。
一瞬の沈黙。
そして。
「……あ!? 知り合いなのかよ、竜王様よお!」
エーズが叫んだ。
次の瞬間。
バチバチバチッ!!
足元から雷が走り、全身を駆け巡る。
「見たことあるんならよぉ……」
エーズはザディに掴まれた腕を、逆に両手で握りしめた。
「……もっと見せてやるよ!!」
「おらぁっ!!!」
バリバリバリバリッ!!
雷がザディの腕を伝い、全身へと走る。
「ぐおっ……!」
ザディの表情がわずかに歪んだ。
「ざまあみろ! バーカっ!」
エーズは叫びら掴まれた腕を引き剥がそうとした。
しかし。
「………………っ!?」
腕が、動かない。
ザディの手は、先ほどよりも強くエーズの腕を握りしめていた。
「ははっ……」
ザディは感心したように笑った。
「すごい応用だ。こんなこともできるのか」
ミシ……。
ミシミシミシッ……。
エーズの腕から、嫌な音が聞こえ始めた。
「い、いでぇっ!!」
エーズが顔を歪める。
「……やべえっ!!」
ラクが叫んだ。
次の瞬間、ラクは片手で喉元を押さえた。
そして。
《だらあああああっ!!!》
放たれた音の斬撃が、ザディを襲う。
ズバッ!!
ズバババァッ!!
鋭い音が空気を切り裂いた。
ザディの身体に、次々と傷が刻まれていく。
もともと無数の傷が刻まれていたその身体に、さらに傷が上書きされていく。
「いててっ……!」
ザディが小さく声を漏らした。
しかし。
「………………」
その手は、依然としてエーズの腕を掴んだままだった。
握る力も、まったく緩んでいない。
「や、やべえ……! 痛えっ!!」
エーズが必死にもがく。
ラクは歯を食いしばった。
(……くそっ! 効いてねえのか!?)
ザディは黙ったまま、エーズの腕を握りしめていた。
やがて、ゆっくりと口を開く。
「……このまま腕を折ろうと思ったのですが……」
「…………っ!?」
「……やめておきましょう」
ザディは、エーズの顔を見つめた。
「…………あなたたちを、このまま殺しましょう」
ギリギリギリッ!!
エーズを掴む手に、さらに力がこもる。
「ぐああああああっ!!!」
「エーズ!!」
ラクが叫ぶ。
しかし、助けに向かうことができない。
ザディのもう片方の手が、ゆっくりとラクへ向けられていたからだ。
「…………くそっ!」
ラクは再び身構えた。
ザディの手のひらの周囲で、風が渦を巻き始める。
びゅおおおおおおっ……!!
「……っ! また……来るっ!!」
ラクが歯を食いしばる。
ザディは、穏やかな口調で告げた。
「為す術もなく、殺して差し上げます」
その表情には、まだ余裕があった。
――そのとき。
バァンッ!!
銃声が鳴り響いた。
「………………!?」
ラクとエーズが目を見開く。
ザディの肩から、わずかに血が流れていた。
「……何?」
ザディが、自分の肩へと視線を落とす。
そこには、銃弾が撃ち込まれた痕があった。
「ははっ! やりぃ!!」
少し離れた場所。
銃を構えたイフの姿があった。
銃口からは、白い煙が立ち上っている。
「当たった! ちょっと効いたかもっ!」
イフは嬉しそうに声を上げた。
そして。
バン! バン! バン! バンッ!!
立て続けに銃弾を撃ち込む。
弾丸が次々とザディの身体に命中した。
硬い肉体に傷が刻まれ、わずかに血が飛び散る
だが。
ザディは、動かなかった。
エーズの腕を掴む手も、ラクへ向けた手も、そのままだった。
「………………」
ザディは、ゆっくりとイフへ視線を向けた。
「…………誰ですか? あなたは……」
イフはすぐさま銃に弾を込めた。
そして、顔を上げる。
「俺はイフ! イフ・フォーエバーだ!」
銃を構え直す。
「俺がぶっ倒してやるよっ!!」
そこには、屈託のない笑顔があった。
「………………」
一瞬、ラクが言葉を失った。
「……馬鹿っ!! 逃げろっつったろ、イフ!!」
「はははっ!」
イフは笑いながら答えた。
「……その割には、追い詰められてそうじゃん! ラク! エーズ!」
「てめえ……!!」
ラクが歯を食いしばる。
「……はあ」
ザディが深いため息をついた。
「私は、話にならない雑魚は苦手なんですよ」
その視線が、イフを捉える。
「……消えてください。イフさん」
ザディは、ラクへ向けていた手のひらを、ゆっくりとイフへ向けた。
「…………っ!!」
ラクの表情が変わった。
「やべえ!! 逃げろ、イフ!!」
次の瞬間。
ドヒュンッ!!
一点に集中した強烈な風が、イフを襲った。
「…………!?!?」
イフの身体が、宙へと吹き飛ばされる。
まるで木の葉のように、風に弄ばれながら舞い上がった。
「ぐおおおおおっ!!」
「……っ! やべえっ!! イフぅ!!!」
ラクが叫ぶ。
だが、イフの身体は止まらない。
吹き飛ばされた先。
その足元には。
地面が、なかった。
「…………え?」
イフは目を見開いた。
眼下に広がる、深い崖。
「………………あっ」
次の瞬間。
イフの身体はそのまま崖下へと落ちていった。
「イフーーーーーッ!!」
ラクの叫び声が、山中に響き渡った。




