48.嵐の竜王②
少し前。
サブとキリ。
「……サブ、最近ちゃんと寝てるの?」
キリが尋ねた。
「……ん? なんだ、急に。寝てるぞ」
「いや……最近、なんだか……」
「……?」
キリはサブの顔をじっと見つめた。
「サブ……疲れてる気がするよ?」
「つ、疲れてる?」
「うん……。今日だって、予感がするってだけでこんなところまで来たし……」
キリは少し視線を落とした。
「もちろん、私はサブを信頼してるよ。でも……」
「ははっ、疲れてなんかないさ。心配してくれてありがとな、キリ」
サブは笑って答えた。
しかし。
「………………」
キリはうつむいたままだった。
その様子を見て、サブは少し困ったように頭を掻いた。
「……疲れてる、ねえ」
そして、小さく呟く。
「……確かに、そうかもしれないな」
「……え?」
キリが顔を上げた。
「いや、最近なんだか調子が悪いというか……」
サブは言葉を探すように、しばらく黙り込んだ。
「…………イフ。挨拶しただろ?」
「……ああ、うん。覚えてるよ」
「ははっ、良かった」
「……それがどうしたの?」
サブは少しだけ表情を変えた。
「……あいつが俺の班に入ってから……」
そこで言葉を区切る。
「何かが動き始めた。そんな気がするんだ」
「…………?」
キリは首を傾げた。
「……どういうこと?」
「ははっ! 俺にもよく分からねえや!」
「…………からかってるの? サブ」
「そんなつもりじゃないって!」
サブは苦笑した。
そして、ふと空を見上げた。
「ただ……なんか、ここに来なきゃいけない……そんな気がしたんだ」
「……やっぱり、分かんないよ」
「はははっ、ごめんごめん!」
サブは再び笑った。
「こりゃ、あいつらに無駄足を踏ませて悪かったって謝らなきゃな!」
――そのときだった。
びゅおおおおおおおおおっ!!
突然、強い風が吹き抜けた。
「……っ!? なんだ!?」
サブが顔を上げる。
先ほどまでとは明らかに違う風だった。
木々が大きく揺れ、葉が激しく舞い上がる。
「……サブ! あっちの方から!」
キリは風の吹いてきた方向を指さした。
サブの表情が変わる。
「……ああ!」
彼はすぐさま駆け出した。
「向かうぞっ!!」
「うん!」
二人は、強い向かい風の中を走り出した。
***
一方。
イフ、ラク、エーズ。
三人の視線の先には、ザディが立っていた。
周囲の木々はなぎ倒され、地面には無数の枝が散らばっている。
先ほどの強風が残した爪痕だった。
「……ラクさん! マジでやばいかもっす!」
エーズが声を張り上げた。
「おう!! だからこそ、ぶっ倒しに行くぞっ!!」
ラクも負けじと叫ぶ。
「……はいっ!」
エーズは全身に雷を纏った。
バチッ!!
バチバチバチッ!!
青白い光が身体を駆け巡る。
「…………っ!」
その光景を見て、イフが口を開いた。
「あ、あの!」
「……あぁ!?」
ラクが振り返る。
「……お、俺はどうしたらいい!?」
イフは不安そうに尋ねた。
ラクは一瞬だけイフを見て、すぐにザディへと視線を戻した。
「てめえは引っ込んでろっ!!」
「……っ!」
「さっさと逃げて、サブにでも報告しろゴミ!!」
「…………うぅ!」
イフは悔しそうに唇を噛んだ。
しかし、ラクの言うことも分かっていた。
目の前にいるのは、竜王。
自分たちが今まで戦ってきた相手とは、格が違う。
「……おい、エーズ!」
ラクが叫ぶ。
「あいつ、竜王って言ってたよな!?」
「はいっ! 確かに言いました!」
「竜王をぶっ倒したら、上層部も泣いて俺たちにすがるぜ!! 昇給とかあるだろうな!?」
「いいっすね!! マジでやりましょう!!」
「おおおっし!! ぶっ倒すぞっ!!」
二人は勢いよく声を上げた。
その様子を、ザディは静かに眺めていた。
「……やれやれ。無駄な足掻きですよ、人間さん」
ラクは大きく息を吸い込む。
そして。
「…………………………」
「…………………………?」
ザディの表情が、わずかに変わった。
何かがおかしい。
あまりにも、静かだった。
(……なんだ? 急に静かに……)
ザディは周囲を見渡す。
木々の揺れる音。
風の吹き抜ける音。
葉が地面に落ちる音。
それらが。
聞こえない。
(………………いや、違う)
ザディの目が細くなる。
(静かなんじゃない……静かすぎる!!)
そして、気づいた。
(…………音が、聞こえない!?)
――その瞬間。
ザディの正面に、雷を纏ったエーズが迫っていた。
「……よしっ!!」
エーズは拳を握りしめる。
バチバチバチッ!!
雷が拳へと集中していく。
「いけるっ!!」
ドガァッ!!
雷を纏った拳が、ザディの腹部に叩き込まれた。
「……ぐほぉっ!!」
ザディの身体が、わずかによろめいた。
「よっしゃあああっ!! 当たったぜ!!」
エーズが叫ぶ。
その直後。
「……っ、ぶはあっ!!」
ラクが大きく息を吐いた。
そして、ニヤリと笑う。
「……人間様を舐めるなよ、竜人野郎」
ザディは腹部を押さえながら、ゆっくりと顔を上げた。
「…………なるほど」
その表情に、先ほどまでの余裕とは違うものが浮かんでいた。
「今の攻撃は、少し効きましたね」
「…………!」
ラクとエーズが身構える。
ザディは、二人を交互に見た。
「音……でしたね」
そして、納得したように頷いた。
「あなたが私の周囲から音を奪い、聴覚を一時的に封じた……そういうことですか?」
「…………あははっ」
ラクが苦笑した。
「マジかよ。もう見破りやがった」
「いや、本当にお見事でした」
ザディは穏やかに言った。
「……ただ、二つほどよろしいですか?」
「……?」
次の瞬間。
ガシッ!!
「…………!?」
ザディの手が、エーズの腕を掴んだ。
「……なっ!? やべっ!!」
エーズが慌てて腕を引こうとする。
しかし、びくともしない。
「…エーズッ!!腕を引き剥がして離れろっ!!」
ラクが叫んだ。
ザディはエーズの腕を掴んだまま、静かに口を開いた。
「……一つ目」
その目が、エーズを捉える。
「戦闘中に、敵の話を長々と聞くものではありませんよ?」
「……っ!!」
エーズの表情が強張った。
そして、ザディはもう一度、エーズの身体に視線を落とした。
「……それと、もう一つ」
わずかに首を傾げる。
「記憶違いなら申し訳ないのですが……」
ザディの目が、エーズの全身を見定めるように細められた。
「あなたの『雷』の力……」
一瞬の沈黙。
「……どこかで見たことがあるんですが、気のせいでしょうか?」
「………………」
エーズの表情から、笑みが消えた。




