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イフリート  作者: 野口プレシオサウルス太郎
第2章 竜征軍
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46.サブの予感


山々に囲まれた、とある村。


そこは、山の中腹に位置する小さな村だった。


急な坂道に沿って建ち並ぶ木造の家々。


村の周囲には深い森が広がり、遠くからは鳥の鳴き声が聞こえてくる。


イフたちは、村の住民に案内されながら、山道を登っていた。


「……はぁ、はぁ……結構登るなあ……」


イフが額の汗を拭う。


「お前、さっきからそれしか言ってねえぞ」


ラクが呆れたように言った。


「だって疲れるんだもん!」


「情けねえなあ……そんなんでよく軍に入れたもんだ」


「なんだとおお!?」


「はいはい、2人とも。村の人が困ってるだろ」


サブが苦笑しながら、2人の間に入った。


先頭を歩いていた村人が振り返る。


「ははは。元気な若者たちだねえ」


「……すみません」


サブが軽く頭を下げた。


やがて、一行は山道の奥にある開けた場所へとたどり着いた。


そこには。


一本の巨大な木が立っていた。


太い幹。


地面を覆い尽くすほどに広がった根。


そして、空へと伸びる無数の枝。


長い年月を生きてきたことが、一目で分かる。


イフは思わず足を止めた。


「……うわあ……」


「これが、噂の『占いの木』だよ」


村人が説明した。


「昔から、この木には不思議な力があると言われていてね。木に触れると、声が聞こえることがあるんだ」


「声……?」


イフが首を傾げる。


「その声は、その日の運勢を教えてくれるんですよね?」


サブが村人に尋ねた。


「……はい。ただ……」


村人は、目の前の巨大な木を見上げた。


「この木は気まぐれなのか……声が聞こえる人もいれば、聞こえない人もいるんです。何度触れても、何も聞こえないという人もいます」


「……ふぅん」


サブは腕を組んだ。


「……例えばなんですが。この木の力が、龍の力に関係しているという話は聞いたことがありませんか?」


「…………いえ。そのような話は……」


「いや、失礼。竜人が関わっている可能性もあるかと思いまして」


村人は不思議そうな顔をした。


「竜人……? ああ、人間を襲う、あの恐ろしい連中ですか?」


「……ええ」


「そういう風には思えませんねえ。この木は、ただその日の運勢を占ってくれるだけですから」


「………………」


サブは黙って聞いていた。


「この木から、竜人のような恐ろしいものは感じません。ただ、運勢を占ってくれる。それだけですよ」


「……なるほど」


サブは視線を落とし、何かを考えるように黙り込んだ。


すると。


「なあ、サブ!」


イフが顔を覗き込んだ。


「ちょっと試してみてもいいか!?」


「…………え?」


「占ってもらうんだよ! もしかしたら、竜人がいるかどうかも教えてくれるかもしれないだろ!」


「……ああ。そうだな。せっかく来たんだ、占ってもらうか」


「……うん!」


イフは嬉しそうに頷いた。


一行は、ゆっくりと木に近づいていった。


「…………へえー……」


イフは木の前に立ち、そっと幹に触れた。


「………………」


目を閉じる。


耳を澄ます。


………………………………。


………………。


黙ってイフを見つめる一同。


「………………何も聞こえない!」


イフが目を開けた。


「えええええええええっ!?」


「うるせえ!!」


ラクが叫んだ。


「いやだって! せっかく来たのに!」


「だから、聞こえないこともあるって言われただろうが!」


「そんなあああ……」


イフはがっくりと肩を落とした。


続いて、ラクも木に触れた。


「…………」


数秒後。


「……何もねえな」


次にエーズが触れる。


「…………」


「……俺も、特に何も」


結局、3人とも何も聞くことはできなかった。


「………………サブ。この木、特に何もなさそうだけど?」


キリが尋ねた。


「………………」


サブは腕を組んだまま、しばらく考え込んでいた。


「……そうか……」


やがて、顔を上げる。


「……よし。お前ら、この村で聞き込みをしよう」


「……え!? 帰んねえの!?」


ラクが驚いた。


「当たり前だ。俺とキリは村の反対側を調べる。ラクとエーズは、この周辺の住民に聞き込みをしてくれ」


「わかった! 隊長!」


エーズが答えた。


「…………はいはい」


ラクは面倒くさそうに返事をした。


「……ちょっと待てって、サブ! 俺は!?」


イフが慌てて尋ねる。


「………………お前は……」


サブはイフを見つめ、少し考えた。


「………………帰るか……」


「えええええええええええ!!」


「……嘘だよ。うるさいな……。ラクとエーズについていけ」


「……ほっ。良かった……」


イフが胸を撫で下ろした、その直後。


「くれぐれも!」


サブが人差し指をイフの胸元に突きつけた。


「危険な目に遭ったら、絶対に突っ込むなよ……この前みたいに、バカみてえに先陣を切ってな!」


イフは慌てて背筋を伸ばした。


「……き、危険なことなんて、そうそうないと思うけどね!」


サブが睨みつける。


「……わ、わかったよ……」


こうして、一行は二手に分かれ、聞き込みを行うことになった。





***





数時間後。


村の反対側。


サブとキリは村人への聞き込みを続けていた。


「…………サブ?」


「……どうした、キリ?」


「……結構、村の人たちに話を聞いてみたけど……特に有力な情報はなかったよ……?」


「……そうだな」


キリは少し考え込んだあと、口を開いた。


「……なんで、この村に来たの?」


「…………」


「正直、この村が竜人と関わっているとは思えないけど」


サブは、すぐには答えなかった。


しばらく黙り込んだあと、静かに口を開く。


「……いや。本当に、さっき言った通りなんだ」


「……ほんとに?」


「ああ。大マジだよ」


サブは山の向こうへと視線を向けた。


「ただ……純粋に胸騒ぎがするんだ。嫌な予感がする」


「…………」


「勘違いなら、それでよかったんだがな……」


サブは再び腕を組み、考え込んだ。


キリはそんなサブを見つめた。


「…………なんだろうね。嫌な予感って」


「……ああ。むしろ、勘違いであってほしいんだがな」



***



一方。


イフ、ラク、エーズ。


「何もわかんねえじゃねえか!!」


ラクの怒声が、村の中に響き渡った。


「あの木については、占ってくれるってことくらいしか分かりませんでしたね……」


エーズも困ったように頭を掻く。


「大体、なんで俺らはこんな田舎まで来て、こんなことをしてるんだ!! そもそも、何を調べりゃいいんだよ!? 試されてんのか!? サブに!」


ラクは腕を組み、苛立たしげに唸った。


「木に触ったら声が聞こえる。聞こえないこともある。はい、おしまい。これ以上、何を調べるんだ?」


「……わかんない」


イフは考え込むように呟いた。


「言ったじゃねえか! マジで何もねえって! サブは一体、何を考えてんだ!? こんなんだったら、家で寝てる方が有意義じゃねえか!」


イフはラクを見上げた。


「でも、サブは胸騒ぎがするって言ってたよね?」


ラクの動きが止まった。


「……ああ」


「そうっすよ! ラクさん、前に言ってましたよね。隊長の勘は鋭いって!」


エーズが会話に加わる。


「…………それは、そうなんだがよ」


ラクは納得がいかない様子で頭を掻いた。


「……ったく。あいつの勘が当たると、ろくなことがねえんだよ……」


「はははっ! 確かに!」


イフが笑った。


「笑い事じゃねえ!!」


ラクが怒鳴る。



そのときだった。


「……そもそも、『占いの木』とは一体、なんなのでしょうかね……」


ふと、誰かが呟いた。


「……知らねえよ! だから今、調べてんだろ!」


ラクが即座に言い返す。


「そうだね! まだ何も分かってないし! 俺、もう一回村の人たちに聞いてみるよ!」


イフが顔を上げた。


「そうっすね! 俺も行くよイフっ!」


エーズも頷く。


そして。


「………………………………」




3人の動きが、ぴたりと止まった。


…………。


………………。


「「「………………!?」」」


何かがおかしい。


今の会話。


誰が、話しかけた?


そもそも。


いつから、そこにいた?


あまりにも自然だった。


まるで、最初からそこにいたかのように。


3人は、ゆっくりと振り返った。


そこには。


見知らぬ男が、静かに立っていた。


「……なるほど。占いの木を調べていたんですね」


肩まで伸びた髪。


鍛え上げられた、岩のような肉体。


そして、顔に刻まれた無数の傷。


男は、3人を見つめていた。


「………………」


イフは息を呑んだ。


ラクは目を細め、エーズも警戒するように身構える。


男は、そんな3人の様子を気にすることもなく、ゆっくりと口を開いた。


「……あなたたち、軍の人間ですね?」


「………………」


誰も答えない。


男は、わずかに口元を緩めた。


「……失礼。私はザディ・サイクロトンといいます」


一瞬の沈黙。


そして。


「……『嵐の竜王』と呼ばれています」

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