45.占いの木
竜征軍本部、食堂。
イフ、ラク、エーズの三人は、テーブルを囲んで食事をしていた。
「……えっと、ラクが『音』の能力なんだよね?」
イフが口を開いた。
「ああ。そうだ。……意外と応用が利くぞ」
「へええーっ! すっげぇ!」
イフは目を輝かせた。
「……どうやって手に入れたの!?」
「………………」
ラクは黙った。
そして、少し考えてから答えた。
「…………たまたま?」
「……なにそれ!」
「いや、マジでたまたまなんだよ。……偶然」
「……偶然、能力が手に入ることもあるのか!」
イフは驚いた。
「ははっ。まあ、そういうこともあるさ」
ラクは笑いながら、食事を続けた。
すると、向かいで飯を頬張っていたエーズが口を開いた。
「……そういや、隊長の能力ってなんなんすか?」
「……本人に聞けよ」
「ええーーっ! 教えてくれっすよーー!」
「だから本人に聞けって」
ラクが呆れたように返す。
すると、イフが会話に割り込んだ。
「……あっ! そうだ! エーズは『雷』の能力なんだよね!」
「……ん? おう、そうだぜ!」
エーズは得意げに笑った。
「すげえ便利なんだぜ! 雷を纏えば超スピードで動けるし、一点に集中して纏えば、めちゃくちゃ強く殴れるんだ! しかも、相手もビリビリってなるぜ!」
「へええーーっ! すげえ!!」
イフは身を乗り出した。
「いいなあ……!」
羨ましそうにエーズを見つめる。
「……俺も能力が手に入ったら、竜人とまともに戦えたりするのかなーっ」
「……まあ、あるのとないのとじゃ、結構差があるな」
ラクが答えた。
「やっぱそうだよねっ!」
イフは大きく頷いた。
「ましてや竜王と戦うなら、必要不可欠かもしんないな!」
そう言って、イフは再びエーズに顔を向けた。
「なあなあ! エーズは『雷』の能力、どうやって手に入れたの!?」
「……お、俺!?」
エーズの動きが止まった。
「お、俺は…………」
エーズは口を開きかけた。
――その時。
「仲良いなお前ら」
背後から声がした。
三人が振り返る。
そこにはサブが立っていた。
「まあ、隊長としては仲良くなってんのは嬉しい限りだよ」
サブは三人を見渡し、微笑んだ。
すると、ラクがすかさず怒鳴った。
「……俺の周りにこいつらが勝手についてくるんだよ!」
「ははっ。ラクも満更じゃなさそうだけどな」
「……うるせえ!」
サブは苦笑した。
「……まあいい。それより、お前ら。ちょっといいか?」
「…………?」
三人が顔を見合わせる。
「ん? どうしたの?」
イフが首を傾げた。
サブは静かに告げた。
「全員で任務に出る」
「……任務ぅ!?!?」
食堂にイフの大声が響き渡った。
「来たな、任務!!」
イフは勢いよく立ち上がった。
「次はどんな竜人が相手かな! 何人いるんだろうな! どんな能力なんだろっ! 強いのかなっ!?」
興奮したイフが、矢継ぎ早に質問を繰り出す。
「……全員?」
ラクがサブを見た。
「……珍しいな、サブ。強いのが現れたのか……?」
「全員ってことは、イフも来るんすか? 隊長」
エーズも尋ねた。
「ああ。そうだ」
「やったああああああ!!」
イフが両手を突き上げた。
「お前が馬鹿みたいなことをしないように、同行するだけだ!」
サブがすかさず釘を刺す。
「戦闘になった場合、お前はすぐに逃げるんだぞ!!」
「はぁーーーいっ!」
「…………ほんとに分かってんのか」
サブは額に手を当てた。
「……それで? 何しに行くんだ?」
ラクが尋ねた。
「……………………」
サブはすぐには答えなかった。
ほんのわずかに、表情が曇る。
そして、ようやく口を開いた。
「……噂を、聞いたんだ」
「「「……噂?」」」
三人の声が重なった。
***
竜征軍本部の車庫。
イフ、サブ、ラク、エーズの四人が車へ向かうと、その前にはキリが立っていた。
「……!? キリも来んのか!?」
ラクが驚いた。
「………………」
キリは何も答えず、運転席のドアを開けた。
「……車。私が運転するから」
「……はあ!? 運転!? 俺がするよ!」
ラクが声を上げる。
キリは振り返りもせず、淡々と言った。
「…………ラクの運転、嫌いなの」
「…………っ!」
ラクは言葉に詰まった。
そして、何も言い返せないまま口を閉じた。
普段は誰に対しても強気なラクが、キリの前では妙に大人しい。
「……さっ、乗れ! お前ら!」
ラクは気を取り直すように声を張り上げた。
助手席にはサブが乗り込む。
残る三人も後部座席に詰め込まれ、車はゆっくりと走り出した。
***
中央の国、街中。
車は街並みを抜け、目的地へと向かっていた。
「…………はぁ」
ラクが深いため息をついた。
「……で? その噂って、どんな噂だっけ?」
イフが前の座席に身を乗り出した。
「ああ。中央の国のはずれにある村でな。……妙な噂が広まってるんだ」
サブは窓の外を眺めながら答えた。
「その村には、一際大きな木があるらしい」
「……木?」
イフが首を傾げた。
「……ああ。その木は『占いの木』と呼ばれているそうだ」
「「……占いの木ぃ?」」
イフとエーズが声を揃えた。
「その木に手をかざすと、どこからか声が聞こえてくるらしい」
「……声?」
「ああ。その声が、その日の運勢を教えてくれるんだと」
「…………なんだそれ」
ラクが呆れたように呟いた。
サブは続ける。
「声が聞こえるタイミングも、聞こえる内容も、人によって違うらしい。村の住民は、みんな毎日のようにその木で運勢を占っているそうだ」
「……いや、さあ。そんなの…………」
ラクが口を開いた。
しかし、その言葉を遮るようにイフが叫んだ。
「なんだよぉ! 竜人はいないのかぁ!」
「……いや、まだ分からん」
「……分からんって、お前なあ!」
ラクは後部座席から身を乗り出した。
「俺が言いたいのはなあ! そんな噂の調査に、五人も向かう必要があんのかってことだよ!」
ラクはサブを睨んだ。
「こんなの、イフのガキ一人で行かせりゃいいんだ!」
「……確かにっ!」
イフが勢いよく頷いた。
「その噂が竜人のせいだったとしても、なんか大丈夫そうだよねっ!」
「だろ!? ほら、サブ! 分かったか!」
ラクは満足げに頷くと、運転席のキリに目を向けた。
「……なあ、キリもなんか言ってやれよ!」
そう言って、キリの肩をポンと叩いた。
「………………」
キリは一瞬、黙り込んだ。
そして、冷ややかな声で言った。
「…………触らないでほしい」
「…………っ!」
ラクは慌てて手を引っ込めた。
(ラクさん……キリの前では大人しいんだな……)
その様子を見ていたエーズは、心の中でそう呟いた。
すると。
「……いや、実際。全くもってその通りなんだよ」
サブが口を開いた。
「……え?」
イフが前の座席から顔を出す。
「こんな噂、普段だったら気にも留めない」
サブは背もたれに体を預けた。
「……じゃあ、なんで行くんだよ?」
ラクが尋ねる。
サブは窓の外へと視線を向けた。
「…………ただな」
「「…………ただ?」」
イフとエーズが声を揃えた。
しばらく、サブは黙っていた。
そして、低い声で呟いた。
「……胸騒ぎがするんだよ」
「………………」
「…………嫌な予感がする」
車内が静まり返った。
さっきまで騒がしかったイフも、エーズも、何も言わなかった。
ラクは小さく鼻を鳴らした。
「……ふん」
そして、背もたれにドカッともたれかかった。
「こいつの勘……当たるんだよなあ」
誰も、それ以上は何も言わなかった。
車は静かに街を抜けていった。
***
一方――。
薄暗い洞窟の中。
静寂に包まれた空間に、誰かの声が響いた。
「…………もうすぐか!」
その声の主は、まだ見えない。




