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イフリート  作者: 野口プレシオサウルス太郎
第2章 竜征軍
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44.イフ復活


岩の竜人との戦闘から、2週間。


竜征軍本部近くの病院。


病室のベッドの上で、一人の少年が大きく伸びをした。


「んん~~~~っ!!」


白い髪を揺らしながら、少年は勢いよくベッドから飛び起きる。


イフ・フォーエバー。


「……よっしゃあああああ!!」


両手を天井に突き上げる。


「復活だあああああああ!!」


病室に響き渡る大声。


隣のベッドで眠っていた患者が、びくりと身体を震わせた。


「うるせええええええ!!」


「うおっ!す、すいません!!」


慌てて頭を下げるイフ。


しかし、数秒後。


「……っしゃ!」


イフは拳を握りしめた。


「帰るぞおおおおお!!」


そう叫ぶと、荷物をひっつかみ、病室を飛び出していった。


「おい!!まだ医者の診察が——!」


看護師の声が廊下に響く。


だが、イフの姿はもうなかった。


「……あの子、本当に大丈夫なのかしら」


看護師は深いため息をついた。




***




竜征軍本部。


入口へと続く道を、イフが全速力で走っていた。


「うおおおおお!!」


「久しぶりの本部だああああ!!」


走る。


とにかく走る。


「……あっ!」


本部の入口付近で、一人の男を見つけた。


金髪のオールバック。


エーズ・キリング。


「エーーーーーズ!!」


「……ん?」


振り返ったエーズの目に、白い髪の少年が飛び込んできた。


「おおっ!!イフ!!」


エーズは驚いたように目を見開く。


「お前、もう大丈夫なのか!?」


「うんっ!!完全復活だぜ!!」


「マジかよ!!」


エーズは嬉しそうに笑った。


「よかったじゃねえか!」


「だろ!?」


「で、どこ行くの!?」


「訓練所!!」


「!!」


エーズの目が輝いた。


「俺も行く!!」


「おう!!」


二人は顔を見合わせた。


そして。


「「うおおおおおお!!」」


同時に走り出した。


出会って間もない二人。


しかし、こういうときの息は妙に合っていた。



***



本部の廊下。


二人が全速力で走っていると、向こうから一人の男が歩いてきた。


サブ・ストレート。


「……ん?」


サブは走ってくる二人を見て、足を止めた。


「……イフ?」


「おおっ!サブ!!」


「戻ってきてたのか」


サブはイフを見つめた。


「……で、お前ら。どこに行くんだ?」


イフとエーズは、元気よく答えた。


「「訓練所!!」」


「…………」


サブの眉がぴくりと動いた。


「……お前ら、病み上がりだという自覚はあるか?」


「「ありまーす!!」」


「じゃあ大人しくしてろ」


「「はーい!!」」


二人は元気よく返事をした。


サブは小さくため息をつき、その場を立ち去る。


…………。


…………。


数秒後。


イフがエーズを見た。


エーズもイフを見た。


「……行くか!」


「……おう!!」


「待てコラァッッ!!」


廊下にサブの怒号が響き渡った。


「返事だけは一人前かお前らァ!!」


「うわああああ!!」


「逃げろイフ!!」


「うんっ!!」


二人は笑いながら、再び走り出した。


その背中を、サブは頭を抱えながら見送った。


「……ったく」


そのとき。


「……サブ」


背後から声がした。


振り返ると、キリが立っていた。


「……ん?キリ。どうした?」


キリは少しだけ表情を引き締めた。


「……例の件。調査から戻った人たちの話を聞きたい」


「……ああ」


「一緒に来てほしい」


サブは一瞬だけ考え、頷いた。


「分かった。行こう」


二人は静かに歩き出した。




***




訓練場。


「おおおおお!!」


イフが腕を回しながら、元気よく声を上げる。


「訓練だあああ!!」


「お前、さっきまで病院にいたんだよな?」


エーズが呆れたように笑った。


「おう!!」


「……もう少し病人らしくしたらどうだ?」


「病人じゃねえ!復活したんだ!!」


「はいはい」


二人が軽く身体を動かしていると、入口から一人の男が現れた。


ラク・ヴィリーブ。


「……お?」


ラクはイフの姿を見るなり、口元を歪めた。


「なんだ。死に損ないが復活したのか」


「誰が死に損ないだ!!」


イフが即座に噛みつく。


「いやあ、あの岩野郎にボコボコにされてたからよ。もう起きてこねえかと思ったぜ」


「うっ……!」


イフの言葉が止まった。


岩の竜人。


あのときの戦闘が、脳裏によみがえる。


攻撃は通じず、何度も地面に叩きつけられた。


どれだけ必死に戦っても、相手には届かなかった。


「…………」


ラクはイフの顔を見た。


「……おい?」


イフは俯いたまま、拳を握りしめた。


「……俺」


「……?」


「俺、もっと強くならなきゃ」


ラクの表情から、笑みが消えた。


イフは顔を上げる。


「岩の竜人と戦って思ったんだ」


「……」


「竜人たちは、俺よりずっと強い。俺がどれだけ頑張ったって、まだ全然敵わねえんだって」


イフは自分の拳を見つめた。


「だから……もっと頑張らないと」


そして、顔を上げる。


「もっと強くならないと、勝てない!」


その目には、確かな決意が宿っていた。


しばらくイフを見つめていたラクは、やがて口元を吊り上げた。


「……へえ」


一歩、イフに近づく。


「じゃあ、俺とやるか?」


「…………え?」


イフの顔が固まった。


ラクはニヤリと笑う。


「強くなりたいんだろ?」


「い、いや……その……」


「ほら。かかってこいよ」


「いやいや!!今日は復活祝いだから!!」


「おいおい、さっきまで威勢よかったじゃねえか」


「強くなるのと今すぐラクと戦うのは別だよ!!」


エーズも横から口を挟む。


「ラクさん!病み上がり相手に大人げねっすよ!」


ラクはエーズを見た。


「……お前もやるか?」


「…………」


エーズは一歩下がった。


「……俺、審判で」


「逃げんなっ!!」


イフの叫びが訓練場に響いた。


ラクは腹を抱えて笑った。


「はははははっ!!なんだよお前ら!!」


「笑うなよっ!!」


「いやあ、元気そうで何よりだぜ!」


「絶対思ってないじゃんっ!!」


エーズは知らん顔をしていた。


「……いい天気だなあ」


「お前もこっち来い!!」


訓練場は、すっかり騒がしくなっていた。




***




一方。


竜征軍本部、ある一室。


サブとキリは、一人の調査隊員と向かい合っていた。


机の上には、北の国に関する資料が広げられている。


サブは資料から目を離さず、静かに尋ねた。


「……調査隊の約半数が死亡した。間違いないんだな?」


「……はい」


隊員は俯いた。


「我々が派遣された調査隊のうち、約半数が……帰ってきませんでした」


サブは目を細めた。


(……北の国で死者が出たのは、何年ぶりだ?)


(氷の竜王が、動き始めているということか……?)


「……どうやって死んだ?」


サブが尋ねた。


「敵に殺されたのか?」


「……それが」


隊員は言葉を詰まらせた。


「……?」


「殺されたのは間違いありません。ただ……何が起きたのか、分からないんです」


サブは顔を上げた。


「……どういうことだ?」


隊員は震える声で答えた。


「気づいたときには……仲間たちが、一瞬にして氷漬けにされていたんです」


「…………」


「敵の姿も、攻撃も……何一つ確認できませんでした」


部屋が静まり返った。


「……我々も、そのときは何が起きたのか理解できず……逃げるので精一杯でした」


サブは資料に視線を落とした。


(姿も見せずに、複数人を一瞬で氷漬けにした……)


(……厄介だな)


「……分かった。話してくれてありがとう」


サブはそう言うと、資料を閉じた。


キリは黙ったまま、その資料を見つめていた。


その瞳は、いつもよりわずかに険しかった。


「……他に、何か思い出したことがあれば報告してくれ」


「……はい」


調査隊員が部屋を出ていく。


サブは椅子にもたれかかった。


「……面倒なことになりそうだな」


キリは何も答えなかった。




***




訓練場。


「うわああああ!!ラク!!やばいって!!」


イフが必死に走り回っていた。


「ははははっ!!逃げてんじゃねえ!!」


ラクが右腕を振る。


次の瞬間。


空気が裂けた。


音の斬撃が、イフのすぐ横を通り抜ける。


「うおっ!?」


斬撃が背後の標的に直撃した。


バキィィィン!!


標的が派手な音を立てて砕け散る。


「ちょっ!!危ないよ!!」


「訓練だろうが!!」


「訓練で標的ごとぶっ壊す奴がいるか!!」


「ここにいるだろうが!!」


「開き直んな!!」


イフは必死に走り続ける。


ラクは楽しそうに追いかける。


エーズは少し離れたところから二人を見ていた。


「……あいつら、何してんだ?」


そのとき。


「……お前ら」


背後から、低い声がした。


エーズの顔が引きつった。


「……あ」


振り返る。


そこには、腕を組んだサブが立っていた。


キリもその隣にいる。


サブは、砕け散った標的を見た。


次に、走り回るイフを見た。


そして、ラクを見た。


「…………」


「…………」


イフが足を止める。


ラクも立ち止まった。


エーズは静かに視線を逸らした。


サブが口を開く。


「……何をしている?」


イフが勢いよく答えた。


「訓練です!!」


「……ほう」


サブはラクに視線を向けた。


「ラク。お前は?」


「見学」


「エーズは?」


「…………審判……」


「……イフ」


「……主役?」


「全員、そこに正座しろ」


「「「「はい……」」」」


三人は訓練場の隅に、綺麗に正座した。


サブは腕を組む。


「……お前らは、任務というものを何だと思っている?」


「……仕事?」


ラクが小さく呟いた。


「ラク、お前は黙ってろ」


「はい」


サブはイフに向き直る。


「そもそもイフ。お前は無断で任務に同行し、結果として重傷を負った。理解しているな?」


「……はい」


「エーズ。お前も止めるどころか、加担したんだろっ?」


「……はい」


「ラク。お前は——」


「俺、関係なくね?」


「黙れ」


「はい」


サブは額に手を当てた。


「……俺はどうして、こんな奴らの面倒を見なければならないんだ」


そのとき。


「……サブ」


キリが声をかけた。


「……ん?キリ。どうした?」


「……明日、もう一人の調査隊員と話をすることになったから。一緒に来てほしい」


サブは顔を上げた。


「……ああ、分かった。明日だな」


キリは頷いた。


「……それじゃ」


「ああ。頼んだ」


キリは部屋を出ようとした。


そして、ふと足を止める。


視線の先には、綺麗に正座させられた三人。


「…………」


しばらく、無言で見つめる。


その目には、どこか哀れむような色が浮かんでいた。


イフが顔を上げた。


「あっ!キリ!!お、おはよ!」


慌てて立ち上がる。


「座れ」


サブの一喝。


「はい……」


イフは即座に正座へ戻った。


キリは小さく息を吐くと、そのまま立ち去った。


「…………」


サブは遠ざかるキリの背中を見送る。


「……あいつが一番まともかもしれない」


ラクがぼそりと呟いた。


「いや、一番容赦ねえだろ」


「……確かに」


エーズが頷いた。


イフは正座したまま、首を傾げる。


「……キリって、俺のこと嫌いなのかな?」


「「「知らねえよ」」」


3人の声が、綺麗に重なった。


「ええ!!皆酷いっ!!」


本部に、イフの叫び声が響き渡った。

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