39.岩の竜人②
一方。
西の国の街中。
サブ、ラク、エーズの三人は、竜人の目撃情報を集めていた。
「……とにかく、でかいやつだった!」
「大きくてねえ……この家くらいはあったかなあ」
「そう! でけえやつが暴れまくったんだよ!」
「…………」
「…………」
「…………」
三人は黙り込んだ。
「……おい」
ラクが額を押さえる。
「デカいって情報しかねえじゃねえか!!」
「いやいや! マジででかいんすよ! たぶん!」
エーズが必死に弁解する。
「たぶんじゃねえよ! でけえだけじゃ何もわかんねえだろうが!」
「いや、でも本当にでかかったんだって!」
「だからそれ以外の情報を寄越せっつってんだよ!!」
「ひぃっ!」
ラクの怒声に、エーズが肩をすくめた。
そんな二人をよそに、サブは腕を組み、静かに考え込んでいた。
「…………」
「……どした? サブ」
ラクが横目で尋ねる。
サブは少し考えてから、口を開いた。
「……いや」
「…………」
「ここまで聞いても、デカいという情報しか出てこない」
サブは周囲の建物を見渡した。
「ということは……それ以外に、目立った特徴がないのかもしれない」
「…………」
ラクの表情が変わる。
「……確かに」
「見た目が大きい。それ以外の特徴があまり語られない……」
サブは顎に手を当てた。
「巨大な身体そのものが、特徴なのかもしれないな」
「……ってことは?」
ラクが尋ねる。
「デカくて、地味な能力……」
サブは呟いた。
「岩の身体を持つ竜人、とかか……?」
「…………なるほどな」
ラクが納得したように頷いた。
「まあ、でも!まだ断定はできないっすよねえ!」
エーズが口を挟む。
「いや? エーズ、そうでもないぞ」
「……え?」
ラクがニヤリと笑った。
「こいつの勘はえぐいんだよ。たぶん確定だろ」
「マジっすか!?」
「……あくまで推測だ」
サブは淡々と答えた。
「現地で確かめるまでは、決めつけるなよ」
「了解っす!」
エーズは元気よく返事をした。
そして、ふと思い出したように尋ねた。
「そういえば隊長。竜王って、そんなに強いんすか?」
「ああ。強いよ」
サブは即答した。
「へえー! そうなんだ!」
エーズは興味津々といった様子で身を乗り出した。
「竜王については、どれくらいわかってるんすか?」
「…………」
サブは少し黙り込んだ。
「……今、存在が確認されているのは六人だ」
「……六人!?」
エーズの目が見開かれる。
「光の竜王ラー。氷の竜王ヘルあと破壊の竜王」
サブは指を折りながら続けた。
「それから、今追ってる……風を吹かせるという竜王。時間を止めるという竜王もいるらしい」
「……時間!?」
エーズが思わず声を上げた。
「時間止めるって、チートじゃないっすか!!」
「……まだ詳しいことはわかっていない。能力の全貌も、どこまでが事実なのかもな」
「へええ……」
エーズは感心したように唸った。
「……あと一人は?」
「…………」
再び、サブが黙り込む。
その隣で、ラクがニヤニヤと笑い始めた。
「……あと一人はな」
「……はい?」
ラクは親指でサブを指した。
「こいつが倒してるよ」
「…………」
「…………」
一瞬。
周囲の音が消えたような沈黙が流れた。
「…………え?」
エーズがサブを見つめる。
「…………」
サブは何も言わない。
そして。
「ええええええええええええっ!?」
街中にエーズの叫び声が響き渡った。
「すげえええええ!! マジっすか隊長!!」
「……あんまり言うなよ、ラク」
サブが呆れたように言う。
「いやいやいや! すごすぎるでしょ!!」
エーズは目を輝かせながらサブに詰め寄った。
「ということは……隊長! 竜王の能力も持ってるって事っすか!?」
「…………」
サブはエーズを一瞥した。
「……秘密だよ」
「えええええ!? 教えてくださいよおおお!!」
「はははははっ!」
ラクが腹を抱えて笑った。
「お前、隊長のこと好きすぎだろ!」
「だって気になるじゃないっすか!!」
賑やかな三人の声が、街に響く。
しかし、その頃。
彼らの仲間である白髪の少年は、ひとりで死闘を繰り広げていた。
***
一方、教会。
「…………」
イフは目の前の光景に、呆然としていた。
銃弾は、確かに命中した。
岩の身体に、確かな傷をつけたはずだった。
それなのに。
「…………ん?」
イーシスは、自分の身体を見下ろした。
そして、銃弾が当たった箇所を指でゴリゴリとかき始めた。
「…………」
「…………」
「……え?」
イーシスが首を傾げた。
「……まじ?」
イフの顔から、血の気が引いた。
効いていない。
まるで、痛みすら感じていないかのようだった。
「……おい」
イーシスがゆっくりとイフの顔を見る。
「……今、僕を撃ったのか?」
「…………」
「……ふうん」
その瞬間。
「なめるなよ、人間!!」
ゴオッ!!
巨体が動いた。
イーシスは教会の椅子も机も構わず、腕を大きく振り回した。
「うおおおおおっ!!」
イフは地面を蹴り、間一髪で飛び退く。
バキィッ!!
木製の椅子が粉々に砕け散った。
ドゴォォォォォン!!
続けざまに机が吹き飛び、壁に激突する。
「うわああああっ!!」
イフは転がるようにして攻撃をかわした。
(マジでやべえ!!)
荒い息を吐きながら、イーシスを見上げる。
(銃が……通用しねえ!!)
イフの脳裏に、かつてダラーから教わった言葉が蘇った。
♢
「銃だけで勝てると思うな」
ダラーは、いつになく真剣な顔で言った。
「竜人は全員、何かしらの能力を持ってやがる」
「…………」
「銃を撃つ前にやられることだってある。撃った弾を防がれることだってある」
ダラーはイフを見据えた。
「銃を持ってるからって、てめえが強くなったわけじゃねえんだ」
♢
「…………っ!」
イフは歯を食いしばった。
(くそっ……どうしたらいいんだ!?)
再び、イーシスが迫る。
巨体が床を踏み鳴らすたび、教会全体が揺れているようだった。
(……そうだ!)
そのとき、もう一つの言葉が蘇った。
♢
「だからこそ、身体を鍛える」
ダラーは指を一本立てた。
「頭を使う。相手の能力を知る」
そして、イフの額を指で小突いた。
「どんな状況でも、生き残れるようにするんだ」
♢
「…………!」
イフの目が見開かれた。
「……そうだ!」
銃を握り直す。
「頭だ……! 頭を使え!」
イフはイーシスを注意深く観察した。
ごつごつとした岩の身体。
太く、巨大な腕。
そして、一歩踏み出すたびに大きく揺れる巨体。
「……あいつは岩みたいに硬い」
イフは呟いた。
「そんなの、見ればわかる……!」
イーシスが腕を振り上げる。
「うおおおっ!!」
振り下ろされた拳を、イフは必死に横へ飛んでかわした。
ドゴォォォンッッ!!
床が砕け、石片が飛び散る。
「……っ!」
イフは転がりながらも、イーシスから目を離さなかった。
(……今の攻撃!)
(デカいけど……動きが遅い!!)
イフの表情に、わずかな希望が浮かぶ。
「そうじゃん……!」
イフは立ち上がった。
「さっきの攻撃だって、俺でも避けられたじゃないか!」
銃を構え直す。
「よし……!」
息を整える。
「もっと考えろ……! 弱点を探すんだ!」
「弱点……っ!弱点……っ!弱点……っ!」
イーシスの動き。
岩の身体。
攻撃の癖。
何かあるはずだ。
必ず、弱点が――。
その瞬間だった。
ドゴォオオオオン!!
「……っ!?」
背後から、凄まじい衝撃が走った。
「ごほっ……!!」
イフの身体が地面にめり込んだ。
口から血が飛び散る。
銃が手から離れた。
「…………え?」
何が起きたのか、理解できなかった。
身体が痛い。
息ができない。
視界が揺れる。
イフは床に倒れ込み、かろうじて顔を上げた。
そこにいたのは。
イーシスと、よく似た巨大な岩の身体。
もう一体の、岩の竜人だった。
「…………」
イフの瞳が震える。
「……うそ……だろ……?」
二体目。
敵は、一体だけではなかった。
教会の静寂の中。
岩の竜人たちが、倒れたイフを見下ろしていた。




