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イフリート  作者: 野口プレシオサウルス太郎
第2章 竜征軍
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37.まだ見ぬ竜王


数日後。


竜征軍本部、食堂。


昼食時の食堂は、多くの隊員たちで賑わっていた。


その一角。


イフとエーズは、向かい合って座りながら、楽しそうに食事をしていた。


「へぇ! サブにスカウトされたんだ!」


イフが目を輝かせる。


「ああ! そうよ! 隊長に実力を認められたってことだな! 俺ってこう見えて強いんだぜ?」


エーズは得意げに胸を張った。


「すごい!」


「お前もすごいって! あの総司令官のダラーに育てられたんだろ?」


「あ、ああ…! いやぁ……えへへ。まだまだだよ」


イフは照れくさそうに頬をかいた。


そんなイフを見てエーズは嬉しそうに笑った。


「だけど、すげえよな!」


「ん?」


「子供の頃の友達と、またこうやって軍で出会えるなんてさ! しかも、同じ部隊だぜ!?」


「……うん!」


イフは満面の笑みを浮かべた。


「ほんとだよね! 嬉しいよ!」


二人は顔を見合わせ、笑い合った。


しばらくして、イフはふと思い出したように口を開いた。


「そういえばさ、俺たちの部隊って四人なの?」


「あ?」


「俺とサブとラクと……エーズだけ?」


「ああ、確かキリってやつもいたな!」


「へぇ……キリかぁ……」


イフは聞き慣れない名前を口の中で繰り返した。


「うん! 俺もあんまり話したことないけどな! なんか冷たいやつだったな!」


「そうなんだ! じゃあ、今度会ったら挨拶しないとね!」


「おう!」


再び笑い合う二人。


そのときだった。


「あ、あとさ! ちょっと気になったんだけど!」


イフが何かを思い出したように身を乗り出した。


「……ん?」


「やっぱりスカウトってことは、相当頑張ったの?」


「……え?」


「それとも……」


イフは言葉を切ると、エーズは察したかのように意味ありげに拳を前へ突き出した。


イフはその拳を見つめる。


そして、ハッとした。


「……竜人の能力を手に入れた……だろ?」


エーズは自信満々に笑った。


「……!」


イフの目が大きく見開かれる。


「能力持ってるんだ!? やっぱり!!」


「……ご名答!」


「すげえっ!! ねぇ、どんな能力!? 何の能力!?」


身を乗り出し、目を輝かせるイフ。


エーズが答えようとした、そのとき。


「……楽しそうだな、お前ら」


二人の会話に、低い声が割って入った。


「……サブ!」


「……隊長ぉ!」


そこに立っていたのは、数枚の資料を手にしたサブだった。


「お前ら、仲良くなってそうでよかったよ」


サブは二人の様子を見て、わずかに表情を緩めた。


そして、手元の資料に目を落とす。


何枚かの書類をめくり、そのうちの一枚を取り出した。


「……エーズ」


「はい?」


「急で悪いが、今からラクと俺の三人で任務に出よう」


「おっ! 任務っすか!?」


エーズの表情が一気に明るくなる。


「隊長! 今度はどんな任務です!?」


「ああ。西の国で竜人が出現したらしい。被害が大きくなる前に向かう。明日には現地に着く予定だ」


「……竜人!?」


その言葉を聞いた瞬間。


イフが勢いよく立ち上がった。


「……ついに……!」


拳を握りしめ、目を輝かせる。


「……戦うんだ! 俺!!」


しかし。


「…………」


サブは資料をしまうと、淡々と言い放った。


「お前は留守番でもしとけ」


「…………え?」


イフの動きが止まった。


「…………」


「…………」


「…………がーーーーん!!」


イフはその場で肩を落とした。


エーズはそんなイフを見て、苦笑いを浮かべる。


サブは気にする様子もなく、食堂を後にした。


「……そんなぁ……」


イフの小さな嘆きが、賑やかな食堂に響いた。





***





竜征軍本部。


地下の廊下。


薄暗い通路を、一人の男が歩いていた。


ラク・ヴィリーブ。


その表情には、隠しきれない苛立ちが浮かんでいた。


「……くそぉ。上層部の野郎ども……」


吐き捨てるように呟く。


「あいつら、何もしねえくせに偉そうにしやがって……!」


やがて、ラクは一つの扉の前で足を止めた。


鍵を開け、扉を押し開く。


そこは、竜人を収容するための牢屋だった。


鉄格子の向こう側。


床に座り込んでいた男が、ラクの姿を見るなり勢いよく立ち上がった。


チチン・ピラッピー。


「あっ! おはようごぜえやす! 旦那!」


「……元気そうだな」


「へい! まあ、怖かったっすけど……ここならザディ様も来なそうなんで、安心してるんでさぁ!」


「…………」


ラクは無言でチチンを見つめた。


そして、静かに口を開く。


「……いつでも殺せるぞ? お前」


「いやああああっ!! すいやせん!! 知ってることは全部話しますんで! 命だけはああああっ!!」


チチンは慌てて鉄格子にしがみついた。


「……まあいい」


ラクは近くにあった椅子を引き寄せ、腰を下ろした。


鉄格子越しに、チチンを見据える。


「お前の言ってたザディって奴……今、動き始めてるんだってな」


「へい! その通りでさぁ!」


「…………」


ラクはしばらく黙り込んだ。


そして。


「……なんでだ?」


「……へい?」


「なぜ、今になって動き始めた?」


ラクの声が、わずかに低くなる。


「…………」


チチンは困ったように首を傾げた。


ラクは小さく舌打ちする。


「……いや。正確には、なぜ今まで動かなかった?」


「……え、えぇっと……」


「俺もここで十年くらい働いてっけどよ……」


ラクは背もたれに身体を預け、天井を見上げた。


「お前らの言う竜王って奴には、一度も会ったことがねえんだわ」


「……あ、そうなんですね」


「…………」


ラクの目が、再びチチンを捉えた。


「……知ってること、全部聞かせろ」


「ほあああっ! 怖いですって、旦那ぁ!」


「他の竜王の動きはどうなってる?」


ラクは畳みかけるように問いかけた。


「居場所は? どんな奴だ? 能力は?」


「ひいいいっ! そ、そんなに一気に聞かれてもぉ!」


「とぼけんじゃねぇ! カスッ!」


ラクが身を乗り出す。


「拷問して、無理やりにでも吐かせてやっていいんだぞ?」


「ひいいいいっ!! ごめんなさいいいい!!」


チチンは涙目になりながら、必死に首を振った。


「お、俺も詳しいことはわかんないんですぅ!!」


「…………あ?」


「俺は弱くて、他の奴らから虐められてばっかりで……! 元々、読書とお花が好きな平凡な人間だったんですぅ!!」


「…………」


ラクはしばらくチチンを見つめた。


「……なんだそれ」


呆れたように呟く。


「そんな見た目でかよ……」


「へいいいいっ! ごめんなさいいいい!!」


チチンは勢いよく床に頭を擦りつけた。


「…………」


ラクは深くため息をついた。


一拍。


二拍。


やがて、チチンが恐る恐る顔を上げた。


「…………ただ……」


「……ん?」


ラクの目が細くなる。


「ただ……ザディ様の能力は……」


「……ザディの能力?」


ラクはわずかに身を乗り出した。


「知ってんのか?」


「く、詳しくは知らないです! ただ……!」


「…………ただ?」


チチンは必死に記憶をたどるように、視線を宙へさまよわせた。


そして。


「…………風が吹いてました」


「…………は?」


ラクの眉が、ぴくりと動いた。


「……風?」


「はい……」


チチンは小さく頷いた。


「あの人の手からは……風が吹いてました」


「…………」


ラクは黙り込んだ。


薄暗い地下牢に、沈黙が落ちる。


ザディ。


まだ見ぬ竜王。


なぜ、今になって動き始めたのか。


そして、その手から吹いていたという風の正体は――。


ラクは鉄格子の向こうにいるチチンを、じっと見つめ続けていた。

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