2.逃亡計画
ある日、仕事の合間に、一人の少年がイフに声をかけた。
「なあ、イフ」
「なんだよ……。話してたら、また叩かれるぞ」
「いいから聞けって!」
少年の名前は、アルト。
イフと同じく、奴隷として働かされている少年だった。
アルトは周囲を気にしながら、声を潜めた。
「俺と一緒に、ここから逃げないか?」
「……え?」
イフは思わず聞き返した。
「逃げるって……どこに?」
「街だよ、街!」
アルトは興奮を抑えきれない様子で話し始めた。
「俺の父ちゃん、前は漁師だっただろ? ここから五キロくらい先に港があるじゃん。そこから船でずーっと進めば、街の方に行けるらしいんだ!」
「そんなの……子供だけじゃ無理だよ。それに、船なんてないだろ?」
「あるんだよ!」
アルトは自信満々に答えた。
「父ちゃんが、船を隠し持ってたらしいんだ!」
「え……?」
「ずっと逃げるタイミングを探してたんだってさ! それで、三日後の深夜なら警備が緩くなるって!」
イフは黙って話を聞いた。
「竜人ども、俺たちが逃げるわけないって思い込んでるらしいぜ。定期的に集まって、酒を飲みまくるんだとよ!」
アルトは悔しそうに顔を歪めた。
「クソ竜人ども……!」
それから、イフの顔をまっすぐ見つめた。
「なあ、お前も母ちゃんを連れて逃げようぜ!」
「……お母さんも?」
「もちろんだって!」
アルトは笑った。
「街まで行けば、安全に暮らせるかもしれないだろ? それに、飯だってたらふく食えるんだぜ!」
「飯……?」
「ああ! 今まで食ったことないようなもんだって、いっぱいあるはずだ!」
その言葉を聞いた瞬間、イフの頭に母親の顔が浮かんだ。
ハンバーグ。
オムライス。
母親が話してくれた、夢のような食べ物たち。
街に行けば、それが本当に食べられるのかもしれない。
そして何より、母親と一緒に、今とは違う暮らしができるのかもしれない。
「ま、マジかよ……!」
イフの顔が、ぱっと明るくなった。
「わ、わかった! 俺、お母さんに話してみる!」
「おう! 約束だからな!」
アルトは嬉しそうに笑った。
その日、イフは久しぶりに、明日が来ることを楽しみにしていた。




