114.キリと氷の竜王
本部、一室。
静かな部屋の中で、サブとキリが向かい合っていた。
二人の間には、どこか重苦しい空気が漂っている。
先に口を開いたのは、キリだった。
「……居場所が……わかったんだ」
ぽつりと、呟く。
その声は小さかった。
「……あぁ。一ヶ月後、襲撃に向かうことになった」
サブは落ち着いた口調で答えた。
「…………サブも……行くよね」
「あぁ。もちろんだ」
迷いのない返答だった。
キリは俯いたまま、黙り込んだ。
膝の上で、そっと手を握る。
長い間、探し続けてきた相手。
ようやく、その居場所がわかった。
それなのに、キリの表情は晴れなかった。
むしろ、何かを思い詰めているようにも見えた。
そんなキリを見て、サブもまた、難しい表情を浮かべる。
「……お前、ずっと氷の竜王の居場所を探してたもんな」
「……うん」
キリは顔を上げなかった。
しばらくの沈黙。
やがて、サブが静かに尋ねた。
「……お前も、行くか?」
「…………」
「無理はしなくていいぞ」
サブはそれ以上、何も言わなかった。
行くべきだと命令するつもりもなければ、無理に引き止めるつもりもない。
決めるのはキリ自身だ。
キリは俯いたまま、少しの間考え込んでいた。
そして、ゆっくりと口を開く。
「……サブは」
「ん?」
「サブは……私に行ってほしい?」
サブは一瞬だけ黙った。
そして、キリの目を見て答えた。
「……あぁ。当然だ。ここまで一緒に戦ってきたからな」
「…………そう」
キリは再び俯いた。
「………………」
「………………」
二人の間に、静寂が流れる。
やがて。
「……行くよ……私」
キリは、小さな声でそう告げた。
サブは静かに頷く。
「……そうか。わかった」
それ以上、二人は何も語らなかった。
ただ、キリの決意を受け止めるように、サブはその場に座り続けていた。
***
数時間後。
本部、一室。
そこにはサブを中心に、イフ、ラク、エーズの三人が集められていた。
しかし、キリの姿はなかった。
「……氷の竜王!?」
サブの話を聞いたイフが、目を見開いた。
「氷の竜王って! 北の国を壊滅させた奴っすよね!? ついに見つけたんすか!?」
エーズも驚きの声を上げる。
「あぁ。一ヶ月後、襲撃に向かうことになる」
サブが淡々と答えた。
「ははっ。ついにかよ」
ラクが楽しそうに笑った。
「ラク……」
サブがその名を呼ぶ。
「……ん?」
「俺とラクで、氷の竜王を仕留めることになってる」
「そうだろうな。実績あるもんな」
ラクはさして驚く様子もなく、軽く頷いた。
「それと、エーズ」
「……はい!」
突然名前を呼ばれ、エーズが背筋を伸ばす。
「お前も俺らと戦うぞ」
「っ! はい!」
エーズは力強く返事をした。
その表情には、緊張と、それ以上の意気込みが浮かんでいた。
「俺はどうすればいい!?」
話を聞いていたイフが、勢いよくサブに尋ねる。
サブはちらりとイフを見た。
「お前はお留守番だ」
「えええええええ!?」
イフの叫び声が部屋に響き渡った。
「……前にも見たな。このやり取り」
ラクが呆れたように呟く。
「嘘だよ」
「そだよな!」
イフの表情がぱっと明るくなる。
「だがな、イフ」
「ん?」
サブの声色が変わった。
先ほどまでの軽いやり取りとは違う。
「今回の氷の竜王との戦い……。マジでどうなるかわからん」
「……う、うん」
イフの表情から、笑みが消えた。
「馬鹿みたいに前陣を切るようなマネはやめろ。前の竜王との戦いじゃ、お前は奇跡的に生き残ったようなもんだ」
「……うん」
サブの言葉に、イフは素直に頷いた。
あの戦いが、どれほど危険なものだったのか。
サブは決して忘れていない。
そして、イフ自身も。
「……だから変なマネは絶対するなよ」
「……え?」
イフが顔を上げる。
サブは一拍置いてから告げた。
「今回は一緒についてこい」
「いいの!?」
イフの顔が一気に明るくなった。
「あぁ。だが、あまり出しゃばるなよ」
「……わかった!」
イフは勢いよく頷いた。
その様子を見て、ラクがサブに視線を向ける。
「おい、サブ。……いいのかよ」
「ん? あぁ。少し俺の戦いを見せてやろうと思ってな」
「……なるほど?」
ラクは意味ありげに笑った。
「さすがっすね、隊長! もう勝つ気でいるんすか?」
エーズが感心したように声を上げる。
サブは当たり前のように答えた。
「……当然だろ。今回はラクもいる。確実に勝つ」
「ははっ」
ラクは思わず笑った。
その笑いには、サブの自信を疑う様子など微塵もなかった。
むしろ、どこか楽しんでいるようだった。
「ちょ、ちょっと待ってよサブっ!!」
突然、イフが声を上げた。
「ん? 今度はどうした?」
サブが面倒くさそうに振り返る。
「いや、気になってたんだけどさ! 氷の能力って、キリが既に持ってなかったっけ!?」
「……お前、前に氷の竜王のことは話しただろ」
「えっ! そうだっけ!」
「……お前……」
サブは思わず額を押さえた。
「いや! だけどさ! 氷の能力を分け与えて、部下をいっぱい引き連れてるのはさっき聞いてさ!」
「……あぁ」
「……なんで……キリは氷の能力を持ってるの?」
「…………た、確かに」
エーズが思わず呟いた。
言われてみれば、その通りだった。
氷の竜王は、自らの能力を分け与え、多くの竜人を従えている。
ならば、キリもその一人なのだろうか。
それとも、別の理由があるのだろうか。
「………………」
「………………」
サブとラクは、一瞬だけ視線を交わした。
そして、二人そろって黙り込んだ。
ほんのわずかな間だった。
しかし、その沈黙には何かを考え込むような意味があった。
「ど、どういうことっすか!? 隊長!」
エーズがたまらず尋ねる。
やがて、サブが口を開いた。
「……氷の竜王は」
イフとエーズが、同時にサブへ視線を向ける。
「氷の能力を分け与えまくって……今や何百人もの竜人を率いている」
「……う、うん」
イフが頷く。
「だから、その拍子にたまたま能力をポロッともらっちまったか……。既に氷の能力を手に入れた竜人から譲り受けたか……」
「……うん」
イフは真剣な表情で話を聞いていた。
サブはそこで、言葉を切った。
「…………もしくは……」
その先を口にする前に、サブは再び黙り込んだ。
部屋に、静寂が落ちる。
氷の竜王とキリ。
二つの存在を結びつける、もう一つの可能性。
それが何を意味するのか。
まだ、誰も口にしてはいなかった。
【読者の皆様へお願い】
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます。
もし「続きが気になる」「面白い」と少しでも思っていただけたら、画面下部にある【ブックマークに追加】と、【評価システム(星★★★★★)】から応援ポイントをいただけると、執筆の凄まじい励みになります。
皆様の手元の1ポチが、この作品がより多くの人に届くための最大の力になります。よろしくお願いいたします。




