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イフリート  作者: 野口プレシオサウルス太郎
第4章 キリ・フラッシュ
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113.緊急隊長会議②



本部、会議室。


その一室には、竜征軍の隊長たちが勢揃いしていた。


今回の会議を招集したのは、第二部隊隊長。


キラン・E・ケメンディ。


北の国出身の人間であり、氷の竜王によって壊滅させられた故郷を復旧させるため、長年にわたって奴の行方を追い続けてきた男だった。


そして、その場には当然、サブの姿もあった。


隊長たちが席につき、会議室が静まり返る。


キランは一同を見渡すと、ゆっくりと口を開いた。


「集まってもらってありがとう、皆」


一度、言葉を区切る。


「……僕たち第二部隊は、北の国を壊滅させ、国土を氷で埋め尽くした氷の竜王の所在を……ずっと調査してきた」


隊長たちの視線が、一斉にキランへと集まった。


サブもまた、腕を組んだまま黙って話を聞いていた。


「それで今回の調査で、僕の部下である調査隊員が、部隊とはぐれてしまったんだ」


「………………」


誰も口を挟まない。


「北の国は、極限にまで寒冷化されている。そんな場所で人間が一人、はぐれたんだ。生存は絶望的かと思われた……」


キランの表情が、わずかに曇る。


「それでも僕たちは調査を続けながら、その隊員の行方を探した。そして……なんとか見つけることができたんだ」


彼はそこで一度、息をついた。


「……察しがついている人もいるだろうが」


キランは隊長たちを見渡した。


「その調査隊員が、氷の竜王の居場所を特定した」


「……おおっ!」


「ついにか!」


会議室に、ざわめきが広がった。


椅子から身を乗り出す者もいれば、隣の隊長と顔を見合わせる者もいる。


長年、正体も居場所も掴めなかった敵。


その所在が、ついに判明したのだ。


「ああ。長い調査の末、ようやく見つけることができた」


キランは力強く頷いた。




そのとき。


サブが、小さく片手を上げた。


「……ん? どうした、サブ?」


「氷の竜王はどこにいるんだ?」


「……話が早いね、サブは」


キランはそう言うと、持参していた一枚の写真をテーブルの中央に叩きつけた。


バンッ!


「この氷の城に! 奴はいるっ!」


「……氷の城?」


隊長たちが、写真を覗き込む。


そこに写っていたのは、巨大な氷の城だった。


天を突くような尖塔。


鋭く伸びた氷の装飾。


城全体が冷気をまとっているかのような、異様な光景。


自然にできた氷の造形物とは思えない。


まるで、誰かが人間の恐怖を形にしたかのような城だった。


その場にいた誰もが、同じことを思った。


――なんて悪趣味な城だ。


「この写真は、その調査隊員が撮影したものだ。間違いなく、奴はそこにいる!」


キランは拳を握りしめた。


「今こそ、氷の竜王を攻めるときだ! 奴だけは……必ず殺さなくてはならないっ!」


故郷を奪われた男の声には、抑えきれない怒りが滲んでいた。


しかし。


「……キラン、落ち着け。俺の質問はまだ途中だ」


サブの冷静な声が、会議室に響いた。


「……っ! ……な、なんだ?」


キランが振り返る。


サブはテーブルの写真を見つめたまま、淡々と口を開いた。


「確かに……いかにも悪趣味な城だ」


そこで一度、言葉を切る。


「……だが、何故、氷の竜王がそこにいると断言できる?」


「ああ、それで……その調査隊員は、氷の城の内部にまで侵入できたんだ」


「なに? 氷の竜王と接触したのか?」


「いや。接触したのは、側近の竜人だと聞いている」


その言葉に、再び周囲がざわついた。


氷の城。


そこにいた竜王の側近。


調査隊員が実際に城の内部まで侵入し、その存在を確認したという。


氷の竜王がそこにいるという情報は、かなり確度の高いものに思えた。


だが。


「……いや、待て」


サブが再び声を上げた。


ざわめきが止まる。


「……確かに、奴が氷の軍団を率いているという情報はある。側近がいても、おかしくはねぇな」


「……な、なんだ? サブ。まさか、ここまで情報が揃っているのに、竜王がいない可能性があるとでも言うのか?」


「いや、そうじゃねぇ」


サブは首を横に振った。


「俺が言いたいのは……よく、その側近と接触して逃げきれたなってことだ」


「……ん? 何が言いたいんだ?」


「氷の軍団……。北の国を氷で埋め尽くし、壊滅させた脅威の存在だ」


サブは写真から目を離さなかった。


「その竜王の側近ともなれば、実力も相当なもんだろう。そんな奴がいる城に侵入して、無事に帰ってこられるもんかね」


「……た、確かにそう思うが」


「……俺は、これを罠だと思ってる」


「……なに!?」


会議室の空気が、一瞬で変わった。


サブはようやく顔を上げ、周囲を見渡した。


「北の国を壊滅させて、こんな悪趣味な城まで造ってる連中だ。まともな考えを持ってるとは思えねぇ」


一呼吸置く。


「……竜征軍の人間をなるべく大勢引きつけて、まとめて殺す。それが奴らの魂胆なんじゃねぇか?」


「…………な、なんだと……」


キランは歯を食いしばった。


せっかく掴んだ、氷の竜王の居場所。


長年の調査が、ようやく実を結んだのだ。


それなのに、目の前の男は、その情報そのものを疑っている。


「じゃ、じゃあ! 居場所が分かったのに、攻め込まないとでも言うのか!!」


キランの声が会議室に響き渡った。


「そうじゃねぇ、キラン。落ち着け」


「……っ!」


サブは声を荒らげることなく、静かに続けた。


「この竜王と、その軍団。分かっているのは、全員が氷の能力者だってことくらいだ。それ以外の情報は、ほとんどねぇ」


サブはテーブルに置かれた写真を指で叩いた。


「相手の能力も、戦力も、どこまでのことができるのかも分からねぇ。そんな奴らの本拠地に攻め込むんだ」


そして、隊長たちを見渡す。


「やるなら、相当な戦力を揃える必要があるだろうな」


「ああ……だからこそ、こうして今……」


「……キラン」


サブが言葉を遮った。


「お前も当然、討伐に行くんだろ?」


「…………当然だ」


キランは迷いなく答えた。


その目には、故郷を奪った敵への怒りが燃えていた。


「……そうか」


サブは小さく頷いた。


「じゃあ、今すぐってわけにはいかねぇな」


「……っ、なに!?」


「氷の竜王との戦いがどうなるかは分からん。だが、お前の力は必須だ」


「……ああ」


「それに、お前は調査に出ていて知らないと思うが……俺の班は、時の竜王と嵐の竜王の討伐に成功した」


「……なんだと!? そうなのか!?」


キランが目を見開いた。


周囲の隊長たちも、改めてサブに視線を向ける。


時の竜王と嵐の竜王。


いずれも、竜征軍にとって無視できない脅威だった存在だ。


「おう。つい二ヶ月ほど前にな……」


サブは淡々と答えた。


「ただ、その戦いで負傷者も結構出てる。まだ完全に回復していない隊員もいるだろう」


「そんなことが……!」


キランは驚きを隠せなかった。


「それに……」


サブはキランの顔を見た。


「お前自身も、調査から帰ってきたばかりだろ。疲れきってるじゃねぇか」


「……っ!」


キランは言葉に詰まった。


確かに、長期間に及ぶ北の国での調査は過酷だった。


極寒の地を歩き続け、危険と隣り合わせの調査を続けてきた。


ようやく故郷を取り戻すための手掛かりを掴んだというのに、ここで休めと言われているのだ。


悔しくないはずがなかった。


それでも。


「…………」


キランは拳を握りしめ、押し黙った。


サブの言っていることが正しいと、理解していたからだ。


「……くっ! ……じゃ、じゃあ……」


キランが、絞り出すように口を開いた。


「……決戦は……」


「……ああ」


サブは頷いた。


そして、会議室にいる全員へと視線を向けた。


「決戦の日取りは、これから細かく話し合う。だが、大まかな予定は決めておく」


サブは、テーブルの上に置かれた氷の城の写真を見下ろした。


「……一ヶ月だ」


その場にいた全員が、息を呑んだ。


「一ヶ月後。竜征軍総出で、氷の竜王の本拠地を襲撃するぞ」


その言葉を最後に、会議室は静まり返った。


誰もが、目の前の写真を見つめていた。


氷に覆われた城。


その奥に、氷の竜王がいる。


長い年月をかけて追い続けてきた敵が、ついに手の届く場所にいるのだ。


しかし、サブの言葉が頭から離れない者もいた。


――これが罠だったら?


もし、あの城が竜征軍をおびき寄せるための餌だったとしたら。


一ヶ月後、彼らは自ら敵の懐へと飛び込むことになる。


それでも、進むしかなかった。


北の国を取り戻すために。


これ以上、竜王たちの脅威を放置しないために。


そして、これまでに失われた命に報いるために。


サブは、写真に写る氷の城をじっと見つめていた。


表情は変わらない。


だが、その頭の中では、すでに幾通りもの戦いが組み立てられていた。


敵の能力は分からない。


戦力も分からない。


罠である可能性も、否定できない。


――だからこそ、考えなければならない。


どんな敵が待ち受けていようと、勝つために。


サブは静かに目を細めた。


一ヶ月後。


竜征軍と氷の軍団が、激突する。







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