↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
イフリート  作者: 野口プレシオサウルス太郎
第4章 キリ・フラッシュ
PR
115/121

111.こんな日がずっと



一ヶ月後。


竜征軍本部、近くの病院。


「……よしっ!!」


ラク・ヴィリーブは、病院のベッドから勢いよく立ち上がった。


そのまま両手を上げ、大きく伸びをする。


「っしゃああああ!! やっとだあ!!」


病室に響き渡る声。


近くにいた看護師が、呆れたような視線を向けた。


「ラクさん。まだ無茶はしないでくださいね」


「わーってる」


ラクは適当に返事をしながら、荷物をまとめ始めた。


時の竜王との戦い。


死にかけるほどの傷を負いながらも、ラクはこうして復活を果たしたのだった。


「……さて、と」


荷物を肩に担ぎ、病室を出ようとした、その時。


「おーい! ラクー!!」


廊下の向こうから、聞き慣れた声が響いた。


「……あ?」


顔を向ける。


そこには、イフ、サブ、キリ、エーズの四人が立っていた。


「おお! お前ら!」


ラクが笑みを浮かべる。


「退院おめでとう、ラク!」


イフが満面の笑みで駆け寄った。


「おう! 待たせたな!」


「いやあ、ようやく全員そろいましたね!」


エーズも嬉しそうに笑う。


「……まったくだ。お前ら、俺がいない間にサボってなかっただろうな?」


「ええっ!? サボってないよ!」


「ははっ! どうだかな!」


ラクがイフの頭をぐしゃぐしゃとかき回す。


「ちょっ! やめろよラク!」


「ははははっ!」


いつも通りの光景だった。


そんな彼らを見て、サブが口を開く。


「……よし。じゃあ、行くか」


「……ん?」


ラクが首を傾げた。


「どこに?」


「街だよ」


「……は?」


「せっかくラクも退院したんだ。たまには皆で遊びに行こうぜ」


サブは、さも当然といった顔で言った。


「……え?」


ラクが目を丸くする。


「いやいや、待て待て。俺はてっきり、復帰早々任務に行くもんだと思ってたんだが?」


「なんで退院初日に任務なんか行かなきゃならんのだ」


「いや、隊長のセリフじゃないっす!!」


エーズがすかさずツッコんだ。


「てめぇが一番仕事ばっかじゃねぇか!」


ラクもすかさず声をあげる。


「……俺はいいんだよ」


「よくねぇだろ!!」


「ははっ!」


イフが吹き出した。


「……で、どうするんだ?」


サブが四人を見回す。


「俺は行く!」


イフが真っ先に手を挙げた。


「俺も行くぜ!」


エーズも続く。


「……まあ、たまにはいいか」


ラクは肩をすくめた。


「……私も、行っていいの?」


キリが遠慮がちに尋ねる。


「当然だろ。」


サブが即答した。


「……そっか」


キリは小さく笑った。


「よし! 決まりだな!」


サブが手を叩く。


「今日は仕事のことなんか忘れて、思いっきり遊ぶぞ!」


「おおおお!!」


イフとエーズが声を上げた。


「……お前ら、元気だなぁ」


ラクは呆れたように笑った。


こうして、五人の休日が始まった。





***






街中。


大通りには、多くの人々が行き交っていた。


店先からは威勢のいい呼び込みが聞こえ、焼きたての食べ物の香りが風に乗って漂ってくる。


竜征軍本部の中とは違う、賑やかな空気。


五人は並んで街を歩いていた。


「うおおお! すげぇ! あの店、めっちゃ美味そう!!」


イフが店先に並んだ食べ物を見つけ、目を輝かせた。


「おい、イフ! いきなり食うのかよ!」


ラクが呆れた声を出す。


「だって腹減ったんだもん!」


「さっき病院出たばっかだろ!」


「病院にいたら腹減るんだよ!」


「意味わかんねぇよ!!」


エーズが腹を抱えて笑った。


「はははっ!いいじゃないっすか!俺も食うぞ!」


「お前もかよ!」


ラクがツッコむ。


その横で、サブは店先の品物を眺めていた。


「……まあ、いいんじゃないか。今日は好きにしていい日なんだからな」


「「さすがサブ!!」」


イフとエーズが声をそろえる。


「……お前ら、調子いいな」


サブは苦笑した。


結局、五人は店先で食べ物を買い、それぞれ好きなものを手に取った。


「……うまっ!!」


イフが目を見開いた。


「だろ!? こういうのは外で食うから美味いんだよ!」


エーズも頬張りながら言う。


「おい、エーズ。口に入れたまま喋んな」


ラクが眉をひそめる。


「んぐっ……!」


「汚ねぇなぁ……」


「……ラクもさっきから食べすぎ」


キリがぽつりと呟いた。


「……あ?」


ラクが振り向く。


「いや、別に……」


キリは視線をそらした。


「……ははっ。……キリ、お前そういう風に笑うんだな」


サブが笑った。


「……え? 笑ってないよ……」


「はははっ!」


イフも笑い始める。


「な、なんだよお前ら!」


ラクが不満そうに声を上げた。


その姿を見て、また笑い声が広がった。


特別なことなんて、何もない。


ただ食べて、喋って、笑っているだけ。


それなのに、妙に楽しかった。





***





その後も、五人は街を歩き回った。


露店をのぞいたり、店に入って品物を眺めたり。


途中で見つけた遊び場では、誰が一番うまく的に当てられるかを競い合った。


「よっしゃあ! 見てろよ!」


エーズが意気込んで的を狙う。


放たれた弾は、的のすぐ横を通り過ぎた。


「……あ」


「あはははははっ!!」


ラクが大笑いした。


「笑わないで下さいよ!ラクさん!!」


「いやいや! お前、雷の力使わなくても外すのかよ!!」


「使ってないからっす!!それにこの銃、威力が弱いっす!」


「言い訳すんなよ!」


「うるせぇ!!」


エーズが悔しそうに顔をしかめる。


「……次は俺だ!」


イフが前に出た。


「おっ! イフ、いけるのか?」


「任せろ!」


イフは真剣な顔で的を見据えた。


そして、狙いを定める。


パァンッ!


弾が飛ぶ。


的の端に、かろうじて命中した。


「……おおっ!!」


イフが目を輝かせる。


「当たった!!」


「おおお! やるじゃねぇか!」


エーズが声を上げた。


「……いや、端っこだけどな」


ラクが冷静に言う。


「当たったんだからいいだろ!!」


「はいはい」


「くっそぉ! ラクもやれよ!」


「俺はいい」


「逃げるなよ!」


「……うるせぇな」


ラクは面倒くさそうに前へ出ると、的を見た。


そして、ほとんど迷うことなく弾を放つ。


パァンッ!


的の中央に命中した。


「……おおおお!!」


イフが驚く。


「すっげぇ!! ラク!!」


「……まあ、こんなもんだろ」


ラクは得意げに鼻を鳴らした。


「くっそぉ! もう一回だ!!」


エーズが悔しそうに叫ぶ。


「はははっ! 何回やっても無駄だろ!」


「うるさいっす!!」


「はは!キレたっ!」


二人が言い合いを始める。


その様子を、キリは少し離れた場所から眺めていた。


「……ふふっ」


思わず、笑みがこぼれる。


「……ん? どうした、キリ?」


サブが隣から声をかけた。


「……ううん。なんでもない」


「……そうか」


サブはそれ以上追及せず、再び三人の方へ目を向けた。


キリもまた、彼らの姿を見つめた。


賑やかで、騒がしくて、少しだけうるさい。


けれど。


こんな時間も、悪くない。





***





夕方。


空が、ゆっくりと茜色に染まり始めていた。


五人は街外れの公園に立ち寄り、並んでベンチに腰掛けていた。


一日中歩き回ったせいか、全員の顔には疲れが浮かんでいる。


「……はぁー、疲れたぁ」


エーズが背もたれに体を預けた。


「……お前、途中からずっと食ってただけだろ」


ラクが呆れたように言う。


「食うのも体力使うんすよ!」


「使わねぇよ!」


「使うっす!!」


「はははっ!」


イフが笑った。


「……でも、楽しかったな!」


イフの言葉に、サブが頷く。


「あぁ。たまには、こういうのもいいな」


「……サブがこういうこと言うの、珍しいね」


キリが意外そうに言った。


「……そうか?」


「うん。いつも仕事のことばっかり考えてるから」


「……まあ、否定はできんな」


サブは苦笑した。


「でも、たまには休まないとな。俺たちだって人間なんだから」


その言葉に、ラクが小さく笑った。


「……へぇ。サブにもそういう考えがあったんだな」


「おい、どういう意味だ」


「いやぁ? いつも難しい顔して資料ばっか見てるからよ」


「……お前にだけは言われたくないな」


「ははっ!」


エーズが笑い声を上げる。


「おい! なんで俺を見るんだよ!」


「いや、なんとなく!」


「ふざけんな!!」


また、笑い声が広がった。


イフはそんな仲間たちを眺めながら、静かに笑っていた。


夕日が、五人の顔を赤く染めている。


遠くから、街の賑やかな声が聞こえてくる。


風が吹き、木々の葉がさらさらと揺れた。


「……なあ」


イフが口を開いた。


「……ん?」


サブが顔を向ける。


「また、こうやって皆で遊びに来ような!」


イフは笑顔で言った。


「……あぁ、いいぞ」


サブが頷く。


「おう! 次はもっと食うぞ!」


エーズが拳を握る。


「……お前は食うことしか考えてねぇのかよ」


ラクが呆れる。


「うるさいっす!」


「ふふっ……」


キリが小さく笑った。


その光景を見て、イフもまた笑った。


何気ない一日。


特別な事件もなければ、命懸けの戦いもない。


ただ、大切な仲間たちと一緒に過ごす時間。


笑って、ふざけて、時には言い合って。


そんな当たり前の時間が、そこにはあった。


イフは、茜色に染まる空を見上げた。


夕日が沈んでいく。


今日という一日が、少しずつ終わろうとしている。


楽しい時間は、どうしてこんなにも早く過ぎてしまうのだろう。


イフは、隣に座る仲間たちへと視線を戻した。


サブが何かを話し、ラクがそれに文句を言っている。


エーズは相変わらず騒がしく、キリはそんな彼らを見て笑っていた。


いつもと変わらない、五人の姿。


イフは、その光景を目に焼きつけるように見つめた。


そして、心の中でそっと呟いた。


――こんな日が、ずっと続けばいいのに。







【読者の皆様へお願い】

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます。

もし「続きが気になる」「面白い」と少しでも思っていただけたら、画面下部にある【ブックマークに追加】と、【評価システム(星★★★★★)】から応援ポイントをいただけると、執筆の凄まじい励みになります。

皆様の手元の1ポチが、この作品がより多くの人に届くための最大の力になります。よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。