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イフリート  作者: 野口プレシオサウルス太郎
第4章 キリ・フラッシュ
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110.氷の策略



北の国、とある場所。


氷の城、最奥部。


壁も、床も、天井も。


辺り一面が、冷たい氷に覆われていた。


青白い光が氷壁の内側を透かし、城の奥深くをぼんやりと照らしている。


その最奥部に、一人の男がいた。


尖った鼻。

長い髪で左目を隠した、どこか気取った風貌の男。


氷の竜王、ヘル。


かつて氷の軍団を率い、北の国を壊滅させた竜王である。


「………………はぁ」


ヘルが大きな溜息をついた。


「……本当に暇だ。おい、そこの!」


傍らに立っていた部下に声をかける。


「……は、はい!」


「もういっそのこと、人間共を全員凍らせるか」


「え……いや、しかし……」


部下が困惑した表情を浮かべる。


だが、ヘルは気にする様子もなかった。


「だってよぉ! ラーの野郎、なんも動かねぇじゃん! もう十年くらい、なんもしてねぇんだけど!?」


ヘルは北の国を壊滅させた後、光の竜王ラーから、しばらく目立った動きをするなと釘を刺されていた。


しかし、それからかなりの年月が経過している。


ラーは一向に動かない。


ヘルたちは仲間を増やし、海を少しずつ凍らせながら、着実に勢力を拡大させてきた。


それでも、ラーからの指示はない。


さすがに、ヘルも痺れを切らしていた。


「あー、ザディの野郎も『なんかやってみる』って言ったっきり来ねぇしなー。下手に動いてラーに殺されたんじゃねぇかなー」


ヘルは頬杖をつき、面倒くさそうに呟いた。


氷の竜王ヘルと、光の竜王ラー。


同じ竜王でありながら、二人の仲は決して良好ではなかった。


ヘルはラーを恐れていた。


だからこそ、文句を言いながらも、勝手に大きく動くことができずにいたのだ。




「これ以上なんも動かねぇなら、こっちからやるか」


ヘルがぼそりと呟いた、その時だった。


「その心配はいらねぇよ、ヘル」


背後から、男の声がした。


「……あ?」


ヘルが振り向く。


そこに立っていたのは、ギザギザとした歯に、鋭い目つきの男だった。


スリュム。


氷の竜王ヘルの側近であり、氷の軍団のナンバー2である。


側近という立場ではあるが、ヘルとは妙に親しげだった。


「……どういうことだ? スリュム」


「あぁ、つい昨日、この氷の城に侵入者が出た」


「お!? マジ!? おもしろそうじゃん! そいつ凍らせようぜ!!」


ヘルの顔がぱっと明るくなった。


「存在価値なしの軍の人間だよ」


「マジかよ! そいつ殺そう!!」


「いや……そいつを逃がしてやったよ」


「……え!? なにやってんの!?」


ヘルは目を見開いた。


侵入者を逃がした?


わざわざ城まで入り込んできた人間を?


理解できない、といった顔でスリュムを見つめる。


「くかか、まあ落ち着けって」


「……あ?」


スリュムはギザギザの歯を覗かせ、楽しそうに笑った。


「そいつはたぶん、風貌からして何年も俺らを探ってきた奴だったんだよ」


「へー、すげぇな。ここらへん、クソ寒くしてんのによくここまで来たな」


「そうそう。存在価値なしのクソ人間だったよ」


「なんで逃がしたんだよっ!」


ヘルが声を荒らげる。


すると、スリュムはさらに愉快そうに笑った。


「くかかかっ。よく考えろって、ヘル」


「……ん?」


「……そいつが逃げれたら、まず軍全員に報告するだろ?」


「……あぁ。氷の竜王がいたって、びびるだろうな」


「くかか。……俺らは北の国を壊滅させたんだぜ?」


スリュムは、ヘルの目を見つめた。


「そんな俺らをついに見つけたって聞いたら、軍の人間共はどうすると思う?」


「…………あぁ?」


ヘルは首を傾げた。


どうやら、まだ話の意図を掴めていないらしい。


スリュムは呆れたように息を吐いた。


「馬鹿だなぁ、ヘルは……」


「……んだと?」


「軍の人間共は、すぐさま大勢の隊員を連れて、ここを攻めに来るぞ?」


「……っ!!」


ようやく、ヘルの表情が変わった。


「ラーの野郎も、目立った動きはするなって俺らに言ってきた。だが、向こうから攻めてくるなら話は別だ」


スリュムは口元を歪めた。


「さすがに、こっちに攻めてきたら、俺らも動かなきゃいけねぇだろう?」


「……なるほどなぁ!」


ヘルがぽん、と手を打った。


「天才だな、スリュムは!!」


「お前が馬鹿すぎるだけだ……」


スリュムは呆れたように呟いた。


だが、その口元には笑みが浮かんでいる。


「近々、ここに軍の人間が攻めてくるぞぉ?」


「ふははっ! そりゃ楽しみだあ! 全員ぶっ殺してやろうぜっ!!」


「かはははははっ!」


「ふはははははっ!」


冷たい壁に反響する、狂気じみた笑い声。


二人の笑い声が、氷の城に響き渡った。





***





一方。


竜征軍本部、資料室。


静まり返った室内に、紙をめくる音だけが響いていた。


棚には、膨大な資料が整然と並んでいる。


その中で、キリは一人、何かを探していた。


資料を一枚ずつ確認し、棚を移動しては、また別の書類に目を通す。


しかし、目当てのものは見つからない。


キリは手を止め、資料室を見渡した。


「………………どこ?」







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