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イフリート  作者: 野口プレシオサウルス太郎
第4章 キリ・フラッシュ
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109.日常回が一番考えるの大変



ーー数日後。


竜征軍本部、一室。


机の上には、何枚もの資料が広げられていた。


サブはその一枚に目を落としたまま、腕を組み、難しい顔で考え込んでいる。


紙をめくることもなく、ただ一点を見つめていた。


その様子を横目で見ながら、キリは静かにコーヒーを淹れていた。


やがて、コーヒーの入ったカップを手に、サブのもとへ歩み寄る。


「……サブ?」


「……ん?」


サブは顔を上げた。


「……エーズが今日から復帰するみたいだね」


「あぁ、そうだったな……」


「うん……。今はイフと訓練所にいるらしい」


「……そうか」


短い返事。


サブは再び資料へと視線を戻した。


「………………」


「………………」


部屋に静寂が流れる。


キリはそれ以上何も言わず、サブの目の前にコーヒーを置いた。


「……ありがとう、キリ……」


サブはカップに手を伸ばす。


その横顔を見つめていたキリが、そっと口を開いた。


「……昨日のことが気になるの?」


「……ん?」


サブの手が止まった。


「あの……『闇の竜王』って……」


サブの脳裏に、昨日の光景がよみがえる。


闇の竜王キング。


あの男が、笑いながら口にした言葉。


――俺ぁ、お前を探してたんだよ。


「あぁ……」


サブは小さく息を吐いた。


「あいつの言ってたことが、妙に気になってな」


「……探してる人って、サブのことだったんだ」


「あぁ、そうらしい。何が目的かもわからん」


サブはコーヒーを一口飲んだ。


苦みが口の中に広がる。


しかし、その味を楽しむ余裕はなかった。


キングは、なぜ自分を探していたのか。


何のために?


そして、あの男が口にした『戦争』という言葉。


「…………戦争って言ってたんだよね」


キリの言葉に、サブは黙り込んだ。


カップを持つ指に、わずかに力がこもる。


「……………………」


しばらくして、サブはゆっくりと口を開いた。


「……まあ、あいつが何を言おうが、俺らの仕事は変わらん」


「……うん」


「戦争なんて、今でもいつ起きるかわからんからな……。時の竜王討伐も、戦争みたいなもんだし」


サブはそう言って、カップを机に置いた。


「…………」


キリは黙ってサブの言葉を聞いていた。


「あいつの言ってたことは、やはり気になる。だが、気にしてるだけじゃ何もできないからな」


「……うん」


サブは再び資料へと目を落とした。


キングの真意はわからない。


今の自分にできることも、まだ見えてこない。


ならば、今やるべきことをやるだけだ。


それがサブの出した結論だった。



「そういえばっ。エーズはもう復帰だって?」


ふと思い出したように、サブが顔を上げた。


「うん。そう聞いてる。ラクももう少しで復帰できるらしいよ」


「ははっ。あいつすげえな。時の竜王との戦いで死にかけてたのに……」


サブは呆れたように笑った。


今でも信じがたい。


あれほどの傷を負いながら、もう復帰が見えているのだから。


「……うん。リハビリも必要ないかもだって」


「はははっ、無茶苦茶な回復力だな」


サブは楽しそうに笑った。


仲間が戻ってくる。


それは、素直に嬉しいことだった。


「……あいつが復帰したら、皆でどこか遊びにでも行くか」


「……いいんじゃないかな」


「ははっ。そうだろ? お前も行くんだぞ?」


「…………え? ……私も?」


キリは思わず聞き返した。


まさか、自分まで誘われるとは思っていなかったのだ。


「当然だ。同じ班だからな」


「……私はいいよ。男の子たちで楽しんできてよ」


キリは視線をそらしながら、小さく答えた。


「そんなこと言うなって。せっかくイフとも仲良くなったんだし」


「……別に仲良くないよ……」


キリは少しだけ頬をそむけた。


「はははっ」


サブの笑い声が、静かな部屋に響いた。


つい先日まで、死と隣り合わせの戦場にいた。


それでも今は、仲間の復帰を喜び、皆で遊びに行く話をしている。


そんな何気ない時間が、少しだけ心を軽くしてくれた。



***



一方。


竜征軍本部、訓練所。


広々とした訓練場には、二人の男の声が響いていた。


イフとエーズ。


二人は向かい合い、互いに構えを取っていた。


エーズの表情は明るい。


長い入院生活から解放され、ようやく体を動かせる喜びが全身からあふれていた。


「悪いな! イフ! 付き合ってくれてっ!」


エーズが元気よく声を上げる。


「全然っ! 俺もやりたいって思ってた!」


イフも負けじと声を張り上げた。


その顔には、戦いを前にした高揚感が浮かんでいる。


エーズは軽く肩を回し、拳を握り直した。


「ははっ!しばらく病院で寝てたから体がなまってるや! もうちょい頑張るぞ!」


「かかってこい! 俺も頑張るっ!」


イフは腰を落とし、エーズを真っすぐに見据えた。


エーズもまた、イフから目を離さない。


一瞬、二人の間に緊張が走る。


次の瞬間、どちらからともなく地面を蹴った。


訓練場に、二人の足音が響き渡る。


こうして、エーズの復帰初日の訓練が始まった。








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