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歯車と星の環  作者: 進藤晶人
第三部 鉄屑の街 スクラージュ
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第12章 共鳴銃(2)

スクラージュ外れの広場には、崩れた鉄骨や廃材が山のように積み上げられていた。地面へ転がる装甲板の破片が鈍い光を返す中、乾いた風が広場の隙間を抜け、積み上がった金属片を微かに軋ませている。


シンは長大な銃を脇に挟み込むように構え、少し離れた位置に立て掛けられた廃材へ銃口を向けていた。傍らでは、アオが数歩離れた場所から両手を銃身へ向け、意識を集中させている。


「いきます!」


張り詰めた声と同時に、アオの指先から淡い光が流れ込む。銃へ刻まれた共鳴の術環が鉄の表面を這うように光で満たされ、青白い光環が浮かび上がった。


シンが引き金を引くと、轟音とともに魔力弾が射出され、周囲の空気が爆ぜるように押し出された。凄まじい反動がシンの身体を後方へ滑らせ、硬い靴底が地面を削る。銃身を抱え込むように押さえ込みながら、シンは体勢を維持した。


「くっ……。威力は申し分ないが、反動がデカすぎるな。これじゃあマナの消費も無駄に激しい」


吐き出した息の奥で低く呟きながら、シンは銃身を見下ろす。数秒ほど無言で感覚を確かめると、再び廃材へ狙いを定めた。


「……出力と射線を絞る。もう一度流し込んでみろ」


アオはすぐに頷き、再び術環へマナを送り込む。青白い光が銃身へ走る中、シンは肩と腕へ力を込め、銃身を押さえ込むように構え直した。


静かな呼吸の後、引き金が絞られる。


今度は圧縮された光弾が一直線に射出され、乾いた破裂音とともに廃材の中央を正確に貫いた。穴の開いた鉄板が遅れて崩れ落ち、金属音が広場へ反響していく。


「シンさん……たった一回使っただけで……!?」


目を丸くしたアオが思わず声を上げる。シンは立ち上る白煙を眺めながら、小さく息を吐いた。


「経験の差だな。……それより、マナの消費はどうだ」


「今の出力なら余裕です!」


アオはシンへ視線を向け、少しだけ胸を張った。


その様子を後ろで見ていたラドが、感心したように鼻を鳴らした。


「……へぇ、なるほどな。魔力タンクのガキに、狙撃手の元軍人か。二人で一丁の鉄砲撃つなんざ聞いたこともねぇが……理にかなってやがる」


シンは銃を下ろし、真剣な表情のままアオを振り返る。


「……アオ。マナというのは、使いすぎるとどうなるんだ?」


問われたアオは少しだけ困ったように笑った。


「酷い貧血みたいになって、魔法が使えなくなります。でも、命に関わるわけじゃないですから、出し惜しみしないで撃ってください」


「……そうか」


短く返したシンの口元から、わずかに険しさが抜ける。


アオは今度は自分の弓を構え、呼吸を整えながら矢へ体内マナを流し込んだ。放たれた光矢は薄い炎を纏いながら飛んでいくものの、廃材へ当たった瞬間には火花を散らして弱々しく弾ける。


二射、三射と続けるうち、アオの呼吸はすぐに乱れ始めた。


「はぁっ……。やっぱり環境マナがないと威力が足りないみたいです……」


肩で息をしながら弓に視線を落とすアオへ、シンは銃を担ぎ直したまま低く言う。


「お前は俺の弾丸になることを優先しろ。足止めが必要なら、その時だけ弓を撃て」


「……はい!」


返事を聞いたシンは再び銃を構え、視線を廃材の的へ据える。


「引き金を引く直前に、魔力の圧を上げる。……タイミングを合わせるぞ、急ぎで仕上げる」


アオが術環へマナを送り込み、シンが銃身を固定する。引き金が絞られる直前にマナの圧縮を調整し、放出の瞬間を揃えていく。


薄暗くなり始めた広場へ、乾いた銃声が断続的に響く。二人の呼吸は徐々に噛み合い、共鳴銃は一つの武器として形を結んでいった。


   ◇──◇──◇


翌朝、三人は鉄屑の防壁の内側にある小さな空き地に立っていた。


積み上げられた装甲板や鉄骨の隙間からは、灰色の荒野がどこまでも広がっている。乾いた風が吹き抜けるたび、錆びついた金属片が擦れ合い、鈍い軋みが低く響いた。


シンは背中へ共鳴銃を背負ったまま、荒野の先を真っ直ぐ見据えている。モグラから渡されたデータチップに記されていた潜入経路とフィリアの収容区画は、既に頭の中へ叩き込んであった。アオも唇を引き結び、張り詰めた表情でシンの隣に並んでいた。


「本当に行くんだな、シン」


後ろから掛けられた声に、シンは小さく頷く。


「……ああ」


短い返答だったが、その横顔には迷いがなかった。


ラドは一歩近づき、シンの背へ視線を向ける。作業灯もない朝の薄明かりの中で、背負われた銃身が鈍く黒い光を返していた。


「……その銃は、爺さんが最期まで手放さなかった意地だ」


ラドは自嘲するように短く息を吐き、濁った空を見上げる。


「この街にいるのは、ヴァルガンドに噛みつく牙を折られて、鉄屑と一緒に錆びついていくのを待ってるだけの連中ばかりだ。……そんな中で、あの爺さんだけは、いつか一泡吹かせてやるって、死ぬまでそいつを磨いてた」


乾いた風が三人の間を吹き抜け、崩れた鉄板の隙間で低い金属音が鳴る。


ラドは再び銃へ目を向けた。


「俺達にはもう、そいつを撃ち込む度胸も力も残っちゃいねぇ。……だから持ってけ。爺さんの意地ごとだ。あの国に、デカい風穴を空けてこい」


「……ああ。そのつもりだ」


低く返した声が、乾いた風の中へ静かに落ちる。


アオは背筋を伸ばすと、ラドへ向かって深く頭を下げた。


「ラドさん、お世話になりました。……行ってきます!」


「死ぬんじゃねぇぞ」


ラドは短くそう言うと、居心地が悪そうに頭を掻きながら背を向けた。


乾いた風が荒野を吹き抜ける中、シンとアオは並んで歩き出した。鉄屑の防壁を抜けた先には、機鋼国ヴァルガンドへ続く灰色の大地が静かに広がっていた。


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