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歯車と星の環  作者: 進藤晶人
第二部 知の都 セレストル
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第9章 追放(2)

「大人しくするなら手荒な真似はしねぇ。精霊とレーヴァテインを渡せ」


聞き慣れない名へ眉を寄せながらも、シンはギアブレードを構え直す。


「レーヴァテイン……? ギアブレードのことか……?」


「っはは! 自分の得物の正体も知らねぇとはなぁ! そいつはただの武器じゃねぇ、お前の手には余る代物だ。大人しく渡さねぇってんなら……」


言葉の途中で、黒鉄の搭機が地面を砕きながら踏み込み、跳躍と同時に右腕の刃が高速で振り下ろされる。シンは咄嗟にギアブレードの腹で受け止め、蒼光を帯びた刀身へ黒鉄の刃が激しくぶつかった。


「はっ、鈍ってねえなぁ、シン!」


笑いながら押し込まれる刃へ、シンも全身の力を込めて押し返す。ギアブレードの術環が激しく輝き、歯車機構から蒼白い火花が散った。


「炎の術環……二層展開……!」


横合いから響いたアオの声とともに、炎を纏った光の矢が一直線に飛来する。黒鉄の搭機はシンと刃を噛み合わせたまま、左腕のアームへ備えられた大型盾をその軌道へ割り込ませる。着弾と同時に爆炎が膨れ上がり、衝撃波に吹き飛ばされたシンは石畳を滑りながら剣を突き立てて踏み止まった。


黒煙の奥で、ゾルトが顔を歪めて舌打ちする。しかし黒鉄の搭機の装甲には焦げ跡が残る程度で、大きな損傷は見当たらない。


「そんなっ……! フィリアのマナを乗せた二層展開が……!」


アオの声が震える。


剣を構え直したシンを見据えるゾルトの耳元で、通信機が短く点灯する。報告を聞き終えるなり口角を吊り上げ、片腕をゆっくりと真上へ掲げた。


「おっと、動くなよシン。下手に抵抗してみろ、上空の巡洋艦からこの街の中心部へ熱線砲を撃ち込む。さあどうする? お前が一振りすれば、この街の人間は皆殺しだ」


空に浮かぶ飛行艦の艦首では、街区中央へ向けられた巨大な砲身の奥で赤黒い光が淀んでいる。砲口の深部を満たす灼光は不穏な揺らぎを繰り返しながら内壁を赤く染めていた。


シンの喉が小さく上下する。ギアブレードを握る指がわずかに緩んだ隙を突き、周囲へ展開していた武装兵達が一斉に飛びかかった。数人がかりで肩と脚を押さえ込まれ、シンの身体が石畳へ叩き伏せられる。


「シンさん!」


駆け出そうとしたアオのこめかみへ、別の兵士が銃口を突きつける。分厚い銃身内部では赤熱した導線が明滅し、圧縮蒸気の排出口から白煙が細く噴き出していた。熱せられた銃身の熱気が頬をかすめ、アオは息を詰まらせたまま足を止める。肩口ではフィリアが激しく明滅を繰り返し、小さな身体を震わせながらシンとアオを見比べている。


ゾルトは操縦席の中で身を乗り出し、縁に片肘を預けながら、組み伏せられたシンを見下ろして笑う。


「さあ、精霊とレーヴァテインを差し出しな!」


押さえ込まれたシンの額から血が伝い、歯を食いしばったまま顔を上げる。その様子を見つめていたフィリアはアオの肩口からふわりと浮かび上がり、アオの頬へ寄り添うように触れる。続いてシンのもとへ舞い寄ると、その頬にもそっと光を重ねた。


アオはその意図を悟ったように目を見開き、声を震わせた。


「フィリア!? ダメだよ……っ!」


「おい……よせ、逃げろ!!」


シンも拘束を振り払おうと身体を捻る。武装兵達が怒声を上げながら強引に頭を押さえつけるが、それでもシンはわずかに顔を上げ、飛び去っていくフィリアを視線で追い続けた。


フィリアは振り返ることなく、装甲搭機に取り付けられた電磁カプセルへ向かって真っ直ぐ舞っていく。


「話がわかる精霊さまだぜ!」


ゾルトが満足げに笑いながらカプセルを開放すると、フィリアは吸い込まれるように内部へ収まり、分厚い固定具が重い音を立てて噛み合った。


共鳴が断たれた瞬間、ギアブレードを包んでいた蒼光が掻き消える。黒鉄の搭機が腕を伸ばし、石畳へ落ちた大剣を片手で引き上げる。


上空では飛行艦の推進機関が再起動し、腹部噴出口から煤煙混じりの熱風が街区へ吹き下ろされる。黒鉄の搭機は黒煙を引きながら大きく跳躍し、巡洋艦へ向かって上昇を始めた。


周囲へ展開していた武装兵達は煙幕弾を撃ち込みながら整然と撤収していく。重い軍靴の音が遠ざかり、煙の晴れ始めた通りでは、崩れた露店と燃え残る炎の間に怒号や悲鳴が飛び交う。しかしその喧騒はどこか遠く、焼け焦げた街並みには警報音の余韻だけが長く残っていた。


炎に照らされた石畳の上で、アオは空の向こうへ遠ざかっていく飛行艦を見上げたまま立ち尽くしていた。拘束から解放されたシンは、膝をついたまま剣を失った両手へ視線を落とし、震える指先をゆっくりと握り込んだ。


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