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歯車と星の環  作者: 進藤晶人
第一部 はじまりの森 グリーダ
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第4章 遺跡(3)

複雑に枝分かれした通路を抜けるたび、遺跡の構造はさらに異質さを増していった。黒い金属質の壁には脈打つような光の線が幾重にも走り、天井近くでは細い導管が絡み合いながら低い駆動音を響かせている。無機質な光に照らされた空間は昼夜の感覚すら曖昧にし、乾いた鉄と油の臭気が肺の奥へ重く沈んでいく。


先を歩いていたシンが足を止めると、不意に通路の奥から耳をつんざく警報音が響き渡った。赤い警告灯が壁面を染め上げ、規則的だった青白い光の流れが不穏な赤へ切り替わっていく。


「遺跡の防御機構でしょうか……!? どうしましょう……!」


アオが目を見開いて一歩後ずさる。その横で既にギアブレードを抜き放っていたシンは、低く腰を落とし、左右の壁へ視線を巡らせた。金属壁の数ヶ所が四角く沈み込み、擦れるような駆動音を響かせながら横へ開いていく。


暗い穴の奥から現れたのは、膝の高さ程の蜘蛛型の古代機兵だった。黒鉄色の脚を忙しなく動かしながら床を埋めるように這い出し、赤い複眼を明滅させて一斉に二人へ向きを揃える。


「……やるしかないな」


シンは短く吐き捨てると、ギアブレードの柄を握る手に力を込めた。姿勢を低くして深く踏み込み、金属床へ重い足音を響かせる。その背へ続くようにアオも古木の弓を構え、術環へ指先を滑らせた。


「雷の術環……起動……!」


黄白色の光が矢の形へ収束し、弦を離れると鋭い雷光となって通路を駆け抜けた。直撃した多脚機兵の脚部から火花が弾け、細かな電流が隣の個体へ連鎖していく。痙攣するように脚を震わせた数体が脚部から崩れ、内部から白煙を吹き上げた。


しかし後続は止まらない。壁の奥から次々と新たな個体が這い出し、床を覆う黒い群れとなって迫ってくる。


「くっ……数が多いぞ! 長期戦は不利だ!」


シンは飛びかかってきた一体を刃で叩き潰しながら声を荒げた。砕けた外殻が火花を散らして滑る中、アオは素早く別の術環を展開する。


「機兵を一箇所に集めます! 風の術環……偏位展開……!」


幾何学模様の刻まれた術環が矢の先端で回転を始めた。引き絞られた弦の内側では細い光矢が形を結び、その芯から押し広がる風が周囲の空気を巻き込みながら渦を成していく。


放たれた矢が通路の中央へ突き立つと、圧縮されていた風が弾けるように広がった。渦巻く暴風は周囲を呑み込み、多脚機兵たちの躯体を次々と巻き込みながら一箇所へ引き寄せていく。


黒い機兵の群れが火花を撒き散らしながら一塊に絡み合う。シンはその瞬間を逃さず通路を蹴り込み、ギアブレードのレバーを弾いた。


刃の内部で歯車が噛み合い、振り抜かれた刀身がわずかに沈み込む。シンは正面から群れへ飛び込み、身体を捻りながら横薙ぎの一閃を叩き込んだ。凄まじい衝撃が狭い通路へ炸裂し、砕けた小型機兵の破片が弾丸のように壁へ突き刺さる。切断された脚部が床を滑る中、内部から噴き出した煙が赤い警告灯の下で濃く滞留していた。


煙の向こうで、肩へギアブレードを担いだシンの影がゆらりと浮かび上がる。


「……すごい」


アオは弓を下ろしたまま、その背中を呆然と見つめていた。対するシンは砕けた残骸を一瞥しただけで剣を背へ戻し、振り返りながら低く声を投げる。


「……先を急ぐぞ」


「はい!」


慌てて駆け出したアオだったが、散乱した残骸を踏み越えた途端、足元を大きく崩した。


「いたっ!」


顔を歪めてしゃがみ込んだアオの隣へ、シンが膝を落とす。視線の先では、右足首がじわりと赤く腫れ始めていた。


「怪我したのか」


「捻っちゃったみたいです……」


アオは痛みに眉を寄せ、足首を庇うように膝を抱え込む。シンはアオの腰に下がったポーチへ目を向けると、短く告げた。


「薬を使え」


アオの瞳がためらうように揺れ、それでも渋々といった様子でポーチへ手を伸ばした。指先が薬瓶へ触れる直前で止まり、軽く握り込まれた拳が微かに震える。


「でも、こんな高価な薬……」


渋る声を漏らしたアオに、シンは呆れたように息を吐いた。


「惜しむもんじゃないって言っただろ。歩けない方が困る」


観念したように肩を落としたアオは、ポーチから緑色の小瓶を取り出して栓を抜いた。薬液を足首へ垂らすと、淡い光が皮膚へ浸透していき、熱を持っていた腫れが徐々に引いていく。


「……すごい、本当に治ってる……」


アオは何度か目を瞬かせ、慎重に立ち上がると、つま先で床を叩きながら感触を確かめた。痛みが消えていることを確認すると、肩から力を抜き、安堵の息を漏らす。


その様子を見ていたシンは短く息を吐き、わずかに口元を緩めた。


「……大丈夫そうだな。行くぞ」


再び並んで歩き出した二人の足音が、冷えた金属床へ規則的に重なっていく。重く落ち着いた靴音の隣を軽快な足取りが追いかけるように続き、警告灯の消えた静かな通路へ細く反響していた。


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