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姫さまと九人の女騎士  作者: 転生新語


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姫さまと九人の女騎士

「鴨(かも)肉(にく)とは、また贅沢(ぜいたく)ですね。貴族(きぞく)料理(りょうり)を食(た)べられるとは光栄(こうえい)です」


 ワインを飲(の)みながら、私たちは姫(ひめ)さまと食事(しょくじ)を楽(たの)しむ。言(い)うまでもないが、こんな無礼講(ぶれいこう)など、通常(つうじょう)はありえない。身(み)に余(あま)る栄誉(えいよ)というべきで、気(き)さくな姫(ひめ)さまへの敬慕(けいぼ)が、私たち女(おんな)騎士(きし)にはあった。


「むしろ、もっと貴女(あなた)たちには、贅沢(ぜいたく)を知(し)ってほしかったです。この程度(ていど)のもてなししか、できないことが残念(ざんねん)ですね」


「やめてくださいよ。姫(ひめ)が甘(あま)やかすと、私たちは太(ふと)る一方(いっぽう)になりますから。鎧(よろい)が身(み)に着(つ)けられなくなれば生死(せいし)に関(かか)わります」


 九人(くにん)のなかで、もっとも大柄(おおがら)な女(おんな)騎士(きし)が笑(わら)ってみせる。つられて皆(みな)が笑(わら)った。今(いま)はもう、節制(せっせい)など考(かんが)える必要(ひつよう)もないとなると、そこには解放感(かいほうかん)しかない。


「残念(ざんねん)というなら、それは私たちこそですよ、姫(ひめ)さま。貴女(あなた)には、もっと長(なが)生(い)きをしてほしかった」


「いえいえ。見(み)てくださいよ、この美貌(びぼう)を。こんな私が、あと五十年(ごじゅうねん)も生(い)きたら、どれだけシワが増(ふ)えると思(おも)いますか? この美(うつく)しさのままで、世(よ)を去(さ)らせてください」


 また笑(わら)いが起(お)こる。本当(ほんとう)に、素(す)敵(てき)な姫(ひめ)さまだった。いつまでも仕(つか)えていたいと思(おも)うのは、私だけではなかったはずだ。


「まあ男(おとこ)が始(はじ)めた戦争(せんそう)で、姫(ひめ)さまや私たちが、この世(よ)から消(け)されるのは癪(しゃく)ではありますね。騒動(そうどう)を起(お)こすのは、いつも男(おとこ)たちですよ。そうやって女(おんな)たちは泣(な)かされるばかりです」


「戦(いくさ)で身(み)を立(た)てる、私たち騎士(きし)が言(い)うのも何(なん)ですがね。同感(どうかん)ですよ。姫(ひめ)さまの父君(ちちぎみ)は勇敢(ゆうかん)に、敵(てき)に立(た)ち向(む)かわれて亡(な)くなりました。生(い)き残(のこ)った我々(われわれ)は皆(みな)殺(ごろ)しにされるでしょう」


 この城(しろ)は敵(てき)に包囲(ほうい)されている。兵糧(ひょうろう)攻(ぜ)めにあっている我々(われわれ)は、撃(う)って出(で)るしかない。もう城(しろ)が備蓄(びちく)していた食料(しょくりょう)も尽(つ)きるので、私たちは最後(さいご)の食事(しょくじ)を楽(たの)しんでいるのである。


「むしろ、そのほうがマシですよ。生(い)き残(のこ)れば私たちは、死(し)よりも辛(つら)い扱(あつか)いをうけることでしょう。私は天(てん)に還(かえ)ることができるのです、信仰(しんこう)をもっていて良(よ)かったと思(おも)います」


 この世(よ)に救(すく)いがなければ、確(たし)かに死(し)は、天(てん)からの救(すく)いなのだ。私たち皆(みな)が、そう思(おも)っていた。


「姫(ひめ)さま……、もし来世(らいせ)があるとしたら、次(つぎ)はどのような生(せい)を望(のぞ)みますか?」


 つまらない質問(しつもん)を私はしてみた。こんな機会(きかい)がなければ、尋(たず)ねることもなかっただろう。


「うーん……、すぐには思(おも)いつきませんね。貴女(あなた)たちは、どうですか?」


 姫(ひめ)さまから、逆(ぎゃく)に尋(たず)ねられる。すると、あちこちから回答(かいとう)が出(で)てきた。


「私は結婚(けっこん)ですかね。子(こ)を産(う)んで、育(そだ)ててみたかったと思(おも)います」


「望(のぞ)むのは、今(いま)と違(ちが)った世界(せかい)です。そこで政治(せいじ)に携(たずさ)わって、戦争(せんそう)を回避(かいひ)できれば良(よ)いですね」


「花(はな)を愛(め)でて、生(い)きてみたい。そう思(おも)います」


 その他(た)、ひたすら無責任(むせきにん)に遊(あそ)びたい、来世(らいせ)は贅沢(ぜいたく)をしてみたいなどなど。騎士(きし)とは無縁(むえん)の生活(せいかつ)をしてみたい、という意見(いけん)で一致(いっち)していた。さて、私は来世(らいせ)になにを望(のぞ)むのか。


「私は……、来世(らいせ)も、姫(ひめ)さまにお仕(つか)えできればと思(おも)います。この剣(けん)で」


 腰(こし)に差(さ)している剣(けん)を示(しめ)しながら、私は答(こた)える。姫(ひめ)さまは微笑(ほほえ)んでくれた。


「さすが、私を守護(しゅご)する女(おんな)騎士(きし)団(だん)の、団長(だんちょう)ですね。でも、あまり縛(しば)られてほしくないなぁ」


 優(やさ)しい目(め)で、更(さら)に姫(ひめ)さまは続(つづ)けた。


「今(いま)、わかりました。私が望(のぞ)む、来世(らいせ)の生(せい)が。私は貴女(あなた)たち九人(くにん)が、幸(しあわ)せな人生(じんせい)を歩(あゆ)めるよう、送(おく)り出(だ)してあげたい。それが私の願(ねが)いです。他(ほか)には、なんにもありません」


 このときの私は、ただただ、幸(しあわ)せだった。この瞬間(しゅんかん)が、この世界(せかい)での私の人生(じんせい)において、もっとも幸福(こうふく)だったと断言(だんげん)できる。姫(ひめ)さまからの愛(あい)は、それほどまでに大(おお)きかったのである。食事(しょくじ)を終(お)えた私たちは、円卓(えんたく)から立(た)ち上(あ)がる。


「これから、最後(さいご)の戦(たたか)いに向(む)かいます。一足先(ひとあしさき)に、天(てん)で待(ま)っていますので」


 一礼(いちれい)して、あとは振(ふ)り返(かえ)らず、私たちは姫(ひめ)さまから離(はな)れていく。厩舎(きゅうしゃ)まで移動(いどう)し、馬(うま)にまたがって「開門(かいもん)!」と私は命(めい)じた。開(ひら)かれた城門(じょうもん)から私たちは外(そと)へと飛(と)び出(だ)していって────この日(ひ)、私たちは祖国(そこく)と共(とも)に滅亡(めつぼう)した。

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