エピローグ
目が覚める。また同じ夢を見ていたことはわかるんだけど、内容までは思い出せない。でも、その夢を見た朝は、いつも私は機嫌が良かった。魂の奥底に秘められた、前世の記憶とやらが、同じ夢を私に見せているのかな。まさか、ねぇ。
いつまでも夢の余韻に浸ってる場合じゃない。今日は大事な決戦があるのだ。さっと起き上がって、私は身支度を始めた。
今の時期は四月初めで。今日は女子の高校硬式野球、選抜大会の決勝戦である。会場は何と、東京ドームだった。その決勝の舞台に、これから私たちは挑んでいく。
高校野球の決勝戦というと、昼に行われるイメージがあるけれど。そこは男子の試合と違って、私たちの決勝戦は午後八時からの開始だ。かつて、こんな光景を経験した気がして、我ながら不思議だった。まるで最後の晩餐の後、戦場に出ていった騎士のような……。そんな経験なんか、あるわけないのに。
「さあ皆さん、いいですか。いよいよ決勝ですよ。緊張しないで、リラックス、リラックス」
試合の開始時間は迫っていて、私たち選手は控室で、監督の話に耳を傾けていた。女性の教師で、そんなに野球の知識もない人だけど、なぜか私たち選手は彼女と相性が良いのだ。おっとりとした話し方の監督を、私たちは『姫さま』と呼んでいる。
「姫さまのおかげ、かなぁ。緊張はしてないよ、本当に」
「勝っても負けても、死ぬわけじゃないもんね。全力でぶつかってくるよ」
監督が姫だとしたら、私たち九人のスターティングメンバーは騎士だろうか。私たち九人は、まるで前世からの付き合いがあったみたいに、これまた相性が良かった。ウマが合う、というのだろうか。騎士には馬が付きもので、とにかく監督との相性も、選手同士の相性も最高なのだ。そんなチームが団体競技で、弱いわけがなかった。
「ねぇ。大会が終わって、そして高校も卒業したら、そのあとはどうする?」
気の早い子が、そんなことを言ってくる。これから決勝戦が始まるというのに。「食べて食べて、食べまくる!」と、大柄なキャッチャーが言って、皆を笑わせていた。「結婚する!」、「女性総理大臣になる!」、「花見でコーラを一杯!」。その他、好き勝手なことばかりだ。
「……とりあえず私は、この剣で」
そう言って手元のバットを示しながら、私は姫さまへと向き直る。
「勝利を届けてみせましょう。期待しててください、姫さま」
そう私は見得を切った。「よっ、さすがはエースで四番!」、「われらが騎士団長どのには、敵いませんなぁ」などと慣れた扱いで拍手をしてくる辺り、いい仲間を持ったなぁと思う。
「期待してますよ。でも、さっき皆さんが言ったとおり、負けても死ぬわけじゃないんです。すべては、青春の一ページに過ぎません。皆さんの人生という、一冊のアルバムを今後も、充実させていってください。それだけが、私の願いです」
姫さまがそう言った。「姫さまは他に、やりたいこととかあるー?」と聞かれて、「お婆ちゃんになって、太々しく生きてみたいですねぇ」と笑っている。
いよいよ試合時間だ。私たちは姫さまに一礼して、グラウンドへと駆け出していく。勝っても負けても、私たちの人生は続いていくのだ。高校を卒業したら、私は教師を目指してみようかと、そう思った。




