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姫さまと九人の女騎士  作者: 転生新語


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3/3

エピローグ

 目(め)が覚(さ)める。また同(おな)じ夢(ゆめ)を見(み)ていたことはわかるんだけど、内容(ないよう)までは思(おも)い出(だ)せない。でも、その夢(ゆめ)を見(み)た朝(あさ)は、いつも私は機嫌(きげん)が良(よ)かった。魂(たましい)の奥底(おくそこ)に秘(ひ)められた、前世(ぜんせい)の記憶(きおく)とやらが、同(おな)じ夢(ゆめ)を私に見(み)せているのかな。まさか、ねぇ。


 いつまでも夢(ゆめ)の余韻(よいん)に浸(ひた)ってる場合(ばあい)じゃない。今日(きょう)は大事(だいじ)な決戦(けっせん)があるのだ。さっと起(お)き上(あ)がって、私は身支度(みじたく)を始(はじ)めた。




 今(いま)の時期(じき)は四(し)月(がつ)初(はじ)めで。今日(きょう)は女子(じょし)の高校(こうこう)硬式(こうしき)野球(やきゅう)、選抜(せんばつ)大会(たいかい)の決(けっ)勝戦(しょうせん)である。会場(かいじょう)は何(なん)と、東京(とうきょう)ドームだった。その決勝(けっしょう)の舞台(ぶたい)に、これから私たちは挑(いど)んでいく。


 高校(こうこう)野球(やきゅう)の決勝(けっしょう)戦(せん)というと、昼(ひる)に行(おこな)われるイメージがあるけれど。そこは男子(だんし)の試合(しあい)と違(ちが)って、私たちの決勝(けっしょう)戦(せん)は午後(ごご)八時(はちじ)からの開始(かいし)だ。かつて、こんな光景(こうけい)を経験(けいけん)した気(き)がして、我(われ)ながら不思議(ふしぎ)だった。まるで最後(さいご)の晩餐(ばんさん)の後(あと)、戦場(せんじょう)に出(で)ていった騎士(きし)のような……。そんな経験(けいけん)なんか、あるわけないのに。


「さあ皆(みな)さん、いいですか。いよいよ決勝(けっしょう)ですよ。緊張(きんちょう)しないで、リラックス、リラックス」


 試合(しあい)の開始(かいし)時間(じかん)は迫(せま)っていて、私たち選手(せんしゅ)は控室(ひかえしつ)で、監督(かんとく)の話(はなし)に耳(みみ)を傾(かたむ)けていた。女性(じょせい)の教師(きょうし)で、そんなに野球(やきゅう)の知識(ちしき)もない人(ひと)だけど、なぜか私たち選手(せんしゅ)は彼女(かのじょ)と相性(あいしょう)が良(よ)いのだ。おっとりとした話(はな)し方(かた)の監督(かんとく)を、私たちは『姫(ひめ)さま』と呼(よ)んでいる。


「姫(ひめ)さまのおかげ、かなぁ。緊張(きんちょう)はしてないよ、本当(ほんとう)に」


「勝(か)っても負(ま)けても、死(し)ぬわけじゃないもんね。全力(ぜんりょく)でぶつかってくるよ」


 監督(かんとく)が姫(ひめ)だとしたら、私たち九人(くにん)のスターティングメンバーは騎士(きし)だろうか。私たち九人(くにん)は、まるで前世(ぜんせい)からの付(つ)き合(あ)いがあったみたいに、これまた相性(あいしょう)が良(よ)かった。ウマが合(あ)う、というのだろうか。騎士(きし)には馬(うま)が付(つ)きもので、とにかく監督(かんとく)との相性(あいしょう)も、選手(せんしゅ)同士(どうし)の相性(あいしょう)も最高(さいこう)なのだ。そんなチームが団体(だんたい)競技(きょうぎ)で、弱(よわ)いわけがなかった。


「ねぇ。大会(たいかい)が終(お)わって、そして高校(こうこう)も卒業(そつぎょう)したら、そのあとはどうする?」


 気(き)の早(はや)い子(こ)が、そんなことを言(い)ってくる。これから決勝(けっしょう)戦(せん)が始(はじ)まるというのに。「食(た)べて食(た)べて、食(た)べまくる!」と、大柄(おおがら)なキャッチャーが言(い)って、皆(みな)を笑(わら)わせていた。「結婚(けっこん)する!」、「女性(じょせい)総理(そうり)大臣(だいじん)になる!」、「花見(はなみ)でコーラを一杯(いっぱい)!」。その他(た)、好(す)き勝手(かって)なことばかりだ。


「……とりあえず私は、この剣(けん)で」


 そう言(い)って手元(てもと)のバットを示(しめ)しながら、私は姫(ひめ)さまへと向(む)き直(なお)る。


「勝利(しょうり)を届(とど)けてみせましょう。期待(きたい)しててください、姫(ひめ)さま」


 そう私は見得(みえ)を切(き)った。「よっ、さすがはエースで四番(よばん)!」、「われらが騎士(きし)団長(だんちょう)どのには、敵(かな)いませんなぁ」などと慣(な)れた扱(あつか)いで拍手(はくしゅ)をしてくる辺(あた)り、いい仲間(なかま)を持(も)ったなぁと思(おも)う。


「期待(きたい)してますよ。でも、さっき皆(みな)さんが言(い)ったとおり、負(ま)けても死(し)ぬわけじゃないんです。すべては、青春(せいしゅん)の一(いち)ページに過(す)ぎません。皆(みな)さんの人生(じんせい)という、一冊(いっさつ)のアルバムを今後(こんご)も、充実(じゅうじつ)させていってください。それだけが、私の願(ねが)いです」


 姫(ひめ)さまがそう言(い)った。「姫(ひめ)さまは他(ほか)に、やりたいこととかあるー?」と聞(き)かれて、「お婆(ばあ)ちゃんになって、太々(ふてぶて)しく生(い)きてみたいですねぇ」と笑(わら)っている。


 いよいよ試合(しあい)時間(じかん)だ。私たちは姫(ひめ)さまに一礼(いちれい)して、グラウンドへと駆(か)け出(だ)していく。勝(か)っても負(ま)けても、私たちの人生(じんせい)は続(つづ)いていくのだ。高校(こうこう)を卒業(そつぎょう)したら、私は教師(きょうし)を目指(めざ)してみようかと、そう思(おも)った。

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