表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺、当て馬なんで逃げます。――なんでついてくるんですか、ヒロインさん  作者: よるの 余白
IV「王都の営業マン」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
89/125

第八十九話「冬の始まり」


 冬が来た。


 裏庭の冬大根が育っていた。シャールが植えて、俺が世話をして、フィオナが水をやった。3人の共同作業だ。


「ランベルトさん。冬大根、大きくなりましたね」


「ああ。冬の大根は甘みが強い。煮物にすると最高だ」


「最高。……あなたが最高って言うの珍しいですね」


「大根に関しては最高と言う。料理人の矜持だ」


「料理人の矜持。護衛にも矜持はありますか」


「ある。護衛対象を空腹にさせないことだ」


「それは護衛じゃなくて料理人の矜持ですよ」


 (区別がつかなくなっている)



 *



 料理教室が3回目を迎えた。参加者は20人に増えた。


 今日のテーマは「冬大根の煮物」。


「冬の大根は、細胞の中に糖分を蓄える。寒さから身を守るためだ。だから、冬の大根は夏の大根より甘い」


「へえ。大根って、自分で身を守ってるんですか」


「守っている。植物は動けない。動けないから、内側を変える。環境が変わったら、自分の中身を変えて対応する」


 (大根の話をしている。しかし、自分のことを言っている気もする。環境が変わったら中身を変える。王都に来て、俺の中身も変わったか)


「煮込みは弱火で1時間。出汁の温度は80度を超えない。竹串が通るまで」


 20人が鍋を覗き込んだ。


 デュランがいた。


 端の席に座っていた。前回はいなかった。今回、初めて来た。


 何も言わなかった。黙って、大根を切っていた。3ミリ。正確だった。


 (デュランが参加している。茶会で「格が釣り合わない」と言った男が、大根を3ミリに切っている。何も言わない。しかし、ここにいる)


 料理教室が終わった。デュランが帰り際に、一言だけ言った。


「……悪くなかった」


 それだけで去った。


 フィオナが横で小さく笑った。


「デュランさん、来てましたね」


「来ていた」


「何も言わないですね」


「悪くなかった、と言った」


「デュランさんの『悪くなかった』は、褒め言葉ですよ」


「そうか」


「そうです。あの人、素直に褒められないタイプですから」



 *



 午後。ファインから急使が来た。


 手紙。短い。


「ランベルト殿。ミリアーデが貴族院で動く。明日の議題にフィオナの身元保証人の件が入った。出席してくれ」


 (身元保証人)


 フィオナは平民出身だ。王立学園に通っているのは特待生としてだが、貴族社会に正式に属しているわけではない。護衛をつけるにも、婚約の話が来るにも、「身元保証人」が必要だ。


 現状、フィオナの身元保証人はレオンだ。王太子が保証している。


 しかし、ミリアーデが「王太子が特定の平民の身元保証人になるのは公正ではない」と問題提起する気だ。


 (政治的な攻撃。武力でも婚約でもなく、制度で攻めてきた。営業でいう、法務部門を使った嫌がらせだ)


「フィオナ。明日、貴族院に行く」


「また貴族院ですか」


「ああ。ミリアーデが動いた」


「……また、ですか」


「また、だ。しかし、今回は武力ではない。制度で来た」


「制度」


「お前の身元保証人の問題だ。レオン殿下が保証人だが、それを崩そうとしている」


 フィオナの顔が少しだけ硬くなった。


「保証人がいなくなったら、どうなるんですか」


「学園に残れなくなる可能性がある。護衛の名目も失う」


「……私がここにいる理由が、全部なくなるってことですか」


「そうならないようにする。明日、俺が出る」


「あなたが? レオン殿下じゃなくて?」


「殿下は保証人だ。保証人本人が弁護すると、客観性が疑われる。第三者が出たほうがいい」


「第三者って、あなた」


「ああ。大根貴族が、貴族院で答弁する」


「……大丈夫ですか」


「大丈夫だ。営業マンは、プレゼンが得意だ」


 (プレゼン。前世で何百回やったか。今度のプレゼンは、大根の販促ではない。フィオナの居場所を守るプレゼンだ)




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ