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コミカライズ決定【5位】ヴェリタスの最終定理2 ナラティブ・ヴェリタス  作者: 王璃月
自己愛と性欲

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第1話:自己愛と性欲(1)

「ここ数ヶ月、我々の検挙率は100%を誇っていたはずだがね……」


カレル・オータム警部は、張り込み用のバンの後部座席で、重苦しい溜息をついた。


「俺と、ナラティブ君、そしてエラーラ君。この3人の連携は完璧だった。……だが、なんだね。あの運転席にいるキラキラした物体は」


カレルの視線の先。

運転席には、金髪碧眼、身長190センチの美青年が、鼻歌交じりにハンドルを握っていた。

シリウス・ブライト。

元騎士にして、現在はフリーの「英雄」。


「警部!心配しないでください!僕が来たからには百人力です!愛と勇気と魔力で、どんな凶悪犯も改心させてみせますよ!」


シリウスが振り返り、白い歯を見せてサムズアップする。


「……眩しいわね」


隣で、探偵ナラティブ・ヴェリタスが、うっとりと頬を染めている。


「顔がいい。性格がいい。そして強い。ねえお母様、彼を入れたのは正解だったわね?」


奥の席で、賢者エラーラ・ヴェリタスも満足げに頷いた。


「ああ。彼の身体能力と魔力保有量は、私の計測器の上限を振り切っている!」


カレルは眉間の皺を深めた。


「現場に到着しました!さあ、悪党どもに『ご挨拶』といきましょう!」


シリウスは、まだ車が停止していないのにドアを蹴り開け、光り輝く聖剣を抜いて飛び出していった。


「バ、バカモンッ!!隠密捜査だと言っておるのに!」


これが、地獄の始まりだった。

最初の事件は、爆弾魔による「王都中央タワー占拠事件」だった。

犯人は、魔導爆弾を設置し、タワーを人質に取っていた。


「いいか、シリウス君。君の役目は、犯人の注意を引きつけることだ。その隙に、エラーラ君が爆弾の……」


カレルの指示に、シリウスは「了解です! 囮ですね!」と元気よく答えた。

現場であるタワー最上階。

シリウスは、犯人の前に飛び出した。


「やあ!爆弾なんて危ないおもちゃは捨てて、僕とキャッチボールでもしようよ!」


「く、来るな! 起爆するぞ!」


犯人がスイッチに手をかける。

その時、エラーラが背後から忍び寄り、爆弾の制御回路にアクセスしていた。


「……あと3秒で凍結できる。ナラ君、制圧準備を」


「おっけ、お母様」


完璧な流れだった。

だが、シリウスが叫んだ。


「ああっ!犯人さん、手が震えているよ!寒いんだね?可哀想に……僕が温めてあげる!」


シリウスの手から、極大の熱線が放たれた。

それは犯人を温めるどころか、室温を一瞬で3000度に上昇させた。


「起爆回路が……反応する!」


閃光と爆風が、最上階を吹き飛ばした。


「……ううっ」


カレルは、防護結界のおかげで軽傷で済んだ。

だが、硝煙が晴れた後、そこに広がっていた光景を見て、絶叫した。


「エ、エラーラくぅぅぅぅん!!」


エラーラが、壁にもたれかかっていた。

しかし、彼女の右腕が、肩から先ごときれいに消し飛んでいた。

断面からは鮮血が噴き出し、白衣を赤く染めている。


「おのれシリウス!貴様、なんてことを……!」


カレルが駆け寄ろうとする。

だが、エラーラは平然としていた。

彼女は、自分のなくなった右腕を、まるで壊れた実験器具でも見るような目で観察していた。


「……ふむ?断面が綺麗に炭化しているおかげで、止血の手間が省けたねぇ!……面白いデータだ!」


「な、何を言っておるんだ君!腕が!腕がないぞ!」


「騒ぐな、カレル警部。蘇生魔法を使えば元通りだ。……それよりシリウス。君の今の熱量、計算より15%高かったよ。次は調整したまえ」


カレルは戦慄した。

腕を吹き飛ばされて、なぜ「データが取れた」と喜べる?

そして、なぜシリウスを叱責しない?

こいつらは、痛みを感じないのか?


次の事件は、武装カルト教団のアジトへの強行突入だった。

今度こそはと、カレルはシリウスを後方に配置した。


「君は絶対に出るな! そこで祈っていろ!」


しかし、乱戦の最中。


「仲間が苦戦しているのに、見てるだけなんてできません!」


シリウスが戦場に乱入してきた。


「敵の皆さんも、きっと何かの事情があるはずです!傷ついた人を放っておけません!『慈愛の雨』!」


シリウスが放った広範囲回復魔法は、味方だけでなく、瀕死だった敵の幹部たちをも全快させてしまった。

復活した敵幹部が、魔導ライフルを構える。

その銃口の先にいたのは、ナラだった。


「しまっ……!」


対戦車用の徹甲弾が、ナラの腹部を直撃した。

彼女の美しいドレススーツごと、腹に直径20センチの風穴が開いた。

向こう側の景色が見えるほどの、即死級の重傷。


「ナラティブくぅぅぅん!」


カレルが叫ぶ。

ナラは、ドサリと血の海に倒れ込んだ。

内臓が欠損し、脊椎まで見えている。

普通なら、数秒で死亡する。


「ああっ!ナラティブちゃん!ごめん、敵も救いたくて!」


シリウスが駆け寄る。

すると。

ナラの血まみれの手が、シリウスの頬を優しく撫でた。


「……いいのよ、シリウス……」


「ナラティブちゃん……!」


「……それに、ちょうどよかったわ。最近、少し食べ過ぎてたから……。胃袋ごと半分なくなって……ダイエットの手間が省けたわ……」


「バカなことを言っておる場合かァァァ!」


カレルが絶叫する。

その直後、エラーラが到着し、ナラの穴に怪しげな緑色のゲルを詰め込んだ。


「細胞活性化。術式展開。……ふぅ。ナラ君、君の代謝機能なら、5分で塞がるよ」


「ありがとう、お母様。……あーあ、このドレス、高かったのに。ま、シリウスの活躍が見られたから、安いものね」


カレルは、腰を抜かして座り込んでいた。

異常だ。

このチームは、何かが根本的に狂っている。

シリウスという「死神」が災厄を振り撒き、それを二人の「不死身の魔女」が笑って受け入れている。

これはもう、捜査ではない。


作戦終了後。

カレルは、包帯だらけの体を引きずり、エラーラとナラを呼び出した。


「……二人とも、正気なのか」


カレルの声は震えていた。


「シリウスは疫病神だ。なぜ、あんな男を使い続ける?なぜ怒らない?」


カレルは、机を叩いた。


「理解できん!彼には、俺には見えていない『何か』があるのか?それとも、君たちは判断力を失っているのか!」


エラーラは、再生したばかりの右腕を動かしながら、無表情に答えた。


「カレル警部?君の視点は人間的すぎるねぇ」


ナラも、腹にサラシを巻いた姿で、ワインを飲んでいる。


「そうよ、カレル。あなたは、シリウスの『真価』が見えていないのよ」


「真価だと? 破壊と回復を繰り返すだけのマッチポンプではないか!」


ナラティブは、フッと笑い、カレルを憐れむような目で見つめた。


「……ねえ、カレル。あなた、もしかして『嫉妬』してるの?」


「は?」


カレルの思考が停止した。


「分かるわよ?シリウスは、若くて、美しくて、圧倒的な才能の持ち主だもの。あなたのような『地道な努力キャラ』からすれば、彼のような『天性の愛されキャラ』が許せないんでしょう?」


「し、嫉妬……?俺が? あの災害にか!?」


エラーラも同調する。


「嫉妬心は判断を曇らせるよ、警部。彼は『規格外』なんだ。凡人の物差しで彼を測ろうとするから、ストレスが溜まる。……彼の『面白み』を認められないうちは、君もまだ二流だねぇ」


「……っ!」


カレルは言葉を失った。

二人にここまで言わせるシリウス。

腕を吹き飛ばされても、腹をえぐられても、なお彼を評価する二人。


(……もしや、俺が間違っておるのか?俺は、自分の理解を超えた存在を『無能』と決めつけているだけなのか?それが……『老害』というやつなの……か?)


カレルは、自分自身を疑い始めた。

長年の経験が、プライドが、音を立てて崩れていく。


そして、運命の夜が訪れた。

とある高級レストランの個室。

今回の「連続爆破テロ組織壊滅」の祝勝会が開かれていた。

もちろん、壊滅させたのはシリウスの暴走によるものだ。


「カンパーイ!いやぁ、今回も僕の大活躍でしたね!」


シリウスは上機嫌だった。


「水没した敵が、必死に泳いでいる姿!笑っちゃいましたね!エラーラさんの計算より早く片付いちゃいましたよ!やっぱり、机上の空論より、現場の直感ですよ!」


カレルは、胃薬を飲みながら黙っていた。


(……こいつは恐らく天才だ。俺には理解できないが、天才なのだ。認めるんだ、カレル。嫉妬は見苦しいぞ)


その時。

シリウスが、ふと真面目な顔をして、エラーラに向き直った。


「でも、エラーラさん。一つ言わせてください」


「……なんだい」


エラーラは、タブレットで論文を読みながら答えた。


「今回の作戦、あなたの指示は慎重すぎました。結果的に僕が爆破したからよかったものの、あなたの指示に従っていたら、敵を取り逃がしていたかもしれません」


シリウスは、諭すように言った。


「リーダーたるもの、もっと大胆にリスクを取るべきです。僕のような『優秀な現場』の声を聞いて、柔軟に対応してください」


一瞬。

部屋の空気が、真空になったかのように静まり返った。

カレルは冷や汗をかいた。

エラーラが、ゆっくりと魔導端末を置いた。

その顔には、怒りも、悲しみもなかった。

あるのは、動かなくなった扇風機を見るような、無機質な「無関心」だけだった。


「……シリウス君?」


「はい!なんですか、パートナー!」


「君は、私が『リーダー』で、君が『部下』あるいは『対等な仲間』だと思っていたのかい?」


「え? 違うんですか?あ、もしかして『運命共同体』ってことですか?照れるなぁ!」


エラーラは、カバンから一枚の書類を取り出した。


「ナラ君。精算だ。手切れ金は多めに渡してやれ。二度と私の視界に入らないように」


「りょーかい!」


ナラは、即座に分厚い封筒をシリウスの顔面に投げつけた。


「え……?」


シリウスが凍りつく。


「え?終わり?なんで?僕たち、うまくいってたじゃないですか!」


エラーラは、ため息をついた。


「君は勘違いをしているよ。君は『有能』ではない。ただの『くじ引き』だ。私は、君という『玩具』を、私の計算式に代入して、実験データを取っていただけだ。腕の一本や二本、データ収集のコストとしては安いものだからね」


「デ、データ……? 仲間じゃなくて?」


「仲間?」


エラーラは鼻で笑った。


「『玩具』が使用者に意見をするようになったら、それはもう『故障』だよ。廃棄だ」


シリウスは、助けを求めるようにナラを見た。


「ナラティブちゃん!君なら分かるよね!?君は僕のこと、好きだって言ってくれたじゃないか!僕の輝きを、美学を、愛してくれていたじゃないか!」


ナラは、冷めた目でステーキを切り分けていた。

そこには、先日までの「うっとりした表情」は欠片もなかった。


「……悪いけど、シリウス。あたし、勘違いしてたわ」


ナラは、フォークに刺した肉を眺めながら言った。


「あんたは魔法がすごいし、剣も強い。だから、お母様と同じ『頭のいい人』のカテゴリだと思ってたの。凡人には理解できない高みで、お母様と通じ合ってるんだって。……だから、あたしも『分かってるフリ』をしてただけ」


ナラは、シリウスを一瞥した。


「でも、違ったわね。あんたは、ただの『バカ』よ。自分の感覚だけで動く、ただの身の程知らず」


「な……」


「さっさと消えて。……それとも、あたしが物理的に消してあげましょうか?」


ナラの殺気。

それは、シリウスが「慈愛」などと戯言を抜かす隙間もない、本物の殺意だった。


「ひ、ひぃぃぃッ!」


シリウスは封筒をひったくり、逃げるようにレストランを飛び出していった。

エラーラは何事もなかったかのようにデザートのメニューを見ている。

ナラは肉を食べている。

カレルは、震える声で尋ねた。


「……どういうことだ。君たちは、俺が『嫉妬』していると言ったではないか」


ナラが、顔を上げた。

その瞳は、ゾッとするほど理知的で、冷ややかだった。


「……ねえ、カレル。あの言葉、どういう意味だと思ってたの?」


ナラは、ワインを揺らした。


「『あんな玩具に対して感情を動かすほど、彼を対等な人間だと思っているの?』って意味だったのよ」


カレルの心臓が止まりかけた。

エラーラが補足する。


「そうさね。カレル警部。君は彼を『人間』として扱っていた。だから、彼のミスに腹を立て、彼の無礼に怒った。……だが、私たちは違う」


エラーラは、透明な義手でフォークを握った。


「私は彼を『玩具』として見ていた。ナラ君は彼を『ペット』として見ていた。……ペットがカーペットを汚しても、本気で怒ったりする人間はいないだろう?君が彼に本気で怒っている姿を見て、私たちは不思議に思っただけだよ」


カレルは、椅子の背もたれに深く体を預けた。

全身の力が抜けていく。

カレルは、安堵した。

だが同時に、骨の髄まで凍りつくような恐怖を感じていた。

目の前にいる美女二人は、笑顔で食事をしている。

だが彼女たちは、平気で腕を切り落とし、腹に穴を開け、それを「データ収集」「ダイエット」と笑い飛ばす、倫理のネジが焼き切れた怪物たちだ。

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