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ヴェリタスの最終定理1真理の証明(中)ナラティブ・ヴェリタス  作者: 王牌璃月
薬物依存について

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第1話:薬物依存について(1)

王都の流行は、死の香りを伴う。

かつては「ロッソ」が流行し、人々はこぞって指先に毒性の強い染料を塗りたくり、数カ月後には膿んだ指先からコオロギの幼虫が飛び出してくるという惨劇に見舞われた。だが、今の流行はそれよりも質が悪い。


「マン・ジャーロ」。


それが街を支配する呪文だった。

正式名称を「ヒューマン・ジャーロ(Human Giallo)」という。本来は、体内の魔力出力が制御不能になった重度の「魔力過多症」を抑え、無理やりエネルギーを外部へ放出して体を萎縮させるための劇薬である。だが、王都のファッションリーダーたちは、この薬の「副作用」に目をつけた。

この薬を打てば、どんな大食漢でも数日で骨と皮だけの「究極のスレンダー」になれる。

副作用として肌がレモンのように黄色く変色し、白目が黄疸に染まるが、それさえも「退廃的で一流の色彩」として持て囃された。

ジャーロとは、かつて流行した殺人推理小説の総称だ。その表紙が「黄色」かったことから名付けられた。つまり、この薬を愛用する者は、自らの肉体を「一冊の殺人小説」へと変貌させているも同然だった。


ナラティブ・ヴェリタスは、鏡の前で自分の頬を撫でた。

鏡に映るのは、不健康を通り越して「標本」の一歩手前まで削ぎ落とされた、黄色い肌の女だ。


「……完璧ですわ。この肋骨の浮き出方こそ、真の一流というものですわね」


彼女の足元には、空になった「マン・ジャーロ」の魔導アンプルが転がっている。彼女は一日に三回、この黄金の液体を静脈に流し込んでいた。もはや、杖無しでは歩くことさえままならない。だが、ナラにとってそんなことは些事だった。流行に取り残されること。それこそが、彼女にとって唯一の「死」を意味するからだ。


そこへ、重々しい足音が部屋に響いた。

エラーラ・ヴェリタスだ。彼女は「母性」の象徴のような、豊かな体躯を持つ現実主義者だった。


「ナラ君?またそれを打ったのかい?君の肝臓は今、悲鳴を上げる暇さえなく沈黙しているよ。それは美しさではない。単なる『腐敗へのショートカット』だ。その状態で酒を飲んだら……」


エラーラは呆れたように、ナラの腕に並んだ注射痕を見つめた。


「お母様?そんな肉厚な身体でものを語るなんて片腹痛いですわ!今の王都では、重力に逆らえない肉など、ただのゴミも同然ですのよ!」


「重力に逆らう、か。面白いね。だが、その薬の名前を思い出してごらん。ジャーロ……それは『死体』を描いた小説の言葉だ。君が今やっているのは、自分の葬式のためにドレスを仕立てているようなものだよ」


エラーラは、ナラから強引にアンプルを奪い取ると、窓から投げ捨てた。

それから数週間。エラーラは発狂して暴れるナラを椅子に縛り付け、魔導栄養剤と肉のスープを無理やり流し込んだ。ナラの肌からは黄色が抜け、頬には不本意な赤みが戻り、身体は少しずつ、人間らしい柔らかさを取り戻していった。


数カ月後。王都の風向きは、一晩にして変わった。

流行の気まぐれは、いつだって残酷だ。

「マン・ジャーロ」中毒者たちが次々と心不全で倒れ、黄色い死体が街の至る所に積み重なったことで、市民たちは急に「死の恐怖」に目覚めた。流行は真逆の方向へ、凄まじい速度で振り切れた。


新しい合言葉は、「満ち足りた魔力と肉体」。

ガリガリの身体は「食べ物も買えない貧乏人」という本来の意味を持ち始め、「負け組」の象徴となり、代わって、健康的な脂肪と豊かな肉付きこそが「真のエレガンス」として讃えられるようになった。

この世の春を謳歌したのは、他ならぬエラーラだった。

彼女はそもそも、規則正しい食事と適度な運動を欠かさない、非常に「ぽっちゃり」とした魅力的な体型の持ち主だった。かつてはナラに罵られたその身体が、今や街中の男女が憧れる「王都の至宝」として崇められている。


「エラーラ様、今夜の晩餐会にお越しいただけませんか?あなたのその、魔力が溢れ出しそうな二の腕を、ぜひ我が一族の肖像画に残したいのです!」


街を歩けば、エラーラには数え切れないほどの賞賛と招待状が舞い込む。

一方で、ナラは屈辱の底にいた。

「マン・ジャーロ」を止めたとはいえ、一度削ぎ落とした筋肉と脂肪は簡単には戻らない。彼女は今や、時代遅れの「枯れ木」のような女として、社交界の隅っこで冷たい視線を浴びていた。


「……不条理ですの!お母様のような、あの計算も品性もない身体が『一流』だなんて!世界の論理が狂っていますわ!」


嫉妬に狂ったナラは、再び裏路地の「薬売り」の元を訪れた。

だが、今回求めるのは痩せ薬ではない。


「……お嬢さん、いいのがあるよ。最新の流行を『最速』で手に入れる薬だ」


薬売りが差し出したのは、不気味な赤色をしたアンプル。


「マン・デッド(Man Dead)」。

正式名称「ヒューマン・デッド」。

その名の通り、身体を「膨張」させることに特化した禁忌の薬物である。


「マン・デッド」は恐ろしい薬だった。

それは脂肪を増やすのではない。体内の魔力密度を数千倍に高め、細胞の一つ一つを水ぶくれのように膨らませることで、「肉付きが良い」という外見を偽装する薬だった。

ナラはそのアンプルを手に、自宅の洗面所で震えていた。

これを打てば、明日にはお母様を超える「豊かな身体」が手に入る。

だが、その時。窓の外から凄まじい、文字通りの「破裂音」が聞こえてきた。


「……なんですの!?」


ナラが窓から外を見下ろすと、そこには凄惨な光景が広がっていた。

街路樹の下で、一人の貴婦人がジャンプした瞬間に、空中で「爆発」していた。

彼女の身体は、魔力の圧力に耐えきれなくなった風船のように弾け、血と肉が周囲の通行人に降り注いだ。

エラーラが血相を変えて部屋に飛び込んできた。


「ナラ君!大惨事だ!」


「お母様、一体何が起きているのですの!? あの人、跳ねただけで弾けましたわよ!」


エラーラは窓を閉め、冷徹な分析を始めた。


「……自業自得の連鎖だよ。彼らは、かつて『マン・ジャーロ』を常用していた。あの薬は、魔力を逃がすために骨を脆くし、筋肉の繊維をズタズタにする副作用がある。つまり、彼らの身体は今、穴だらけのボロボロの革袋なんだ」


エラーラは黒板に魔法陣と物理計算式を書き殴った。


「彼らはボロボロの肉体に、無理やり『マン・デッド』を流し込んで、魔力密度と質量を極限まで高めた。本来、健康な肉体なら耐えられる圧力でも、ジャーロで薄くなった皮膚と弱った筋肉では、その重みに耐えられない」


「ある者は、少し転んだ拍子に腕を擦りむいた。すると、その小さな傷口から、圧縮されていた内臓と肉が『ブリブリ』と音を立てて逆流し、体内のすべてを放り出して死亡した」


「またある者は、オシャレのつもりで軽くステップを踏んだ。着地の瞬間、足首の骨が魔力の重みに耐えきれず粉砕され、そこから体圧が一気に抜けて……全身が裏返しになって破裂した」


街は今、物理法則の報復を受けていた。

「痩せたい」という執着と、「太りたい」という嫉妬が混ざり合い、人間の肉体をただの「ガスボンベ」へと変えてしまったのだ。


外では、さらに凄惨な音が続いている。

「マン・デッド」で手に入れた偽りの豊満さは、ただの爆弾だった。

王都の石畳は、かつて黄色い中毒者たちで埋め尽くされた時よりも酷い有様だ。赤黒い肉片が降り注ぎ、着地するたびに誰かが「ポップ」し、その中身をぶちまけている。

ナラは、手元にある赤いアンプルを見つめた。

これを打てば、自分もあの「内臓の雨」の一部になるのだろうか。

一流の探偵として、あるいは一流の淑女として。


「……ナラ君。その薬を捨てて、こちらに来るんだ」


エラーラが差し出したのは、薬でも魔導具でもなかった。

それは、湯気の立つ焼きたての厚切りトーストと、たっぷりとはちみつが塗られた新鮮な果物、そして一杯の温かいミルクだった。


「流行なんてものは、円環だ。右に振れ、左に振れ、その度に自分の身体を削ったり膨らませたりして、一体何が残るというんだい? 君に残るのは、ただ一回の人生だけだ」


ナラは、赤いアンプルをゴミ箱に投げ捨てた。

そして、ガタガタと震える手でトーストを掴み、一口齧った。


「……美味しい。……美味しいですわ、お母様」


「そうだろうよ。自分の胃袋が喜び、自分の筋肉が正しく機能する。それこそが、どんな薬物よりも美しく、どんな魔法よりも強力な、真の一流というものだよ」


ナラは泣きながら、トーストを口に詰め込んだ。

黄色い肌も、赤い破裂も、もういらない。

その日から、ナラは健康に気をつけ始めた。

毎朝の散歩を欠かさず、エラーラと共に三食をしっかり食べ、睡眠を十分に取る。

かつての彼女からすれば、これほど「泥臭い」生活はない。

だが、鏡の中の彼女は、もう黄色くなかった。

肌には弾力が戻り、目は澄み渡り、何よりもその脚で、しっかりと大地を踏み締めていた。

外では、まだ「マン・デッド」の影響で身体を破裂させる愚か者たちの断末魔が響いている。

だが、ナラはもう、窓を開けて彼らを嘲笑うことさえしなかった。

彼女はただ、エラーラが焼いたスコーンに、たっぷりのクリームを塗りながら、静かにこう言った。


「……健康が、唯一の武器ですわね」


王都の流行は、今日も誰かを殺し続けている。

だが、ヴェリタス家の食卓には、ただ穏やかな、命の音が響いていた。

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