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ヴェリタスの最終定理2 ナラティブ・ヴェリタス  作者: Wan Liyue 王璃月
過去の未来が自分です

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第2話:過去の未来が自分です(2)

そして。意識が戻った。

目覚めたタカシは、呻きながら体を起こした。

高級なダブルスーツは埃まみれになり、自慢のイタリア製革靴は泥に沈んでいる。


「俺の車はどうなった!……って、どこだここは?」


タカシは周囲を見回した。

そこは、石造りの建物がひしめく路地裏だった。切り出した石と煉瓦、そして古びた木材で組まれた、やたらと古臭い建築様式。


「……なるほど?」


タカシは、すぐに「正解」を導き出した。


「ここ、テーマパークか?浦安の遊園地の新エリアか、それとも日光の時代劇屋敷の洋風版か?」


タカシはスーツの埃を払い、ふらつく足取りで路地裏を抜けた。

目の前に広がった光景に、彼は口を半開きにした。

そこは、巨大なメインストリートだった。

石畳の大通りを行き交う、馬車。

鎧を着た兵士。ローブを纏った老人。

そして、どう見ても「着ぐるみ」にしか見えない、犬や豚の顔をした二足歩行の生き物たち。

空には、巨大な飛空艇がゆっくりと横切っていく。


「金かかってんなぁ!最新のエスエフエックスか?」


タカシは、この異世界「王都」を、巨大アミューズメントパークだと解釈した。

彼の貧困な想像力では、それ以外に説明がつかなかったのだ。


「客層悪いな。どいつもこいつも薄汚ねぇ。ブランド物の一つも持ってねぇのか?……おい、そこのタクシー?」


タカシは、通りかかった魔導タクシーに向かって紙幣を挙げた。

魔導車は止まらず、狂人を見る目で睨んで通り過ぎた。

タカシは苛立ち、高級時計を確認した。


「腹減ったな。どこかにフレンチの店くらいあるだろ」


彼は、市場の屋台を覗き込んだ。

謎の肉の串焼きが売られている。


「おい、これいくら?一万円で足りるか?釣りはいらねぇぞ」


タカシは、万札をヒラヒラさせた。

屋台の主人は、聖徳太子の肖像画が描かれた紙切れを怪訝そうに見て、タカシの手を払いのけた。


「なんだその紙屑は。冷やかしなら消えな!」


「紙屑だと?テメェ聖徳太子を知らねぇのか!」


タカシは憤慨し、屋台を蹴り飛ばそうとしたが、すぐに足がもつれて転びそうになった。

運動不足の体には、石畳の凹凸が厳しかった。


「クソッ……親父!どこだ親父!帰るぞ!つまんねぇよこんな所!」


1時間後。

タカシは、完全に迷子になっていた。

メインストリートから一本入った裏通り。そこは、表の華やかさとは違う、スラムの空気が漂う危険地帯だった。


「なんだよ、自販機もねぇのかよ。喉渇いた……コーラ飲みてぇ……」


タカシが壁にもたれて座り込んでいると、三人の男が近づいてきた。

見るからにガラの悪い、革鎧を着崩した男たち。腰には剣やナイフを下げている。


「おい、兄ちゃん。随分と珍しい服着てんじゃねぇか……その腕につけてる銀色の輪っか、高そうだな。よこせよ」


男がナイフをチラつかせた。

タカシは鼻で笑った。


「この時計は800万するんだ。お前らの給料じゃ100年働いても買えねぇよ!」


「……?」


鈍い音が響いた。

タカシの鳩尾に、男の拳がめり込んだのだ。

タカシは膝から崩れ落ちた。


「身ぐるみ剥いで、沈めてやるよ」


男たちがタカシを取り囲む。

タカシは、初めて「恐怖」を感じた。


「や、やめろ!金ならやる!財布ごとやるから!」


タカシは地面を這いつくばり、涙と鼻水を流して命乞いをした。

男がナイフを振り上げる。


「死ね!」


タカシはギュッと目を閉じた。

その時だった。

硬質なヒールの音が、路地裏に響き渡った。

それは、規則正しく、優雅で、そして圧倒的な「強者」の足音だった。


「……誰だ?」


男たちが動きを止める。


「あらあら。散歩を楽しもうと思ったら、汚いネズミたちが騒いでるわね」


タカシは、恐る恐る目を開けた。

路地裏の入り口に、一人の女が立っていた。

男の一人が下卑た笑みを浮かべて近づこうとした瞬間。

女の拳が動いた。


「あがぁッ!?」


殴られた男は独楽のように回転しながら吹き飛び、壁に激突して気絶した。


「え……?」


残りの二人が凍りつく。

女は、ふふっと妖艶に笑った。

その顔立ちを見た瞬間、タカシの時が止まった。

彼女の黒いドレススーツは、最新モードのオートクチュールに見えた。

鉄扇は、洗練されたアクセサリーに見えた。

その暴力的な強さは、「キャリアウーマン」の究極形に見えた。

それは、バブルの東京でタカシが見てきた、どのモデルよりも、どの女優よりも、圧倒的に美しく、そして「危険」な女だった。


「な、なんだテメェ!」


残りの男たちが剣を抜いて襲いかかる。

女は動じない。

ヒールを軸にして華麗に回転し、ドレスの裾を翻す。

それは舞踏のようだった。

一瞬の出来事だった。

一人の腕をねじ上げ、もう一人の顎を鉄扇で砕き、同時にヒールで股間を蹴り上げる。

無駄のない、芸術的な暴力。


「……美学が足りないわね、あなたたち」


女は、倒れ伏した男たちを一瞥もしなかった。

タカシは、泥にまみれたまま、口をぽかんと開けてその光景を見ていた。

恐怖は消えていた。

代わりに、胸の奥から熱いものがこみ上げてくるのを感じた。


(こ、これだ……!俺が探していたのは、こういう女だ!)


タカシは、六本木で金に群がる安い女たちに飽き飽きしていた。

だが、目の前の女は違う。

媚びない。群れない。そして強い。

まさに、バブルの王様である自分に相応しい「トロフィー」だ。

女が、タカシを見下ろした。

冷ややかな、ゴミを見るような目。


「命拾いしたわね。さっさと家に帰って、ママのおっぱいでも吸ってなさい」


普通なら、その侮蔑の言葉に怒るか、恥じ入るだろう。

だが、タカシは違った。

その冷たい視線にさえ、ゾクゾクするような快感を覚えてしまったのだ。


「自分ほどの大物を、ここまで冷たくあしらえる女」というレアリティに、価値を見出したのだ。

タカシは、よろめきながら立ち上がった。

スーツはドロドロ、顔は腫れ上がり、鼻血を出している。

だが、彼は精一杯のキメ顔を作り、髪をかき上げた。


「……やるじゃねぇか。俺のボディーガードにしてやってもいいぜ」


女――ナラティブ・ヴェリタスは、怪訝そうに眉をひそめた。


「は?何言ってるの、あんた。頭打った?」


「俺は剣崎タカシ。日本一の金持ちの息子だ」


タカシは、泥だらけの手を差し出した。


「気に入ったぜ、女。いくらだ?一晩いくら出せば、俺の女になる?5万円でどうだ?」


ナラの目が、スゥッと細められた。

それは、害虫を駆除する直前の目だった。


「……死にたいの?」


殺気。

本物の殺気。

だが、タカシの脳内には、ユーロビートのBGMが鳴り響き、恋の予感がスパークしていた。


「強気だねぇ!よし、決めた!お前を、俺の『本命』にしてやるよ!」


次の瞬間、タカシの体は路地裏の空を舞い、ゴミ捨て場の中に頭から突き刺さった。

ナラの回し蹴りが、完璧に炸裂したのだ。

ナラは、汚いものに触れた靴底を地面で拭い、さっさと歩き去っていった。


「やっぱり、現地通貨じゃなきゃ、だめなのか……!?」


タカシは、気絶した。


・・・・・・・・・・


タカシが目覚めたのは、王都の中央広場だった。


「はっ!?……ああ、やっぱり金か。ならば!まずは、現地通貨の調達だ!」


ナラに蹴り飛ばされた路地裏から這い出し、彼はとりあえず人が多そうな場所へ向かった。

目の前には、巨大な石造りの塔がそびえ立っている。

看板には重厚な文字で『王立魔導学会・本年度採用試験会場』と書かれていた。

長蛇の列ができている。ローブを着た若者たちが、緊張した面持ちでブツブツと呪文を暗唱している。

タカシのバブル脳は、即座にこれを「一流企業の就職面接」と誤認した。


「なるほどね。ここが、このテーマパークの運営会社?ってわけか。親父のコネが使えねぇなら、実力で入社してやるよ!」


数日後。

タカシが目をつけたのは、魔導学会の「窓口」だった。

そこには、地方の魔導師たちからの納付金や、依頼料が集まる。

担当していたのは、ガリアという、真面目だが覇気のない中年の会計係だった。

タカシは、魔法など使わない。

彼が使ったのは、日本のバブル企業で親父の部下たちがやっていた「帳簿の穴探し」だ。


「おい、ガリアさんよ」


タカシは、ガリアを路地裏の酒場に連れ込んだ。

安酒をあおりながら、一枚の羊皮紙を突きつける。


「あんた、先月の『北の森討伐費』……水増ししてるよな?」


「な、何を……!」


「誤魔化しても無駄だぜ。正規の相場より3割高い。その差額、どこへ消えた?……あんたの娘、来月から王都の音楽院に入るんだってな?入学金、高かったろ?」


ガリアの顔色が土気色になる。

タカシは、ニタリと笑った。それは、弱みを握ったハイエナの、湿った笑いだった。


「ひぃっ……!報告しないでくれ!娘のためなんだ!」


タカシは、ガリアの肩を抱いた。


「んん?……バカだなぁ。誰がバラすって言った?俺は感動してるんだよ。家族愛にな!……だからさ!俺と『組もう』ぜ」


「組む……?」


「簡単なことだ。俺がもっと上手い『隠し方』を教えてやる。その代わり、浮いた金の半分を俺に寄越せ。……嫌なら……分かってるよな?」


「飴と鞭」ではない。「共犯化」だ。

一度手を汚させ、逃げ場をなくす。

タカシは、ガリアを皮切りに、経理部の底辺にいる職員たちを次々と「買収」と「恐喝」で手駒に変えた。

彼らはタカシの命令で、組織の裏金をプールし始めた。

それが、タカシの軍資金となった。


金ができれば、次は「力」だ。

タカシは、王都のスラム街へ向かった。

そこには、人間から差別され、仕事にあぶれたオークやオーガたちがたむろしていた。

タカシは、彼らの前に横領した金貨の袋を投げ出した。


「やあ!飯は食えてるかい?」


「なんだテメェ!?」


オークが棍棒を振り上げる。

タカシは動じない。


「一日いくら稼げてる?俺についても来れば、毎日肉と酒、それに『女』をあてがってやる」


「……あ?」


タカシは、日本から着てきた舶来品のスーツを指差した。


「俺はな、お前らを『兵隊』にしてやるって言ってんだ。人間どもを見返したくねぇか?俺の言う通りにすれば、お前らは王都の裏通りの王様だ!」


タカシはオークたちに、派手なストライプのスーツを着せ、サングラスをかけさせた。

そして、徹底的に「昭和の作法」を仕込んだ。


「魔法使いが詠唱を始めたら、指をへし折れ」


「家族構成を調べて、『娘が可愛そうだろ』と囁け」


「夜道で袋叩きにして、最後に『運が悪かったな』と笑え」


魔法戦などしない。

不意打ち、集団リンチ、家族への脅迫。

「魔導師」というエリートたちが最も想定していない、卑劣で原始的な暴力。


ある日、タカシの横領に気づきかけた正義感の強い監査官がいた。

翌日、彼は全身打撲で意識不明の重体となり、路地裏で発見された。

犯人は不明。だが、彼の家には「これ以上嗅ぎ回るな」という血文字が残されていた。

恐怖が、学会の下層部を支配した。


「タカシのバックには『闇の軍団』がいる」


その噂だけで、タカシの道は開かれた。

金と暴力を手に入れたタカシは、いよいよ上層部へと食い込む。

ターゲットは、学会の意思決定を行う「七賢人」と呼ばれる老人たち。

彼らは高潔で、禁欲的で、そして退屈していた。

タカシは、王都の一等地に、「会員制の娼館」を建設した。

そして、そこに集められた「商品」たち。

借金で首が回らなくなったエルフの美女、人攫いから買い取った獣人の少女、そして薬物で理性を飛ばされた踊り子たち。


「さあさ、賢者様!今日は学会の堅苦しい話は抜きです!……ほら、この娘は『サキュバスの血』を引いてましてね……」


タカシは、賢者たちを個室へ誘う。

そこで振る舞われるのは、最高級の酒と、判断能力を奪う薬物。

そして、彼らが理性を失い、獣のように少女たちを貪り始めた瞬間。

部屋の鏡の裏では、「記録用の魔石」が、その醜態を鮮明に録画していた。

翌日。

賢者の執務室を訪れたタカシは、一枚の「写真」を机の上に置く。


「……賢者様。昨夜は楽しそうでしたねぇ。いやぁ、この写真……市民に流出したら、学会の権威は地に落ちますなぁ」


「嵌めおったな……!」


賢者が震える。

タカシは、煙草の煙を賢者の顔に吹きかけた。


「……ところで、今度の『予算委員会』。俺を財務本部長に推してくれますよね?」


「……あ、悪魔め……」


「よせやいよせやい。俺はただの『ビジネスマン』だ」


弱みを握られた賢者たちは、次々とタカシの傀儡となった。

彼らは会議でタカシを絶賛し、彼の望むポストを用意せざるを得なかった。

タカシは、最上階の本部長室で、シャンパンタワーを眺めながら笑っていた。


「チョロい!どいつもこいつもアホばっかりだ!魔法?知性?笑わせんな。俺はそんな下らないものは一切学ばない!一番強い魔法はな、『欲望』と『恐怖』なんだよ!」


彼は、魔法を一つも使えなかった。

だが、彼は「人間の業」という、最も穢れた魔法を使いこなしていた。

80年代の東京で、腐るほど見てきた「大人のやり方」。

嘘、裏切り、暴力、女、薬、金。

それらをカクテルのように混ぜ合わせ、異世界という清廉なグラスに注ぎ込んだ毒。

それが、剣崎タカシという男の正体だった。


・・・・・・・・・・


「見よ! この美しい右肩上がりの曲線を!」


魔導学会の大会議室。

剣崎タカシ財務統括本部長は、巨大なグラフの前で、演劇役者のように両手を広げた。

グラフの赤い線は、過去数十年で最低だった利益率から、垂直に近い角度で急上昇し、過去最高益を記録していた。


「おおお……!」


「神業だ……!半年でここまで立て直すとは!」


「タカシ本部長は、まさに魔導学会の救世主じゃ!」


老人たちが涙を流して称賛する。

彼らは魔法の真理には詳しいが、財務諸表の読み方は知らない。

タカシが成し遂げたこの「奇跡」の正体が、「成果を上げた」のではなく、「支出を極限まで止めた」だけの数字のマジックであることに、誰も気づいていなかった。

タカシは、得意満面に葉巻を燻らせた。


「皆様。俺は、無駄な肉を削ぎ落とした。それだけですよ」


その「無駄な肉」とは、学会の未来を担うべき人材と、安全管理費のことだったのだが。


タカシが行った改革の柱は、徹底した「実利主義」だった。

彼は、学会内のすべての研究室を査定し、二種類に分類した。

「金になる研究」か、「金にならない研究」かだ。


「ジジイ。お前の研究テーマはなんだ?」


タカシは、ある古参の研究室に踏み込んだ。

そこでは、貧相な老教授が、星の動きと魔力の波長について研究していた。


「は、はい……『天体運行によるマナの微細な変動と、世界の理についての哲学的考察』であります」


「……?」


タカシは、あからさまに顔をしかめた。


「で?それはいくらで売れる?」


「はあ?……これは基礎研究でありまして、即座に利益を生むものでは……しかし、10年後には……」


「10年後ぉ?」


タカシは、研究中の羊皮紙を床に叩きつけた。


「寝言は寝て言え!俺たちが生きているのは『今』なんだよ!10年後のガキのために、なんで俺たちの金を使わなきゃなんねぇんだ!」


タカシは、赤いインクで書類に大きく『廃止』と書き殴った。


「閉鎖だ。この研究室は今日で閉鎖だ。予算ゼロ。機材はすべて売却!」


「そ、そんな殺生な!この研究は私の命……!」


「うるせぇ! 警備兵、つまみ出せ!」


こうして、基礎研究、歴史研究、環境保全魔法など、「金にならない」分野はすべて切り捨てられた。

残ったのは、「爆破魔法」「媚薬生成」「錬金術」といった、即金性の高い分野のみ。

学会の多様性は死滅した。

だが、目先の利益だけは爆発的に増えた。

タカシはそれを「選択と集中」と呼び、賢者たちは「英断だ」と拍手を送った。


次にタカシが手をつけたのは、「人件費」だった。

彼は、日本のバブル期にはびこっていた狂気を、魔法世界に持ち込んだ。


「お前ら!甘ったれた考えは捨てろ!」


タカシは、若手魔導師たちを集めて洗脳を行った。


「お前らは、この神聖な学会で自己成長させてもらってるんだぞ?本来なら、お前らが俺に授業料を払うべきなんだ!それを、働かせてもらっているという感謝の気持ちはないのか!夢のために学会に貢献しろ!」


「やりがい搾取」である。


さらに、彼は「業務委託」という名の奴隷契約を導入した。

スラムからさらってきたゴブリンやコボルトたちに、危険な魔薬の調合や、高熱の魔導炉の管理をやらせたのだ。


「あいつらは所詮、鉄砲玉だ。防護服なんて高価なもんは要らねぇ。死んだら新しいのを補充しろ」


結果、学会の人件費は3分の1に激減した。

現場では過労死や事故が多発していたが、タカシはそれを「自己責任」として処理し、表向きの数字には一切反映させなかった。


半年後。

タカシの「改革」により、魔導学会は空前の好景気に沸いていた。

金庫には金貨が溢れ、タカシの懐にも莫大な「役員報酬」が流れ込んだ。

本部長室。

タカシは、最高級のブランデーを揺らしながら、窓の外を見下ろしていた。


「天才か、俺は!親父が見たら腰抜かすぜ。『経営』はな、引き算なんだよ!」


彼は気づいていなかった。

彼が削った「コスト」が、実は組織を支える「骨格」であったことに。

基礎研究を切ったことで、新しい魔法の発明は止まった。今は過去の遺産を食いつぶしているだけだ。

ベテラン研究者を追い出したことで、危険な魔法を制御するノウハウが失われた。

安全管理費を削ったことで、魔導塔の基盤には亀裂が入り、結界には歪みが生じていた。


「本部長……」


秘書が、震える声で報告に来た。


「地下の第3魔導炉の振動が止まりません。冷却装置の予算をカットしたせいで、臨界点ギリギリです。それに、研究員たちの造反の噂も……」


タカシは、不機嫌そうにブランデーを飲み干した。


「うるせぇ。脅しとけ。……俺は今夜、エルフの女王と会食なんだ。水を差すんじゃねぇ!」


タカシは秘書を追い払い、ネクタイを締め直した。

彼の目には、数字しか見えていない。

その数字が、崩壊寸前の砂上の楼閣を示していることにも気づかずに。

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