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【5位】ヴェリタスの最終定理2 ナラティブ・ヴェリタス  作者: Wan Liyue
●第5章:破壊を生み出す者

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第4話:破壊を生み出す者(4)

夜明け前。

王都国際空港、第3滑走路。

そこには、異様な光景が広がっていた。


「やつらを近づけるな!」


「飛行機が飛び立つまで時間を稼げ!」


数百人の男たちが、重武装で展開していた。

彼らはリニア・アルゴリズムが組織した国際犯罪シンジケートの残党であり、実態は金をで雇われた傭兵や、彼に弱みを握られたマフィアの構成員たちだ。

手には『魔導機関銃』。腰には『魔導ナイフ』。

彼らは知っていた。ここでリニアを逃がさなければ、自分たちも処刑されることを。

だからこそ、必死だった。

その、防波堤の前に、二つの影が降り立った。


「……数が多いわね」


ナラティブ・ヴェリタスが、鉄扇をパチンと鳴らして開いた。

その顔には、微塵の恐れもない。あるのは、長年の相棒と「狩り」に出る時の、獰猛な歓喜だけだ。


「……問題ないよ、ナラ君」


エラーラ・ヴェリタスは、白衣の裾を海風になびかせ、冷徹な瞳で敵軍を見据えた。


「彼らは人間ではない。害虫だ」


その瞬間、夜明け前の空港が、閃光に包まれた。

数百丁の魔導機関銃が一斉に火を噴いた。

魔力を込めた弾丸の嵐が、姉妹に襲いかかる。

だが、エラーラは一歩も動かなかった。


彼女が右手を軽く振り下ろした瞬間。

前列にいた50人の傭兵たちが、地面に叩きつけられた。

アスファルトがひび割れ、彼らの骨が軋む音が響く。


エラーラは、さらに左手を掲げた。

指先から、赤熱する火球が生成される。

放たれた火球は、敵陣の中央で炸裂した。

爆風がトラックを吹き飛ばし、傭兵たちが木の葉のように舞う。


「ひ、ひぃぃっ! 化け物だ!」


「魔法使い一人に、なんでこんな火力が……!」


怯む敵兵たちの隙を縫って、黒い影が疾走した。

ナラは、銃弾の雨の中を、人間離れした速度で駆け抜けていた。

強化された身体能力。

そして、異常なまでの動体視力。

彼女は、目の前の敵の懐に飛び込んだ。

鉄扇が一閃する。

敵が構えた魔導ナイフごと、腕が切断された。


「ギャアァァァッ!?」


ナラティブは止まらない。

回し蹴りで敵の首をへし折り、その反動で跳躍し、空中のドローンを鉄扇で叩き落とす。

彼女の舞は、暴力的でありながら美しかった。

血飛沫が、朝日に照らされてルビーのように輝く。


「あっちからも来るぞ!」


「囲め! 殺せ!」


後方から、増援部隊が迫る。

距離は50メートル。

ナラティブは、走りながら鉄扇を大きく振りかぶった。

投げられた鉄扇は、唸りを上げて空を裂いた。

それは、ブーメランのように弧を描き、一直線に並んだ敵兵たちの銃身を、そして首を、次々と薙ぎ払っていく。

鉄扇は、血とオイルを撒き散らしながら、正確にナラの手元に戻ってきた。

彼女は、返り血を拭いもせず、ニヤリと笑った。

その惨状は、上空を旋回する報道ヘリコプターによって、全世界に生中継されていた。


『ご覧ください!ヴェリタス姉妹が……たった二人で、武装集団を制圧していきます!これは……これは戦争です!』


カメラのレンズが、戦場の奥、駐機場に停まっているプライベートジェットに向けられた。

タラップの下で、一人の男が逃げ惑っている。

高級スーツは汚れ、髪は振り乱れ、顔は恐怖で歪んでいる。

リニア・アルゴリズムだ。

彼は、自分の護衛たちを盾にしながら、喚き散らしていた。


『何をしてる!早くあいつらを殺せ!俺を守れ!俺は「王都の父」だぞ!金ならやる!やるから!だから、俺を機内に乗せろ!』


部下の手を振り払い、自分だけ助かろうとタラップを登ろうとして、足をもつれさせて転げ落ちる。

その無様すぎる姿が、巨大スクリーンで王都中の国民に晒された。


『リニア・アルゴリズムです!娘たちを悪魔と罵り、自分は被害者だと訴えていた男が……!いま!国外逃亡を図っています!』


世論は、完全に反転していた。

昨日まで「親不孝な娘たち」と罵っていた市民たちが、今は拳を振り上げて姉妹を応援している。

エラーラとナラは、もはや犯罪者ではない。

国を食い物にする巨悪を討つ、「正義の執行者」として認知されたのだ。


滑走路の周囲には、王都警察のパトカーと、国軍の装甲車が包囲網を敷いていた。

だが、彼らは動かない。

現場指揮官の無線に、政府高官からの通信が入る。


『……状況は?』


「はっ。ヴェリタス姉妹が、敵防衛ラインを突破。対象との接触まで、あと30秒です」


『介入は、するな』


冷徹な命令が下った。


『これは「親子喧嘩」だ。警察が民事不介入を貫くのは当然だ』


「……了解しました」


指揮官は、部下たちに合図を送った。

警官たちは、一斉に敬礼し、そして銃を下ろした。

それは、国からの明確な「処刑許可」だった。

法で裁けば、リニアはまた詭弁を弄し、裁判を長引かせ、その間に生き延びる道を探すだろう。

だが、ここで姉妹に「処理」させれば、すべては終わる。

テロリストの死体袋が一つ増えるだけだ。

法の檻は消え、残るは「暴力」による決着のみ。


「……ひっ、ひぃぃっ!!」


リニアは、ジェット機のハッチにしがみついていた。

だが、パイロットはすでに逃亡している。この鉄の塊は飛ばない。

背後から、足音が近づいてくる。

爆音の中でもはっきりと聞こえる、死神の足音。


「……ま、待ってくれ!娘たちよ! 話せば分かる!」


リニアは振り返り、両手を上げた。

顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃだ。

そこには、かつての「キザな英雄気取り」の面影は微塵もない。

ただの、死を恐れる哀れな中年男だ。


「俺が悪かった!謝る!金も返す!3000億でも何でも返すから!だから……だから命だけは……!」


エラーラが、無表情で近づいてくる。

その手には、紫色の雷光がバチバチと音を立てていた。

エラーラは、首を傾げた。


「何を返すんだい?」


「それは……」


「何を返すんだい?」


「いや……」


「私がスラムで苦しめられていたあの日々を?」


「う、うるさい……!」


「ナラティブがスラムで泣いていたあの日々を?」


「うるさいッッッ!」


「それとも、君のくだらない『設定』のために消費された、母親たちの人生を?」


「若気の至りだ!俺も苦しんでいた……!」


「嘘だね」


エラーラが指を弾いた。

紫電が走り、リニアの右足を貫いた。


「ギャアアアアッ!」


彼は無様に転がり、アスファルトの上でのた打ち回った。


「君は一度も、苦しんでなどいない。君はずっと、自分に酔っていただけだ。『苦悩する俺、カッコいい』とね。君は実に、アクティブな『引きこもり』だよ」


エラーラは、魔力でリニアの体を引きずり寄せた。

見えない鎖が彼の手足を拘束し、空中に吊り上げる。


「放せ!俺は……俺は『ゼロ・ブレイブ』だぞ!世界の均衡を守る……!」


エラーラは、冷徹に腕を振るった。

レンヤの体が、ジェット機の機体に叩きつけられた。

機体が凹み、リニアが血を吐く。

今度はアスファルトに叩きつけられる。

肋骨が折れる音が、マイクを通して全国に響く。

何度も、何度も。

まるでボロ雑巾のように、リニアは振り回され、叩きつけられた。

彼の「尊厳」は、物理的な痛みと共に、粉々に粉砕されていく。


「やめ……やめてくれぇぇぇ!死ぬ! 死んじゃうぅぅ!」


リニアは泣き叫んだ。

「痛いおじさん」の仮面すら剥がれ、そこにあるのは「痛みに怯える生物」の本能だけ。


「ちょっとエラーラ!交代よ!」


飛行場の最上階から、ナラが叫んだ。

彼女は鉄扇を畳み、腰に差した。

素手だ。

この男を終わらせるのに、武器など必要ない。


エラーラは、リニアを空中に固定した。

地上10メートルの高さ。

逃げ場のない、見せしめの磔台。


「ナラティブ!俺の娘よ!俺たちは血が繋がっているんだぞ!家族だろ?なあ!パパだぞ?」


リニアは、必死にナラティブに訴えかけた。

血縁という、最後の切り札に縋って。

ナラティブは、地上から彼を見上げた。

その目は、かつて彼を「面白いペット」として見ていた時のものではない。

ゴミを見る目ですらない。

「無」だ。


「……家族?」


ナラティブは、静かに呟いた。


「あたしの家族は、エラーラだけよ?」


ナラティブは、膝を深く曲げた。

コンクリートが、彼女の脚力に耐えきれず、蜘蛛の巣状にひび割れる。

ナラティブが跳んだ。

それは跳躍ではない。発射だ。

ロケットのように、彼女の体は垂直に上昇した。

空中で、彼女は体を捻った。

全体重と、全速度と、そして20年分の憎悪を込めた、渾身の飛び蹴り。

標的は、リニア。


「……あ」


リニアの目が合った。

迫り来る娘の足。

その向こうに見える、朝日の輝き。

それが、彼が見た最後の光景だった。

衝撃音が、空港全体を揺らした。

ナラティブの足が、リニアの腹に深々と突き刺さり……

強化された身体能力と、エラーラの重力制御による固定が合わさり、その衝撃は人体の耐久限界を遥かに超えていた。

リニアの口から、大量の血と、声にならない絶叫が漏れる。

ナラティブの勢いは止まらない。

彼女はそのまま、リニアの体を突き破った。

肉が裂ける音。

骨が砕ける音。

そして、「分かれる」音。

空中に固定されていたリニアの体は、腰の部分から真っ二つに引きちぎれた。

上半身が、くるくると回転しながら吹き飛ぶ。

下半身が、無様に地面へ落下する。

大量の血の雨が、滑走路に降り注いだ。

妄想の鎧は、生身の娘の蹴り一つ防げなかったのだ。

ナラティブが、着地した。

膝をつき、ゆっくりと立ち上がる。

その体は、真っ赤に染まっていた。

だが、その表情は晴れやかだった。

彼女の背後で、リニアの上半身がドサリと落ちた。

即死だ。

痛みを感じる暇すらなかっただろう。

彼の顔は、驚愕と恐怖で歪んだまま固まっていた。

「ゼロ・ブレイブ」の最期は、誰にも看取られず、誰にも惜しまれず、ただの肉塊として、終わった。

静寂が戻った。

傭兵たちは武器を捨て、呆然と立ち尽くしている。

報道ヘリも、言葉を失っている。

エラーラが、ナラに近づいた。

彼女は、懐から清潔なハンカチを取り出し、ナラの頬についた血を優しく拭った。

ナラは、空を見上げた。

水平線から、太陽が昇ってくる。

眩しい、黄金の光。

ゼランディアの太陽よりも、ずっと優しく、温かい光。

二人は、振り返らなかった。

背後にあるものを見る必要はない。

姉妹は並んで歩き出した。

血塗れのまま。

でも、その足取りは軽く、誇り高かった。

彼女たちを繋ぐ鎖は、断ち切られた。

残ったのは、本当の「家族」としての絆だけ。

ヴェリタス姉妹の、新しい一日が始まろうとしていた。

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