第2話:夢を追う者(2)
「お母様、呑気ね……吐き気がするわ」
ホールの中央に立つナラは、引きつった笑顔の下で、こめかみの血管をピキピキと脈打たせていた。
彼女は魔力を持たない。だからこそ、肌で感じる「気配」には敏感だ。
今夜の客層は、明らかに「濃い」。
平日には見かけない、特殊なオーラを纏った「戦士」たちが集結していた。
店のスピーカーから、脳細胞を死滅させるような電波ソングが大音量で流れる。
『ぷにぷに〜!魔法でドッカン!脳みそとろとろマジカル〜!』
その時。
エレベーターの扉が開いた。
それが、この世の終わりの始まりだった。
現れたのは、一人の男だった。
年齢不詳。着古したチェック柄のネルシャツをズボンにインし、頭には「激推し」と書かれたハチマキ、背中には亀の甲羅ほどもある巨大なリュックサックを背負っている。
彼の名はムネオ。
その瞳孔は限界まで開ききり、焦点はどこか遠くの宇宙、あるいは……彼だけの脳内設定資料集を見つめていた。
彼は入店するなり、レジにいた店長のマキヤを無視し、ホールの中心にいるナラを指差した。
そして、肺の中の空気をすべて使い切るような勢いで、声帯がちぎれんばかりに絶叫した。
「おいッッッ!!! 本来ならッ!10月4日の14時30分に!『魔法少女ポニポニぽえみ〜・王都2号店』に入店するはずだったナラちゃんが!!『トレーディングカードショップ・カドマル』の店員ユウゴに騙されて!!『SSR・覚醒魔法少女リリカル・ルルカ水着ver』の相場操作に加担した挙句に!店長のマキヤに惚れてこの店に入店したから!!ぼくとナラちゃんは前世からの因縁である『星の契り』を結べなくて結婚できないから、殺すッッッ!!!!」
時が、止まった。
店内の喧騒が一瞬で消え去り、BGMの『脳みそとろとろ』なる歌詞だけが虚しく響く。
ナラは、鉄扇を持つ手が空中で凍りついた。
(……は?)
彼女の優秀な頭脳が、必死に論理的解釈を試みる。
『ポニポニぽえみ〜』とは、何か。
『カドマル』とは、何か。
『ユウゴ』とは、誰か。
そして、なぜ、私がマキヤ店長に惚れたことになっているのか。
そもそも、ナラはこの店に自分の意志で、ただ小銭を稼ぐために応募しただけだ。
だが、ムネオにとって、その脳内で緻密に構築された「裏切りのストーリー」こそが、疑いようのない世界の真実だった。
彼はリュックサックから、禍々しい改造を施された武器を取り出した。
それは、公式グッズの『魔法のステッキ(定価2,500クレスト)』に、高電圧魔導スタンガンと五寸釘をガムテープでぐるぐる巻きにした、殺意の塊だった。
「ユウゴに騙されたんだろォォォ!あの時、カドマルのショーケース前で俺と目が合ったじゃないかァァ!あれは『助けて』のサインだったんだろォォォ!なのにマキヤとデキてるなんて!俺が『アニメショップ・デジラ』の予約特典ドラマCDを聞いて予習していた二人の新婚生活を返せ!俺の純情を返せ!『ぽえみ〜』の設定資料集第4巻128ページに書いてある通りに死ねナラティブゥゥゥ!」
ムネオは口から泡を吹きながら、ナラへと突進を開始した。
その動きは、完全に理性のタガが外れた暴走機関車だった。
「させるかァァァッ!!!」
その突進を横から遮ったのは、カウンター席でメロンソーダを飲んでいた常連客、ライゴウ大佐だった。
彼は全身を緑色の迷彩服で包み、モデルガンを改造した鈍器を背負い、首からは無数の双眼鏡をぶら下げている軍事オタクだ。
「貴様ッ!何をする!」
ムネオが叫ぶ。
ライゴウ大佐は、血走った目で叫び返した。
「黙れ貴様ッ! 貴様、以前『魔導ゲームセンター・ベガス』にいただろ!UFOキャッチャーコーナーの『限定プライズ・銀河歌姫ゆぴなちゃんアクリルスタンド』の前で、ブツブツ独り言を言っていた不審者だな!俺は覚えているぞ! 貴様のそのバンダナの柄を!貴様はあの日、ゆぴなちゃんのアクスタに向かって『パンツの色がアニメ第7話の温泉回と違う』と因縁をつけていた!」
「ちげーよ! 俺は今、ナラちゃんを殺しに来たんだよ!」
「嘘をつくな!その黒いドレス!それはゆぴなちゃんの『ダーク・フォール・ツアー・王都アリーナ公演限定・堕天使衣装』だろ!貴様はナラちゃんの姿を借りたゆぴなちゃんを襲おうとしている!ゆぴなは俺が守る!総員、第一戦闘配備! 対ストーカー用殲滅戦を開始する!状況開始ィィッ!」
ライゴウ大佐にとって、目の前の男がナラを襲っているという事実はどうでもよかった。
彼の中では、ナラの着ている黒いドレススーツが、彼の推しアイドル「ゆぴな」の限定衣装と脳内で完全に重なり、ムネオは「ゆぴなちゃんの敵」として変換されていた。
「うおおおお! くらえ! 帝国陸軍式近接格闘術!」
ライゴウ大佐がムネオにタックルする。
おっさん同士が床を転げ回り、テーブルがひっくり返り、飲みかけのコーラとポテトフライが宙を舞う。
「やめろ! 俺の『限定SSR・魔法少女インベーダーるぴ美コラボTシャツ(未洗濯)』が汚れるだろォォ!」
「ええい! 俺の『サバイバルゲーム用ナイトビジョンゴーグル』に指紋をつけるな!貴様、軍法会議ものだぞ!」
二人は互いのグッズの値段と希少性を叫びながら、泥仕合を繰り広げた。
カオスはそこで止まらない。
その取っ組み合いを見ていた、ボックス席の一人のご婦人。
彼女は昼間から安酒の『龍殺しストロング』をあおり、完全に泥酔していた。
彼女の濁った視界には、床で暴れるライゴウ大佐の姿が、なぜか「自分の息子」に見えてしまった。
「……あの子ったら……タカシったら……また……人様に迷惑をかけて……」
さらに、彼女の耳には、ライゴウ大佐の「撃滅する!」という叫び声が、アルコールによる聴覚異常でこう変換されて聞こえた。
『オッパイ、サワラセロ。』
ご婦人の脳内で、何かがキレた。
「情けないッ!情けないですよタカシ!40歳にもなって! 公衆の面前でおっぱい触らせてくれとは何事ですかッ!お母さんはそんな子に育てた覚えはありませんよ!あんたは昔からそう!水泳教室もすぐ辞めて!漫画専門学校も中退して!部屋にこもって変なお人形さんばっかり集めて!お母さんの年金をなんだと思ってるんですか!ほんとにあんたは魔導通信で女装して男の子同士でエッチなことばかりして!掃除機かけるときもゲームを……」
ご婦人はハンドバッグから、護身用の魔導短銃を取り出した。
「お母さんは許しませんよ!お仕置きです!今日の晩ごはんはハンバーグです!肉になりなさい!」
酔っ払った手元から放たれた魔力弾は、ライゴウ大佐でもムネオでもなく、あさっての方向へ飛んでいった。
魔力弾が飛んだ先。
そこには、店で一番人気のキャスト、狐獣人のリルがいた。
彼女は、別の客に「高いシャンパンを入れさせるための営業トーク」をしている最中だった。
「ひゃっ!?」
リルは獣人特有の超反応で、首をひねって弾を避けた。
魔力弾は彼女の頬を数ミリかすめ、壁に貼ってあった『リルちゃん生誕祭オリシャン予約受付中』のポスターを焦がした。
「……あぶな!」
リルは肝を潰した。
もし当たっていたら?怪我をする。いや、それ以上に……。
(あたしの完璧な『3時間かけた詐欺メイク』が剥がれてたじゃない!アイプチとノーズシャドウと魔導コンシーラーが崩れたら、すっぴんの『ただの薄い顔の狐』がバレる!そしたら客が減る!売上が落ちる!)
リルの中で、恐怖が激怒に変わった。
彼女は瞬時に周囲を見渡し、犯人を捜した。
そして、彼女の視線は、銃を撃ったご婦人ではなく、その近くで震えていた一人の地味な男客、ゴンゾウに釘付けになった。
なぜ、ゴンゾウか?
魔導短銃を持っていたのはご婦人だ。誰が見ても明らかだ。
だが、リルの被害妄想回路は違った回答を導き出した。
『今日、あたしにドリンクを出さなかった男は誰?ゴンゾウ、あいつだけだ。あいつはケチだ。ケチな男は性格が悪い。あたしを恨んでいるはずだ。性格が悪い男は、あたしの顔という商売道具を狙って撃ってくるに決まってる。銃声がした瞬間に目が泳いでいた。すなわち犯人はゴンゾウだ! 間違いない!』
論理の飛躍などというレベルではない。ワープだ。
「てめぇかゴンゾウゥゥゥ!ドリンク頼まないくせに、あたしのメイク崩そうとしたなァァァ!そのポスター、一枚印刷するのに1,500クレストかかってんだぞ!弁償しろ! 今すぐシャンパン3色入れて詫びろォォォ!金がないなら腎臓売ってこいクソド貧乏人!」
リルは狐火を纏った付け爪を立て、無実のゴンゾウに襲いかかった。
「ひぃぃ!俺は何もしてない!さっきのご婦人が撃ったんだ! 俺はただコーラを飲んでただけだぁぁ!そもそも俺は『リルたそ』推しじゃなくて『マシロたそ』推しなんだ!」
「うるせえ推し変すんなボケ!死ねッ!」
ゴンゾウの顔面に、付け爪のスクラッチが入る。
地獄の釜の蓋は、完全に開いた。
この騒動に、今まで静観していた「厄介な客たち」が、それぞれの「正義」を掲げて参戦し始めたのだ。
カウンターの端で、分厚い本を読んでいた男、通称「ドクター」が立ち上がった。
彼は「設定資料集」を聖書のごとく崇める、原理主義的なオタクだ。
「おい! そこのムネオとかいう男!貴様が持っている改造ステッキ!その先端の『星の形』の角度が、アニメ『魔法少女ルルカ』第1期12話の設定と3度ズレているぞ!公式設定資料集の394ページ、第3段落を見ろ!『星の先端は鋭角36度』と明記されている! 貴様のそれは39度だ!これは原作への冒涜だ! 解釈違いだ!修正ビーム発射!」
博士は、自作の魔導ポインターから、ただ眩しいだけの高出力LED光線を乱射し始めた。
光線が当たるたびに、誰かが「目が!目がァァ!」「閃光弾か!?」……と、わざわざ芝居がかったアニメ風のセリフを叫ぶ。
さらに、壊れた備品を見て目の色を変えた男がいた。
転売屋のケンタだ。
彼は、ムネオとライゴウの戦いで踏み潰された『ナラちゃん手書きメニュー表』を見て、悲鳴を上げた。
「ああっ!やめろ!踏むな!そのメニュー表、まだ俺が盗んで中古屋に出品してないんだぞ!俺の査定では、初版限定・誤字ありバージョンとして、マニアには8,500クレストの値がついたはずなんだ!お前ら、俺の未来の利益を!損害賠償だ!市場価格で弁償しろ!」
ケンタは、戦場を這いずり回り、壊れた備品や、飛び散ったりるの付け爪などを必死にかき集め始めた。
「これも売れる!『人気キャストの剥がれた爪』!3,000クレストはいける!誰かスリーブを持って来い! 指紋をつけるな!」
そして、極め付けは、カードゲームオタクの決闘者・ショウだ。
彼は、争いの最中に自分のデッキケースが床に落ち、カードが散らばったことに激昂した。
「じゃあああああっ!俺の『ケイオス・ドラゴン』の初期版・シークレットレアに傷がついたァァァ!完全美品査定が取れなくなるだろうが!これは戦争だ!バトルで決着をつけるぞ!俺は手札から速攻魔法を発動!フィールド上の全てのお前らを破壊する!」
ショウは、違法改造した魔導ソリッドビジョン装置を起動し、店内に巨大なドラゴンの幻影を召喚した。
実体はないが、視界を遮り、爆音を轟かせ、混乱に拍車をかける。
店内は、言葉では表現できない異常空間と化した。
「マキヤ出てこい!カドマルのカードを返せ! 俺とナラティブの結婚式場は予約済みなんだよォォ!」
「ゆぴなちゃんは俺の嫁だ!王都陸軍万歳!」
「タカシ!部屋から出なさい!お母さんの年金を返しなさい! 晩ごはんはピーマンじゃなくてタカシの肉詰めですよ!」
「シャンパン入れろ!金!金!金!あたしの顔は高いんだよ! 整形費用いくらかかったと思ってんだ!」
「助けてくれぇぇ!俺はましろちゃん推しなんだぁぁ! ましろちゃぁぁん!」
「設定遵守!原作リスペクト!394ページを読め!読まない奴はにわかだ!」
「俺のターン!速攻魔法!『暴力』!お前を墓地に送る!」
「備品が!キャストが!今日の売上がァァ!警察呼ぶな!営業停止になるぅぅ!」
飛び交うのは、魔法弾、スタンガンの火花、オムライスの残骸、そして理解不能な専門用語と数字の羅列。
そこには、会話のドッジボールすら存在しない。
全員が、壁に向かって全力投球しているデッドボールの嵐だ。
知性の欠片もない。論理の通じる余地もない。
ただ、それぞれの脳内で完結した「正義」と「欲望」が、汚い音を立てて衝突しているだけの、地獄の底の運動会だった。
この地獄の中心で、唯一の「静寂」があった。
VIP席のエラーラだ。
彼女の周りには、ナラが事前に展開していた物理防御結界があり、飛び交うオムライスも、光線も、全て弾かれていた。
「……ふむ」
エラーラは、持参した茶菓子を齧りながら、手帳にペンを走らせていた。
『観測対象。王都コンカフェに集う現代人。現象。自己愛の暴走。武器。妄想、偏愛、誤解。特記事項。客観的真実は死滅。結論。知性の墓場。』
「ナラ君?」
エラーラは、結界の外で立ち尽くすナラに声をかけた。
「面白いね。彼らは一見、支離滅裂だが、それぞれの脳内では『完璧な論理』で動いている。ムネオ君の中では、君は間違いなくユウゴに騙された悲劇のヒロインだし、ライゴウ君の中では、君はアイドル・ゆぴなだ。……誰一人として、『目の前の君』を見ていない」
「……」
ナラは、震えていた。
魔力を持たない彼女の体は、怒りと虚しさで小刻みに震えていた。
恐怖ではない。
あまりのバカバカしさと、虚しさと、そして「人間」という生き物の底知れぬ愚かさに対する、深い絶望と怒りで。
「……あたしは」
ナラの声が、喧騒の隙間に漏れた。
「あたしは……ポニポニなんとかでも、ゆぴなでも、タカシでも、転売商品でも、カードゲームの駒でもないわ!!」
「いい加減になさいッ!!!」
ナラの絶叫が、店内の怒号を物理的に押し返した。
彼女は、懐から愛用の鉄扇を取り出した。魔力はない。ただの重い鉄の塊だ。
だが、その一振りには、彼女の全ての激情が込められていた。
ナラは、一番近くにあった業務用の巨大な冷蔵庫を蹴り飛ばした。
冷蔵庫が回転しながら宙を舞い、ホログラム装置とムネオをまとめて吹き飛ばした。
衝撃音に、全員の動きが止まる。
瓦礫の山となった店内で、ナラは仁王立ちしていた。
その姿は、フリルのエプロンを着たまま、地獄の業火を背負った破壊神のようだった。
ナラは、瓦礫の中からムネオの襟首を掴み上げ、その目を見据えた。
「よく聞きなさい、妄想野郎。あたしはナラティブ・ヴェリタス。どこの店にも騙されてないし、マキヤなんて知らないし、あんたとは来世でも、その次の来世でも、宇宙が輪廻しても結婚しない!カドマルのユウゴ? 知るか! 自分で決着つけてこい!」
鉄扇でムネオの脳天を叩き割る。
次に、ライゴウ大佐を蹴り飛ばす。
「あたしはアイドルじゃない!推しを守りたかったら、現実の迷惑行為を取り締まりなさい!あと、そのナイトビジョンゴーグル、通販で3,000クレストで売ってる安物でしょ!」
そして、婦人、リル、ゴンゾウ、博士、転売ヤー、カードゲーマーの全員を睨みつけた。
「あんたたちもよ!自分の息子を店で見つけるな!飲み代くらいケチらず払え!付け爪を武器にするな!設定資料集なんて燃やしてしまえ! 転売なんてセコい真似せず働け!
カードゲームは家でやれ!ここは酒場よ!飲んで帰る場所よ!あんたたちの『人生の不満』を排泄するトイレじゃないのよッ!」
ナラは息を切らして叫びきった。
「これがあたしの『現実』よ!脳みそのシワに刻み込んで、二度とあたしの前にツラ見せるんじゃないわよ!」
全員が、白目を剥いて沈黙した。
彼らの脆弱な妄想の世界は、ナラという圧倒的な「物理的現実」の前に、粉々に砕け散ったのだ。
店内に静寂が戻った。
ナラは肩で息をしながら、エプロンを引きちぎり、床に叩きつけた。
「……帰る。辞める。」
その時だった。
破壊された入り口のドアから、カランカランと場違いなベルの音が鳴った。
入ってきたのは、豪奢なドレスを纏った金髪の美女だった。
リウ・ヴァンクロフト。
画家であり、ナラたちの友人である彼女が、なぜか申し訳無さそうな顔で入ってきた。
「あらあら。大変なことになってますわね──!」
リウは扇子で口元を隠し、瓦礫の山を見渡した。
そして、仁王立ちするナラと目が合った。
「わ……!」
ナラが声をかけようとした瞬間、リウはサッと視線を逸らした。
「……」
あからさまな「他人のフリ」だった。
彼女は、まるでナラなど存在しないかのように、瓦礫の向こうでへたり込んでいるりるの方へと歩み寄った。
「──そこの、可愛らしい狐のお嬢さん?」
リウの声色は、最初はイケメン令嬢のような、なんとも優雅なものだった。
「──大変でしたわね。怪我はありませんこと?」
「あ、はい……」
リルが顔を上げると、リウは目を細め、りるのふさふさした尻尾を凝視した。
「──素晴らしい。」
リウの口調が、少しずつ崩れ始める。
「──その毛並み、そのボリューム。──最高ですわ。」
「え?」
リウは、懐から分厚い財布を取り出し、ドンとテーブルに置いた。
「──とりあえず──シャンパン入れようか。──いや…………店ごと買い取っても、いいカナ?ねえ、お姉さんと一緒に、その、尻尾の、お手入れに、ついて、朝まで、語り合わない?私はね、こう見えてね、いいとこのね、出身でね、画家をね、やっててね、絵の参考に、ぱんつの中の尻尾の付け根を見せてくれたりなんかしちゃったりしたら嬉しいな、ナンチャッテ!あ、お姉さんは大丈夫なお姉さんだから大丈夫だよ?あ、そうだ!触って、いい? ねぇ、ちょっとだけ。根元の、とことか、どう、なってるの?匂い、とか、嗅がせて、くんない? ね?」
リウの顔つきが、完全に「極まったおじさん」のそれになっていた。
優雅な令嬢の仮面は剥がれ落ち、そこにはただの「尻尾フェチの変態」がいた。
「ひっ……!」
りるが後ずさる。
「店長ぉ!なんかへんなひとが、来た!」
マキヤ店長は、瓦礫の下から財布の中身を見て、即座に叫んだ。
「お客様ァァ!神様ァァ!リル、席につけ!何でも言うこと聞きますからァァ!」
ナラティブは、その光景を見て、深いため息をついた。
(……結局金か。そして変態か)
「お母様、行きましょ」
ナラは、尻尾に顔を埋めようとしているリウを無視して、店を出た。
エラーラも、最後の一口のマカロンを口に放り込み、後に続いた。
「……類は友を呼ぶと言うが」
エラーラが呟いた。
「君の周りには、どうしてこうも『濃厚な』人材が集まるのかね」
「知らないわよ。あたしのせいじゃない……」




