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イロガミノイロハ  作者: 伽耶
二章: The light beside me

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第20話:赤の追走

父さんが会館の職員さんに、大きめの氷嚢ひょうのうをもらってきた。

「大丈夫かい? 茜ちゃん」

赤くなった額をさすっている茜に、氷嚢を手渡す。

「じいちゃんの面打ちよりマシだろ」

もったいない精神で、ぬるくなった紅茶をすする。

「あれは構えてるから、なんとかなるのよ!」

痛みに耐えながらの返答だ。……哀れだ。

「そんなものかね」

じいちゃんの面打ちの痛みを思い出しながら、思わず苦笑した。

父さんはノートパソコンを開き、夜から依頼された楽器の所在をまとめている。

我が父ながら、できる大人だ。

先ほど聞いた小火ぼやの発生場所と楽器の所在を地図アプリに落とし込みながら、簡易的な表に名称、住所、楽器の種類、ルーツを手際よく入力していく。

「とりあえず、出かけるなら茜ちゃんが落ち着いてからにしなさい」

「わかってるよ」

横目で様子を見るが、しばらくは動けそうにない。

夜は俺の膝の上で丸まったまま目を閉じていたが、尻尾だけがゆっくりと揺れていた。

氷嚢の氷が半分ほど溶けたころ、父さんは楽器のリストをまとめ終え、茜の痛みも落ち着いたようだった。

「ごめん、馬鹿やった」

「まぁ、なんだ……いろいろありがとな」

「え、なにそれ嫌味?」

先程のやり取りなど知る由もない茜は、少し不機嫌そうに席を立つ。

夜が膝から降り、父さんへ視線を向ける。

何か話があるのだと察した。

「父さん、今日は帰れそう?」

「頑張る」

……これはダメそうだな、と思って発破をかける。

「きららが心配してたぞ」

「……超頑張る」

「無理しないでね。じゃあ俺、行くから。ありがとう」

愛娘に愛想を尽かされまいと、すぐに連絡を取り始める父親を横目に、因幡会館を後にした。

会館の入り口で地図アプリを開きながら、印刷されたリストにも目を通す。

ふわりと、どこか甘い花の匂いがした。

思わず、その方向へ視線を向ける。

ひらひらと、紋白蝶が横切っていった。

……今年は、随分と早いな。

昔読んだ図鑑には、初見は三月――南の暖かな地域、と書いてあったはずだが……。


なぜか、妙に気にかかった。


「きた!」

先に出ていた茜と合流する。

「夜ちゃんは?」

「父さんと話してるよ」

「いいの?」

「野暮だろ」

ニヤけ顔の茜に軽く苛立ちながら、夜を待つ。

「すまん、遅れた」

五分ほどして、夜が小走りで戻ってきた。

尻尾がまっすぐ立っていて、どこか柔らかく見える。

「いいよ。どこ行くか考える時間になったし」

茜に捕まってぬいぐるみ化した夜の頭を、軽く撫でた。

「父さんがまとめてくれた情報によると、楽器の保管場所と小火の発生地点はほぼ一致してる。昨日の倉庫街も、逃げ込んだ神楽殿はもちろん、市の文化会館や地区の集会所も――」

「仮説ではなく、もう断定してよいな」

緋縅が狙った軌跡が、はっきりと見えてきた。

「いまさら小火の痕跡を追うより、ある程度ヤマを張るのもありかもね」

茜は相変わらず手っ取り早い案を出してくる。

「たぶん、情報にない小火の場所にも旧家の施設がある。何かしら保管されてると思う。けど……気になるんだよな」

「なんだ?」

パタン、と夜の尻尾が揺れる。

「結局、緋縅の目的ってなんだ?

 破壊が目的なら被害が小さすぎるし、回収や奪還なら小火は逆効果だ。

 ……理由を無視しちゃいけない気がする」

本能が、小さく警鐘を鳴らしている。

「騒いでるだけじゃないの? 派手好きって言ってたし」

茜の意見も、わからなくはない。

「確かにあの鳥は阿呆あほだが……目的が見えないのは気になるな」

夜も同意する。

三十秒ほど沈黙し、思考を整理する。

情報が少ないまま戦うのは論外だ。

失うのが時間か命か――比べるまでもない。

「いったん、何件か現場を見ていいか? 理由がわかるとは限らないけど……」

「頭脳労働はあんたの仕事だから任せるわ」

ありがたい脳筋回答だ。

「近くにあるのか? できれば時間はかけたくない」

「この近くに二件ある。近い順で行こう。

 旧刈谷庭園きゅうかりやていえんの蔵館と、瓶覗寺かめのぞきでらの山門だ」

「かりやす……?」

茜が眉をひそめる。

「ああ、その刈安だ」

話しながらメッセージアプリを開き、同級生――茜とは犬猿の仲の刈安琥珀かりやすこはくに、

『暇か?』

と送る。

『ひま!!!』

秒速で既読がついた。

――どうやら、次の目的地は決まりらしい。

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